最強に挑む
更新遅れてすみません。ちょっと、収穫の秋という名の地獄を体験していまして……
私の中で最強とは、圧倒的強さと揺るぎない精神力を兼ね備え、何年、何十年、何百年、何千年と頂点に君臨し続ける事を指す。
今、目の前に居るのは、私の中で完璧なまでの【最強】だ。
だって、もう、綺麗なんだ。これ程までに綺麗な武神装があるのかと思うほど……裏世界の女王と呼ぶに相応しい。
『ふぅ……鈍っていない事を祈るか』
真っ黒いドレス……普通のドレスじゃない、これは、ウエディングドレス……全身黒いのに、祝福を受けたような澄んだ空気を纏って、黒く禍々しい負のオーラが鮮やかに見える。
私の時と、全然違うな……この差はなんだよ……
ラグナと閻魔の相性が良いという事、か。
まぁ……私は条件を満たしただけだもんな。
ウエディングドレスに黒い槍が似合わないようで、凄くしっくりくる……ずっと見慣れた姿のような、変な感覚だった。
槍を愛おしそうに撫でる姿が妖艶で……黒く細やかなヴェールの向こうにある視線が、少し寂しそうに見えた。
……懐かしい。こんなにも懐かしい気持ちになるのは……どうしてだろう。
「あぁ……綺麗……覇道ちゃん、私の裏世界の王と比べて、どれくらい違う? ……覇道ちゃん?」
覇道ちゃんを見ると、涙を流してラグナを眺めていた。
私と同じ、懐かしい気持ちに鳴っているのだろうか……邪悪、混沌、破壊の適性を持つ者同士の共有なのか。
『ねえ、国を出た時を覚えている? 世界で一位番強くなりたいって、空を見上げた時……』
「……うん、無性に一番になりたいって思った」
『きっと、この時の為なんだ。ラグナさん……裏世界の女王と戦う為に……目の前に立つ為に、私達は戦ってきた』
……今、言われて凄く納得したというか……そうだ、そうだよ……今、心が震えている。
これは、私の、私達の因果、宿命というべきか。
まるで、ずっとこの時を待っていたみたいな。
【────!】
「ぅ……なんだ、声が……」
頭が、痛い。
凄く、眠い……こんな時に……幻聴も聴こえるし……
でもこの感覚は、覚えがある……自殺の名所でアラスの記憶に喚ばれた時と、同じ……
《アスティっ! 声が届かんっ! ルナリードっ……ルナリード? どうした?》
《……あの槍に共鳴しているみたいだ。あの槍は昔、私を助けてくれた仮面の者が持っていた》
《共鳴……まさか……》
《知っているんだろ? あの槍が何か》
《まぁ、な。ラグナが武神装をした時点で隠しきれんか……しばらく我らも手出し出来ないようだし、話してやる》
《良いのか? みんなに聞かれても》
《聞いてもらった方が良いさ、みんな集まってくれ》
あーうー視界が歪んできた。
困ったちゃんだ。
私がこんなになるってどこかの星の仕業か? でもここ裏世界だし、他の次元から呼んでいるの? 星って空気読まないからなぁ……
『……大丈夫?』
「っ、覇道ちゃんが心配してくれるなんて……お姉ちゃん嬉しい……ちょっとごめんね、凄く、眠いんだ」
『ラグナさん、愚姉に何かしました?』
『ん? していない……いや、槍と共鳴しているみたいだ』
【ラグナちゃん、アスティちゃんとオハナシしたい】
ぐわんぐわんとかぐいーんって感じで頭が痛いし今にも倒れそう……今覇道ちゃん私の事をお姉ちゃんって呼んだような気がする。
呼んだよね? 呼んだよね?
お姉ちゃんって。お姉ちゃんって呼んでくれたぞぉぉ……嬉しいんだけれど、余裕無いのよ。
こんな時に、なんなんだ。
ラグナが覇道ちゃんに何かを言って、私の所に歩いて来た。一歩一歩、見惚れる程に綺麗だというのはわかる……いや本当はそんな事を考える余裕は無い。
『アレスティア、槍が話したいみたいだから、預かっていてくれ』
「えっ……?」
えっ、槍を渡された。
なんで?
