みんなの愛が
あぁやっと書けた……
星英旅団は星体観測とは比にならないくらいの大規模な……銀河の魔法。
魔法と言って良いのか……こんな規模、裏世界でしか使えない。大規模な星座を集結させ、力任せに手を加える……みんなの星を白金の星の衛星にして、虹色の環を持つ天体が完成した。
そして、裏世界からエネルギーを吸い上げていく。
『……銀河……だと』
銀河の魔法は、星の核の集合体……銀河の核が無いと使えない。
でも銀河の核の代用は出来た。
私の中に居る一人を除いたみんなに星の核の力を分け与え、みんなを擬似的な星の核として機能させた。
「星英旅団の効果は、願いを叶え続け、裏世界から力を吸収し続ける魔力切れの無い永久機関」
私は星の中でも他の星や世界のエネルギーを吸収する星喰いの特性を持っている。その特性を最大限に伸ばした形だ。
そして力に応じて叶えられる願いが強力になっていく。
何が凄いって、最強を超える最強になりたいって願えば超えられるんだ。
今も私の願いを聞き入れた星英旅団が世壊神滅を取り込んで輝きを増していく。
世壊神滅が吸収され、攻撃に耐えていたラグナの姿が現れた。外見に変化は無いけれど、結構力は減っているからダメージはあるみたい。
これなら、勝機はある。
『ふふっ、この光で私は何回死ぬかな……』
「防御はしてよ。零の力が強いから、リスポン能力消されないようにしてね。先ずは、試運転……銀河魔法・世界滅亡」
──キィィィィィィン!
……白金の星から放たれた光が大地を貫き、甲高い音が響いたと思ったら……視界に広がる全てが大爆発していた。
世界一つ分の面積が、簡単に滅亡……溜めが無いから、こんなの反物質精製より早くて殺傷能力が高い超攻撃魔法だな。
……爆発が晴れた先、地平線が広がる大地の中心で膝を付いていたラグナの漆黒のウエディングドレスが破け、また再生したけれど力は減っていた。
遠くで、アスターのみんなが結界を張っているけれど……結界はボロボロになっている。なんとか防いだみたいだな。
『くっ……なんて、規模だ。本当に、銀河魔法なのか……ははは、凄いな』
「裏世界の女王は長い時間保てないみたいですね。それなら、銀河魔法・世界再生百倍速」
滅亡させた世界を、超速再生。
木や草が生えてきたけれど、歪な形になっていた。
もう、再生する力が無いから私の力で無理やり再生させて異常が出ている。
『……歪みが……まさか、世界の歪みも操れるのか……』
「世界への負担が大きければ大きいほど歪みは発生する。私が作った歪みだから、操れる。銀河魔法・不合理な成れの果て」
再生した歪な世界を、掻き混ぜるようにバランスを崩した。
バキッ……と空間が壊れていく。
世界規模の空間ごと、壊してしまえば逃げ場は無いから大ダメージは避けられない筈。
ラグナが魔力を練ろうとしたけれど、歪みが激しくて魔力が四散していく。
ラグナの辺りは念入りに壊して、歪ませて、再生させて、歪ませて……
『ぐっ、あぁ、なんて、力だ……裏世界の女王で、余裕だと、思ったのに』
「降参するなら今の内ですよ。時間経過と共に私の星英旅団は裏世界を侵食して力を増します」
『裏世界を、取り込む、気か……』
「えぇ……出来るだけそうします。星喰いである私の本質ですから」
『くくっ……はははっ……意思を持つ星は、厄介だな』
ラグナの腕に、ヒビが発生し始めた。
もう、限界……? でも余裕な顔は崩さない。
その余裕、壊してやるよ。
「厄介ついでに、追撃させてもらいます。星英旅団・願い星! とうっ!」
虹色の環が球体に変化し、白金の星の衛星となってゆっくりと回り始めた。
そして私が星に飛び込み、内部へと入る。
ふっふっふ、これでこの星を壊さないと私に攻撃出来ない。
覇道ちゃんは……まぁなんとかするでしょ。
『あの時の銀河に匹敵する、か……天才を超えた異才……特異点。違うか? トリス』
【ふふふー、特異点で収まれば良いけど。ではではお困りのラグナちゃん、私の準備は終わったよっ】
やっぱり来たか……ラグナの前に、黒い槍が突き刺さり……私の歪みを貫き裂いた。
そして、黒い槍から虹色の環が発生し、ラグナが槍を手にした瞬間……虹色の環が鮮やかに輝いた。
はははっ、本気中の本気ってやつか。
「ふぅー……落ち着け落ち着け。あの槍……本物の銀河の核を超える願いを、叶えるんだっ! 極銀星波!」
あの槍は、ルルがずっと守っていた槍は、銀河の核を封印した槍。
本物の星の核を集合させた、表世界最強の力。
……超えてやるさ。今までも、超えてきたんだ。
インフィニティエナジーにみんなの力を乗せて、最大出力!
