アレスティアという星を完成させる
愛は……とても不安定で、魔力よりも不確かで、言葉で言い表せない、形も種類も多種多様な存在。
恋愛、自己愛、家族愛……愛は前を向く確かなエネルギー。このドキドキがすべての原動力になる。
どんな力よりも、大きな大きなエネルギー。
私の因果は、絶望や憎しみ、破壊だけじゃないんだ。
『なんや……力が、出えへん……それに、ごっつ寂しいん……なんや、この、喪失感……』
『私も、立てない……何これ……』
『えっ、みんな大丈夫?』
『なんでニグだけ平気なのよ……あぁ……寂しい……人肌恋しい……あぁ振られてばっかりあぁぁぁぁああぁあぁぁぁあ』
『うぇぇぇんっ! もう一人でただいま言いたくなぁいぃー!』
アスターのみんなは、一人を除いてへたりこんで地面に向かって叫んでいた。みんな偏差値低いのね……
『ぐっ……愚姉よ、私まで巻き込むなし』
「偏差値低いからだよ。そういえば覇道ちゃんって分離してから恋愛経験無いよね……私のお願い聞いて欲しいなぁー」
『……勝てるなら、一回だけね』
「……ふふっ、ありがと」
《アスティちゃーーーん!》《涙が止まりません……お姉さま……会いたいです……》《アスきゅんが足りないアスきゅんが足りない……》《あずでぃ……ぎゅーしたい……》《何この大失恋したみたいな感覚……》
《《《うぇぇぇぇえん!》》》
ごめんみんな……ラグナの動きを止めるにはこれしか無かったんだ。
愛を大量消費した代償……みんな大失恋した感覚に襲われて泣き崩れていた。
みんなの盛大な泣き声を聞きながら、身動きが取れないラグナにどう追撃するか……
普通の攻撃は無効化される。
無限の槍がある以上攻撃魔法も難しい。
もう一度、愛魔法が使えれば良いけれど……愛が補充されない限り難しい。
『くっ……追撃、しないのか?』
「下手な攻撃は反撃に遭いますよね? 余力があるのは知っています……期待の愛魔法は連発出来ません……だから、こうします」
倒れている覇道ちゃんの元へ行き、身体に触れると熱い。
恋愛偏差値の影響をモロに受けている、か……ウブいのぅ。
覇道ちゃんの能力を取り込めば裏世界の力が上昇するから互角以上に戦えそうだけれど……それは違う、よね。
『……今更、負の力を上げても無駄だぞ』
「えぇ……もう、負の力には頼りませんよ。憑依合体」
覇道ちゃんとやっと憑依合体出来る……私と互角以上だったらエッチしないと合体出来ないから焦ったよ。
いや実はね、覇道ちゃんの動きを止めるのも目的の一つだったのよ。
私の目的は嫌がるから。
絶対、嫌がるから。
《《《……》》》
《くっ、ここは……愚姉の世界……みんな倒れて、どう……──っ!》
《……あずてぃだ……あずてぃ》《アスティ……ちゃん?》《アスきゅん……アスきゅんアスきゅんアスきゅんアスきゅんアスきゅんアスきゅん!》
《えっ、ちょっ……私は、違うっ! 違うからっ!》
《逃がすなぁぁぁ!》《一番乗りーー!》《アレスティアは強敵じゃっ! 全員で本気出すぞえっ!》
《《《おーーーーーー!!》》》
《いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!》
覇道ちゃんを生贄にして、愛魔法を連発する作戦。
……覇道ちゃんごめんよ。
覇道ちゃんは私だから大丈夫。うん、お姉ちゃんの為に頑張ってねまじで。
……お蔭で、愛が充填されていくから。
『なに……なんだ、その魔力とも違う波動は……力の概念を捻じ曲げる気か……』
「上手く、いきました。賭けに勝ったから、次は勝利の道を行くのみっ! 毒酒ちゃん! ラグナさんを拘束!」
《うん、我慢して待ってた。禁毒作製・万年蠱毒の毒神怨亡》
──ニクイニクイニクイオマエラノシアワセナンテコワレテシマエニクイニクイニクイ!