持ってみると、凄く軽い……吸い付くような、心をぶっ刺されたような威圧感もあるし……少し具合が良くなってきた。
【アスティちゃん、私の事、覚えてるかな?】
「あぁ、あのルルさんの、槍に住んでいる、妖精さん、ですよね? その節は、お世話に、なりました」
【こうして直に会えたから嬉しいよっ。核同士が共鳴しているだけだから、慣れるまで少しの間我慢してね】
「核? 星の核が、あるんですか?」
【うん、星というかまぁ槍の中にあるよ】
「じゃあ、ルルさんは、ずっと星の核を、守っていたんですね」
【そんなところかなぁ。ルルちゃんもこの戦い次第で、役目が終わるかもしれないから……折角だし、天異界創設前に色々あったんだけど観る? 私のせいで動けないから、その間アスティちゃんを護るよ】
「じゃあ、お言葉に、甘えて……覇道ちゃん、少しの間、頼むね」
『寝ていて良いよ。私は夢のその先を見るから』
今の私は役立たずだから、覇道ちゃんに任せよう。
負の力同士の戦いだから長期戦になりそうだし……二人とも楽しそうに笑っているから、寝ている間に終わる事は無いはず……
『さぁ、私も心が踊っている。手加減は出来ないが、楽しもうじゃないか』
『手加減なんてしたら、許しませんよ。魔神装・破滅の戦乙女』
『……ふふっ、やっぱり似ている』
覇道ちゃんの背中に、白と黒の翼が生え、銀色の鎧を身に纏った。
それ、リアちゃんの魔神装とキリエの魔装がモデルよね。私、それと似たようなのやろうとしたら出来なかったのよ。後でやり方教えてよねっ。
とは思ったものの……ダサい私が格好良い系の変身なんて出来る訳無いか……なんて思っていたら、意識が飛んでいた。
──オォォォオオオォォォオ……
……なんだ、これ。
『お母さんっ! お父さんっ!』
『ルナっ! 駄目だっ! 早く次元の狭間に入るんだ!』
『まだみんなが居るのにっ!』
『みんなはもぅっ! くっ、仕方がない……』
『お姉ちゃんっ! いやだっ! 行きたくないっ!』
『もうこの世界は手遅れなんだっ! 逃げるしか、無いんだ』
目の前には、どす黒い負の力に包まれた世界があった……死の星になる一歩手前……黒髪の少女が銀髪の少女を無理矢理次元の亀裂に押し込んでいる場面。二人の顔は泣き腫らしてぐちゃぐちゃで、見ていて辛かった。
……ここは?
【ここはラグナちゃんの故郷だよ。と言っても、もう無いんだけどね】
故郷……? あっ、妖精さん……?
【ふふふー、トリスって呼んでね】
私の隣に私と同じくらいの歳の女の子が立っていた。ぱっちりお目々の金髪美少女で、ヘルちゃんと似た雰囲気だから聖女さんかな? トリスちゃんって槍というかお星様の類なんです?
【んー……槍に住んでいる引きこもりかなー】
槍がお家なんですね。あっそうだ、聞きたい事がありました。
【なーに?】
女神アラステアちゃんに星砕きを渡したのは、星になった私を殺す為ですか?