『さぁ、無限の槍よ。狙うは一点……信じているよ』
【力場大変換、攻撃力無限、防御力無視、神速到達……準備オッケーだよ】
『……貫け』
ラグナが槍を構え、ぶん投げた。
私の極銀星波が放たれ、白金の光が槍ごとラグナを飲み込んでいく。
極銀星波は当たれば、勝ちを確信出来るほどの威力。
集中しているせいか、ゆっくりに見える映像の中で、ラグナに当たった感覚がした。
──チッ……
その時、私の身体を何かが通り抜けた。
……
……
「──ごふっ……まじ、か」
嘘だろ……貫かれた。
不幸中の幸いか……心臓の、すぐ横。
心臓は、星の核がある。これを貫かれたら、私だけじゃない……みんなも死ぬ。
それに、完全無欠の永久不滅が効かない。どこが完全無欠だよ……銀河の核は対象外なのか……
みんな、回復に全力を注いでいるけれど……間に合わない。
『凄いな……貫けた……追撃まで、何分?』
【はぁ、はぁ、ちょっと待ってね……銀河の解放は大変だから】
『無理は承知さ……もう少しだけ、私のわがままに付き合ってくれ』
【もちろん、そのつもりだよ。ラグナちゃんの為なら……ぅぐぅっ……】
仕方ない……反撃の前に死んでしまうから、願いを、回復の願いに変えよう。
傷は塞がってきたけれど……まずいな……星英旅団が縮小してきた。
少し怖いけれど、出るか。
星英旅団から出て、ラグナの前に降り立った。
黒い槍から虹の環が消え、ラグナからは疲労が見える。追撃は……もう少し先か、安心は出来ないけれど。
「はぁ、はぁ、流石、本物の銀河は違いますね」
『……降参するなら今だぞ』
「ははは、降参? する訳無いじゃないですか」
『ふふっ、愚問だったか』
……槍からまた虹の環が発生した。
正直、星英旅団を回復に回して……打つ手は無い。
覇道ちゃんは、すぐ近くで倒れている。生きているけれど、死に過ぎたか……
このまま、負けるなんて……したくない。
でも、残された力は微々たるもの。
半端な力は通じない。
今更力を溜めても間に合わない。
どうする、どうすると考えても……
……最後の、賭けはある。
でも、それは……みんなが犠牲になる。
それは……
《アスティ、我らの心は一つだ》
《アレスティア、思うようにやりなさい》
ルゼルおかぁさん……ルナお母さん……
《アスきゅん、見届けさせてよ。天異界で一番になるところ》
《まっ、わっちはお主に返し切れん恩があるで任せるがな》
リアちゃん、アテアちゃん……
《アスティちゃんなら出来るよっ!》《アスティさんっ! ファイトですっ!》
みんな……ありがとう。
『覚悟は、良いか?』
「はい、これで駄目なら、私の負けです」
この魔法は、魔力をほとんど使わない。
代償が要る。
『そうか……これで終わりだ』
槍を構え、先端は私の心臓を狙っている。ラグナの攻撃が決まれば、私の負け……
「……愛、魔法」
『貫け……なに……?』
槍を突き出す寸前……ラグナの動きが止まった。酷く困惑した表情で、身体の力が抜けるようにゆっくりと膝を付いた。
「……恋愛、偏差値」
賭けは、ギリギリで勝った……のか?
いや、駄目だ。足りない……
《ぐっ、ぅぅ……アスティ……》
《こ、これ、は……》
ラグナの力を抑えるには……足りない。
『何を……した……』
「愛の、魔法です……ぐっ、はぁ、はぁ……この場に居る……恋愛の偏差値が、高ければ能力上昇。低い者は、歩行困難になるほどに能力が低下する……くふふ、どうやら、私が、一番みたい、ですね」
『……知らない、魔法』
私、覇道ちゃん、ラグナ、アスターのみんな、そして私の中のみんな……その中で恋愛偏差値を測る。恋愛をすればする程強くなるリア充魔法……一人を深く愛するよりも、恋愛の数が優先される。
こんなの賭けだ。もし、ラグナの恋愛偏差値が高かったら死んでいたから。
ほんの少し自信もあった。ママンがアスターの寂しい連中って言っていたから。
でも今ので、かなりの愛を消費した。ラグナの力を抑えるにはまだまだ足りない……せいぜい少しの足止めだ。どんだけ強いんだよ。
「愛は、私の属性です。そうだ……改めて、御先祖様に自己紹介をしましょう……私は、素敵な女神様に名付けて戴いた真名があります。愛・零・星……愛の始まりを冠する星、アレスティアと申します」
あぁくそ……少しの間動きを封じただけじゃ勝てない。
愛が、足りないな……