『これは毒酒の……ぐぁぁぁぁ!』
怨嗟の篭ったどす黒いエネルギーがラグナを包み、拘束しながら浸食。弱っているからよく効く……何この毒……怖いんだけれど……
いかんいかん気を取られてしまう、これが、最後のチャンスなんだ。
「……ねぇ、ヘルちゃん……来てくれないかな?」
《……わかった》
私の隣に、少し不機嫌そうな表情のヘルちゃんが出てきた。
ヘルちゃんだけ、星の核の力を与えていない。愛魔法の範囲からも除外している。
だから仲間外れみたいな状態で、待っていてくれた。待たせて、ごめんね。
「約束を果たすのに……お願いを聞いて欲しくてさ」
「良いわよ。自信があるのなら、やりなさい」
「……本当に、良いの?」
「えぇ、私は幸せなの。貴女の将来を決める闘いで、隣に立っているのよ?」
「……へへっ、もっと幸せにするから」
「違うわ。一緒にもっと幸せになるのよ。みんなもね」
ありがとう。
ヘルちゃんは、聖女だ。ただの聖女。
でも聖女は可能性の塊だ。
キリエが邪悪を取り込んで咎人になったり、己を突き通したリアちゃんは大聖女に……進化先が幾つもある特殊な性質がある。
「ヘルちゃん、私の核の欠片を貰って欲しい」
「貴女の命を、分けてくれるのね……ふふっ、プロポーズみたい」
「プロポーズだよ。今、この場で、私達は結婚する。結婚したら、ヘルちゃんは人を超越した神を超える存在になる……その覚悟はある?」
「えぇ……喜んで、お受けします」
へへっ、嬉しいなぁ。
……愛が、急激に充填されていく。
みんなが覇道ちゃんに勝ったんだな。
よし、これで準備は整った。
「私と貴女は二人で一つ、未来を共に歩み、支え合い、生涯愛する誓いを……愛魔法・愛零星の花嫁」
私の心臓に埋め込まれた星の核をぬるっと取り出し、すっかり小さくなった星英旅団を手元に降ろす。
そして星の核をパキッと割って、星英旅団と融合し、ヘルちゃんの胸に押し当てる。
意外にパキッと割れるよ。持ち主だから。
「……パキッと割ったところでなんかムードが壊れたわ」
「我慢してよ。花嫁魔装創るから」
「魔装じゃ嫌。ドレス選びと結婚式の演目選びしたいから今度改めてやるわよ。私はもっと沢山の人に自慢したいの」
「はははっ、そうだね。みんなでウエディングドレス着たいし……っと完成だ」
虹色の環がヘルちゃんに入り込み、光が収まった。
ヘルちゃんの見た目に変化はほとんど無い。他人から見たらいつものヘルちゃんだ。
でも私だけ解るんだ、愛の属性を得た聖女となって、人というよりは星に近い存在になった事。
ヘルちゃんも、私と星の核を共有した意味が解ったみたい。
「……なるほど、全て愛を基準にするのね。本来干渉出来ない他人の愛に干渉……凄く卑怯な魔法ね」
「そう、私達が一緒に居る限り、無敵なんだ」
ヘルちゃんの進化が終わった時……
──ドォォオオン! と、毒酒ちゃんの万年蠱毒の毒神怨亡が弾け飛んだ。
毒酒ちゃん、ありがとね。
『はぁ、はぁ、仲間が増えようと、銀河の一撃は崩せないっ! 貫け!』
拘束される前よりも、遥かに大きな力を纏った無限の槍が、私の心臓目掛けて突き放たれ……
直前で止まった。
【……ラグナちゃん? どうして止めるの?】
『……止めたのは、トリスだろ?』
【……? 銀河よりも強力な力なんて……】
『そんなの、あるわけ……』
「無いですよ。みんな誰しも、壊せないもの、愛するものがある。恋人、友達、思い出、自分、欲望、信念……それを私と彼女に置き換えただけです」
『だからと言って、攻撃が止まる理由には……』
「なるんですよ。愛の聖女が愛を増幅させ、愛の星が愛を制御する。つまり、ほんの一欠片の愛さえあれば、私達に危害を加えられない。意思ではどうする事も出来ない魂に刻まれた愛を制御しています。だから、攻撃を止めたのは貴女方の意思です」
『……攻撃が封じられただけ。手は沢山ある』
ラグナが私達から離れ、槍を天に掲げて魔力を増幅させた。
虹色の環が天高く舞い上がり、魔法陣が刻まれていく。
銀河の魔法か……
「アスティ、怖いわ」
「大丈夫だよー」
「違う、肩を抱いて愛の言葉を囁きながら安心させなさいよ」
「気持ち余裕じゃん」
魔法陣から、今にも暴発しそうなエネルギーを内包した超密度な球体が現れた。
アスターのみんな死ぬんじゃないかな……あっ、無事な人が避難させている。
『全て、巻き込んでしまえば良いさ。銀河魔法・ビッグバン!』
──────!!
……音なんか遥か後方に置いていくような、世界丸ごとぶち壊す大爆発が起きた。
私達の周りを除いて全て吹き飛んでいく……
「ねぇ、私達が無事なのはどういう原理?」
「ラグナさんと槍のトリスちゃんが無意識に私達を避けて放っているんだ。つまりはまぁ……私達を守っているに近い」
「敵対しても嫌でも守ってしまう。ある意味平和な魔法ね」
「そう、だから無敵なんだ。敵がいなくなるんだから」
『……駄目か』
ラグナが槍を構えて臨戦態勢を保ったまま、近づいて来た。攻撃のチャンスを探るには対話が有効と判断したか。
「どんな攻撃も、私達には効きませんよ」
『そのようだね。さて、効果が切れるのを待つのも良いが、まだ何か隠しているかと思って来てみた』
「はい、もちろん隠しています。聞きたいですか?」
『あぁ折角だ、聞かせて欲しい』
「彼女、ヘルトルーデは目に映る全てに愛を与えます。それに加え、私と共に居る事で与える以外にも減らす事も無くす事も出来るようになります」
『私の愛を無くすという事か?』
「はい、愛を無くせば私達に余裕で勝てます。でも、大事なものを大事と思わなくなります」
『……それは、嫌だな』
他人の愛に干渉出来るだなんて、卑怯だよね。一番大事なものを奪うんだ……私だったら絶対敵になりたくない。
愛を無くせば私達に勝てる。
でも愛が無いと、戦う意味が無くなる。仲間や家族を大事に思えなくなる。
「ラグナさんは、とても愛が深い方です。一途で、不器用で、とても温かい愛を無くすだなんてしたくはありません」
【……ラグナちゃん】
少しの間沈黙していたラグナが構えを解き、ふぅっとため息を吐いた。
吹っ切れたような、清々しい顔で、とても嬉しそうな表情が印象的だった。
『私の負けだ。この愛だけは、守りたい』
「……ありがとうございました。本当に、思い出に残る戦いでした」