【破壊の覚醒を間違えて覇道ちゃんが星になってしまったら、かな。本当はアスティちゃんが星になった未来までは視えたんだけど、その後がわからなくてね】
そう、でしたか。私が星になるのも、運命だったんですかね。
トリスちゃんは微笑んで、運命なんてコロコロ変わるもんだよ……と私に聞こえるかわからない声で呟いた。
『少しの間で良いので……この世界に置いてもらえませんか?』
『はぐれの神の子供かい? はっ、困るね。他を当たりな』
『お願いします……せめて妹の体調が良くなるまで……』
『私、大丈夫、だから……』
『出て行けって言ったのが聞こえなかったのかい? 神格がなくなっても人間に堕ちるだけじゃないか? ほら私は忙しいんだっ! 出て行きな!』
ラグナと妹のルナは、自分の故郷を失ってはぐれの神として次元を渡り歩いた。
渡った先で、その世界の神に良い顔はされなかった……そりゃ見ず知らずの神に優しくするなんて博打みたいなものか……下手したら乗っ取られるなんて思ってしまうだろうし……
『お姉ちゃん、こんなとこ出て行こう? またお姉ちゃんが殴られるの嫌だよ……』
『痛くないから大丈夫さ。ルナは私が守るから、安心して』
『お姉ちゃん……お家に帰りたいよぉぉ……ぅえぇぇぇ……』
『……私が居る。私が居るから』
二人は牢屋のような部屋で、身を寄せ合っていた。前と違う世界みたいだけれど、良い環境とは言えないな……
ルナは、名前は似ているけれどルナリードではないか……なんか、ラグナってルルに似ているから、ルルだったりして。それかさっき居たバニーガールの良い尻のお姉さんかな。
【うーむ……これは初めて見たなー。ラグナちゃんの記録を見せるなんて、アスターの仕業かなー】
アスターの? 星がこれを見せているんですか?
【恐らくね。ここは裏世界だから、色々な星が介入してくる事もあるんだ。あっ、また場面が変わった】
これがアスターの仕業なら、何を見せたいのかな?
なにか意味があっての事だと思うけれど……今度は、また違う世界かな。
ごちゃごちゃしたこたつが真ん中にある部屋に姉妹が来ていた。
妹は、前よりも痩せて……今にも倒れそう。ラグナも、疲労なのかフラフラしていた。
ごちゃごちゃした部屋の奥から……おや?
『少しの間、置いて、くれませんか……なんでもします、から』
『んー、はぐれの神やんな。みんなに聞いてみんとわからんで、ちょい待っとってな……とりあえずなんか食うか?』
『いえ……みなさんを、待ちます』
『そんなん言うてもみんな時間守らんのや。明日になるかもしれんし……名前は? ウチはテラティエラ、テラって呼んでな』
テラ……今と全然変わらないな……変わっているところと言えば、寝癖が酷いくらいか。
テラがにししと笑って、みかんみたいな果物をぽいっと投げ渡した。
『ラグナレヴィアです。ありがとう、ございます』『……ルナライトです』
『なんや辛気臭い顔して。まぁ、はぐれの神の扱いなんて予想は出来るんやけどな……あっ、来た来た』
『テラ、何よ緊急の用事って……あら?』
『ちょっと部屋散らかしたの誰よもぅ……ん?』
『テラー、今日は早く来てやったぜー……あん?』
ヴェーチェ、アクア、フラマがやって来た。やっぱりここはアスターか。みんなも今と変わらない……というか、部屋汚ねえな。真ん中のこたつ周りだけ綺麗で、あとは汚ねえ。どう汚ねえって、みんなの名誉の為に伏せるけれど……この部屋に女子力は存在しない。
【この当時は駄女神四柱で有名だったみたいだよ。ガサツのフラマ、堕落のヴェーチェ、居眠りアクア、空回りのテラだったかなー】
……その二つ名、今もそんなに変わっていない気がする。
『みんなー今日から新しい仲間が来たでー。ラグなんとルナちんや』
『えっ……あの……』
『よろしくなっ!』『やったー仕事減るー』『頑張ってねー』
【ラグナちゃんとルナちゃんがアスターにやって来たお話だねー、きっとアスティちゃんに見せたいのはこの先の話かな……ついでだからラグナちゃんと覇道ちゃんの戦いも観よっか】
トリスちゃんがタブレットを出して……おー、覇道ちゃんとラグナが戦っている。
観戦出来るのね。
『久し振り過ぎて、慣れるまで時間が掛かるか。邪悪、混沌、破壊魔法……終末の夜』
『なら私は、夜を終わらせましょう。神級魔法・正義の審判』
暗く、淀んだ空に覇道ちゃんが聖なる魔法の柱を立てた。格好良いよ覇道ちゃん、凛々しいよ覇道ちゃん、頑張れ覇道ちゃん。私が戻るまで生きていてね。




