約束は、もう破りたくないから
地面や空中に乱立していた汎用型魔法陣が輝き、様々な色に変化していく。前よりも、格段に多く、輝きが大きい。
『裏世界は……よく馴染む。神級邪悪魔法・クリムゾンフレア・ジ・アビス』
「覇道ちゃーん、今十ぱーせんとだからねー」
赤い魔法陣と黒い魔法陣が合体した。
そして上空に太陽のような蒼い炎の塊が現れ、内側から暗黒の炎がうねりを上げて蒼い炎を染めていく。
ダメージゼロ状態じゃなかったら焼け死んでいそうな気温の中、ラグナは上を見上げながら拳銃を上下に構えて……防御の型か。
さっきから魔法を使わないのは、何か理由があるのか?
『神級魔法は、本来神でも簡単には扱えないんだがね……因果の力か、それとも……』
黒く染め上げられた炎がラグナに直撃し、大地に触れた瞬間にドロドロと溶けていく。覇道ちゃんだけでも充分渡り合えそうだな。
更に青い魔法陣と黒い魔法陣が輝く……
『手応えは、無し。それなら……神級混沌魔法・アブソリュートゼロ・ジ・カオス』
……あの、覇道ちゃん、全体攻撃するなら声掛けてよ。
いやそれ以前に私まで巻き込まないでよ、痛いんだよ。
混沌の力で感覚がぐちゃぐちゃ……意識があるのか無いのかわからなくなりそうで、これ呪いか……呪いも駄目よ。
……なんか雨が降ってきたな。痛い、ちょっ、まじ痛い。この雨お肌の敵よっ!
「覇道ちゃん、なんか痛いのよー、今二十ぱーせんとだよー」
『……破壊の雨』
お月見ゼロアーマーが溶けそうだ。傘を広げてみよう……一瞬で壊れたな。
ルナお母さん破壊防御の傘かなんか下さい。
《傘? あったかな? んー……無いな。ルゼル、付与するからなんでもいいんだが傘あるか?》
《あぁ……傘なんて使わないからこれしか無いぞ》
《こんな物どこで買ったんだ? まぁ良いか》
傘が目の前に出てきた。セーラー服のスカートみたいな見た目だな……広げると……おぉっ! 見上げると白いパンティーっ! 破壊の雨から守ってくれる白パンティー傘なんて最高な傘持っているじゃんっ! これ下さいっ!
《それ傘じゃなくてな……まぁ、良いぞ》
「覇道ちゃん相合傘しよー」
『邪魔』
「えー、大人モードじゃないって事は私に合わせてくれているんでしょー? 仲良くパンティ眺めようよー」
『戦闘中、空気読めし』
「という事わぁ、戦闘が終わったらイチャイチャしてくれるのー?」
『……はぁ? 神級破壊魔法・破壊の神鎚』
きゃー可愛い。反抗期の素直じゃない感じ好きー。もぅ、可愛いんだからっ。破壊の雷をモロ落とされているけれど、私がパンティ傘をしているってわかってやっている辺り素直じゃないねぇもぅっ!
「覇道ちゃん覇道ちゃん五十ぱーせんとだよー」
『そんな報告いらん、集中しろし……っ!』
──パンパァン!
あっ、覇道ちゃんが私の方を向いた瞬間に弾丸がこめかみを貫いた。一瞬ぐらっと身体が動き、ラグナを睨みながら元に戻った。リスポンしたのね。
因みに私もデコを撃たれた。でも顔は常に盾の世界で防御しているから貫けないんだけれど、まぁ、血出たよね。たんこぶ出来て悲しいのよ。
世界を貫く弾丸かぁ……まだ防御用になら世界は創れるから増やしとこ。
『破壊の力は……これも歪み無しの力。流石だな、覇道のアレスティア……覇道が名前で良いのか?』
『私もアレスティアですが、そこのウザいアレスティアと同じは嫌なので覇道で構いません。破壊神剣・覇剛!』
覇道ちゃんがラグナに斬り掛かり、近接戦に持ち込んでいく。
相変わらずボロボロの咎星剣は、よく折れないなぁと思うけれど、折れるという概念が無い剣だから折れないという謎理論の剣。
ママンは一度、覇道ちゃんから咎星剣を返して貰っていたけれど、メンテナンスしてまた渡した辺り……覇道ちゃんも可愛い娘だと思っているんだろうね。
ママン、そこんところどうなの?
《反抗期のツンツンアスティもめった可愛いに決まっているっ》
『相変わらず、良い剣だな。銃が壊れてしまったよ』
『にしては随分余裕ですねっ! 破壊神剣・覇暴撃!』
黒い拳銃がひん曲がって、覇道ちゃんが咎星剣に破壊の力を乗せて追撃。
ラグナが黒い拳銃を消して、腰だめに拳を構えた……攻撃の型。
『はぁ、そのリスポンは厄介だね。金魔業龍拳・瞬撃』
振り下ろされた咎星剣が拳で弾かれ、空いた脇腹に回転の加わった一撃が決まった。黒い鎧を砕き、バキバキと骨が砕ける音が響いた。
『がはっ……』
……えっ、強くね? 一撃で魔神装砕いたって事でしょ? しかも素手だよ? 素手で咎星剣弾いたぞ……
『神級魔法を攻撃力に変換し、返しただけだがな。金魔業龍拳・葬撃』
ふわりとした足取りですれ違い……覇道ちゃんの身体がくの字に曲がって、打ち上げられながら全身に打撃の連打が襲った。
魔神装が砕け、インナー姿になった所で私の脳内からキャーキャー聞こえてきた。
黒いスポブラに黒いタイツ……谷間、だと……スポブラ着ているのは嫌みか? なんて思ってしまうよ……
『……武器作成』
うわぁ……ラグナが打ち上げられた覇道ちゃんの真上に転移。
白と黒の銃を合わせて、違う武器……巨大な白と黒のハンマーに変えた。武器作成速度が恐ろしい程に早い……
『させ、るかぁ! 破壊神絶砲!』
『天獄剣・神鎚』
覇道ちゃんが空中で体勢を立て直しながら破壊の一撃を放ち、ラグナが対抗するようにハンマーを振り下ろした。
力は互角、覇道ちゃんが汎用型魔法陣を発動させ黒い鎖をラグナに巻き付けた。
『はぁ、はぁ、裏奥義……神殺し』
『くくっ、やるねぇ』
落下しながら、咎星剣を振るう。
黒く、禍々しい力を持った円柱がラグナを中心に聳え立った。私の時よりも、遥かにデカイ。離れないと……巻き込まれる。
内部で破壊と混沌の力が渦巻く中で……まだ、ラグナの力は衰えていない。
「覇道ちゃんっ! まだ終わっていないよっ! 零魔法・リミッターゼロッ!」
『わかっている……裏奥義……神滅』
──ゴォォォォオオオォオ!
黒い円柱に切先を当て、神殺しを暴走させた。
『これ、は……辛い、な。頼みたくは、無かったが……』
円柱が破壊の力を増大させ、螺旋を描いていく。音さえも破壊して、不協和音が鳴り響いていた。
天明でさえ何十回と死んだ禁忌の奥義なら、天異界総帥だとしても致命傷は避けられない、はず。
ラグナの力が、ドンドン磨り減っていくのが解る。これは、いけるか?
──ゴォオオォオオォ!
「……」
『……』
「私の出番、無かったかな?」
『……一応、力は溜めておいたら?』
「そうだねー。覇道ちゃんのお蔭だねっ。ありがちゅー」
『寄るなし』
……お?
勝ちか?
まだ神滅は発動しているけれど、終わるまで待つか。
いやー心強い仲間が居ると違うねー。
良かった良かった。
「ねぇねぇ覇道ちゃーん、一応覇道ちゃんは神格があるから女神様なんだよね?」
『……まぁ、そうだね。一応女神の分類』
「じゃあ、じゃあ、私の女神にならない? みんな居るし、覇道ちゃんをひとりぼっちにさせたくないの」
『何のメリットがあるのさ』
──ゴォォオオォォォォォ!
『……きひっ』
「私の女神だよっ。メリットしかないじゃんっ。みんな覇道ちゃんと仲良くしたいって言っているんだよ? 聞く? みんなの声?」
『私は……負の力を高めすぎたから、ひとりが合っているよ』
「みんなと一緒の方が合っているかもしれないよ? だから、少しの間でも良いから、私たちと暮らして欲しい。それでも駄目なら、一人を選べば良いから」
『……まぁ、仕方がない、か。断っても、しつこいのは知っているから……ぁん?』
ん? どうしたの?
神滅になにかあった?
見た感じ何も感じないけれど……
んー?
……
……
……何も、感じない?
そんなはず、ないよね?
ラグナが死んだ? としたら、納得は出来るか……
覇道ちゃんが、何かに気が付いたように神滅に咎星剣の切先を当て神滅を消した。
黒い柱が溶けるように消え、後に残るのは……
『はぁ、はぁ、はぁ、ははっ、強い、な』
ラグナは……生きていた。
身体中から血を流した瀕死の状態で……
これだけなら、直ぐに終わる。
これだけなら……
『きひひっ、凄いね。よく耐えた』
そこに、ラグナの隣に、真っ黒いローブで顔を隠した裏世界の王……閻魔が居なければ……
「なんで……ここに、いるんですか」
『きひひひひひひひ……補佐は、二人までと聞いてね』
「もしかして、ラグナさんの補佐……」
『くくっ、アレスティアも、仲間や覇道が居るからな……私も補佐くらい居ないと、駄目だろう?』
閻魔がラグナに虹色の液体を掛けると、みるみる傷が塞がっていく……エリクサー、か。
天異界序列一位筆頭と、裏世界序列一位裏世界の王……
まて、まてまてまてまて……嫌な、予感が。
『きひひっ、さて……私も久方振りで心が踊るよ』
『あれ以来、か。懐かしいなぁ……』
「……あ、あの……まさか……」
閻魔が、ラグナの肩に手を掛けた……いや、待て、まじで、えっ、ほんと? 駄目、だめだよ、それは……
『察しがついたか? くくっ、引退試合だから告白しよう。自律型武神装・閻魔は……元々私が使っていた』
「……まじか……覇道ちゃん、ちょっとまずい状況かも」
『……ははっ、面白い』
覇道ちゃん、痩せ我慢は駄目よ。ちょっと震えてんじゃん。私なんてブルブルだよ。
『そして……来たか』
──ドンッ!
と、ラグナの目の前に、真っ黒い槍が突き刺さった。
あの、槍は……まさか……
上を見上げると、銀色の髪の女性が私達を見下ろしていて、アスターの応援団の方に降りていった。
「……ルルさんも、補佐ですか?」
『いや、補佐はこの槍、だな』
【久し振りだねーアスティちゃん】
ルルが持っていた、謎の黒い槍。
槍の妖精さん……なんだよ、急展開過ぎて、ちょっと、混乱してきた。
とりあえず言える事は、超卑怯。
大人気ないどころでは無い。勝たせる気なんてさらさら無い。完全勝利で私達を踏み潰す気だ。
「……覇道ちゃん、協力して」
『そのつもりで、この場に居る』
「……ありがと。私、負ける訳にはいかないの」
『そんなの、私も一緒。力は溜まった?』
「溜まったけれど、まだ溜めたい。だからこの黒異天体持っていて」
『じゃあ、時間稼ぐよ』
『くははっ、臆しない、良い顔だ。だからこそ、本気になれる……敢えてこの言葉を言おう』
【ラグナちゃん大人気ないねー、まぁ良いけどね】
ラグナが黒い槍を掴み、閻魔と呼応するように力を解放した。
『私が、最強だ。武神装・裏世界の女王!』
真っ黒い雷が、ラグナに落ちた。
ははは……こんなの、卑怯とかの次元じゃないよ……どうすりゃ良いんだ……
……でも、約束したんだ。
勝つって。




