アスティちゃんがーやーってきたー
座標を目安に、ミズキの記憶を視ながら調整調整……おっ、この魔力の感覚……若ミズキか? よし、若ミズキの近くに次元転移だっ。
とうっ!
……
おっ、成功ー! 流石私。
アスティちゃんがー地球にーやーってきたー。
魔力うっすーい、空気もうっすーい、魔物が居ないー、でーも本当に平和なのー?
なんか違和感凄いな。まぁ追々調べよう。
「帰って……来たんだ。あれ? 学校?」
「これ隠れた方が良いですよ」
「あっ、あれって……」
こそこそ……向かい合う男女……隠れる私達。
ほう……このシュチュエーションは、ママンの観ていたドラマで観た事がある。
「水城、俺と…付き合って欲しい」
「えっ、あの…ありがと。でも…考えさせて……」
「わかった、返事、待ってるから」
「……うん」
……夕陽に照らされた教室っぽい部屋にて、これは若かりしミズキが男子に告白されているシーンだな。なんかこの部屋教室にしては狭くない? こんなもん?
部屋の外から観察…なんか気になる事が多過ぎる。
……若ミズキが男子に背を向け、部屋を出た。男子はそんな若ミズキの後ろ姿を凝視し、見送った。
「……これ、ミズキさんはいつアラスに転移するんです?」
「確か、学校の外に出たら景色が変わってた気がする」
「じゃあちょっと追いましょうか」
「あのミズキを止めちゃ駄目なの? 転移しちゃうんだよ?」
「止めたら、ミズキさんはアラスに来ていないかもしれません。ヘンリエッテは誘拐された後に奴隷として売られ、私は帝国に嫁いでいた事でしょう」
「……ミズキって凄いね」
確かに、ミズキがいなかったら沢山の運命が変わっていた。
ヘンリエッテは死んでいたかも知れないし、私はどうなっていたか解らない。ベアトリスクの思いのままになっていた可能性もある。そう考えると、ミズキには大きな恩があるのか。
といっても今回日本に帰らせる事が恩返しなんだけれど。
……なんか通りすがりの生徒にめっちゃ見られる。
「私達、違和感無いですかね?」
「違和感はあるでしょ。見掛けない地味っ子と外国美少女と私の三人組な訳だし」
「まぁそうですね。名前とか変えます?」
「そうだね。レティは……ごめん思い付かない」
「じゃあ黒金という苗字があるのでそれにしましょう。ミズキさんは家に帰るんですか?」
「うん、帰りたい!」
嬉しそうなのは当然か。何せ、十年振りくらい久し振りだから。若ミズキが階段を降り、廊下を進んで靴の棚で履き替え……いやいや、何これ。履き替えんの? 鍵無いから靴盗まれるじゃん……美少女の靴とか欲しいじゃん……好きな子の靴とか匂い嗅いでいるじゃん。好きな子と同じ靴を買って定期的に入れ替える奴とか居そうじゃん……えー、やだー。
「これ盗難とかあります?」
「……たまにね」
「帝都でこれだったら数時間で全部盗まれますよ」
「そうだよね……新しい学校なら鍵付きとかあると思うけど……そういえばさ、この前下着がごっそり新しくなってたんだ。なにか知らない?」
「パンツの精霊に愛されているんじゃないですか? あっ次元の歪みがありますよ。できたてほやほやですね」
「どこ? 私空間魔法使えないから見えない」
そこそこ、学校を出た直ぐだよ。
これ他にも迷い込んだ人が居たりして……若ミズキが歪みに向かって歩いて…
あっ、消えた。急だな…
ミズキが歪みに消えた時、歪みも消えたな。
「なんか思い出して…ちょっと辛いな」
「まぁこうして帰って来ましたし、これからを楽しみましょう」
「そうだよミズキ! 私達が居るよ!」
「……ありがとう。二人には感謝しかない」
「私も感謝ばっかりだよっ!」
「あっ、誰か来ますよ?」
「みずき? 今帰り? あれ?」
黒髪ショートの制服を着た女子が現れた。ミズキの美人系とは違って活発系の女子だな、きっと。
ヘンリエッテを見て首を傾げ、ミズキに誰? と問い掛けるような視線を向けた。私は地味っ子なので目もくれないね。
「…あすか、久し振り…だね…」
「えっ、みずきどうしたの!? 何かあったの!?」
ミズキがあすかと呼んだ女子に抱き付き、泣き出してしまった。
ふむ、私達は再会の邪魔はしちゃいけないな。ヘンリエッテの手を引いて、行くよと視線を向けると…ヘンリエッテも泣いている…
「ミズキ…良かったね…良かったね…」
「うん、わかったからヘンリエッテも泣いて好感度を上げようとしないで」
「普通、泣くでしょ…アレスティアは、感動しないの?」
「今の私は黒金だよ。感動はしているけれど、私は感動イコール泣くという感じじゃないんだよ」
ポカポカすんな。あー可愛い可愛い、可愛いからやめれ。
私だって泣く時はあるけれどね。エーリンが死んだ時はめっちゃ泣いたよ。ぐっちゃぐちゃに泣いたよ。
「みずきほんとにどうしたの? 新田に嫌な事された?」
「…ううん、急にごめんね。あすかに会えたのが嬉しくて…へへっ、なんか急に恥ずかしくなっちゃった」
「…こうやって男子や史織は虜になるのか。もぅ…なんでも聞くからね。ところで、そちらのお姫様みたいな子は誰?」
「あー…えっと…」
説明って困るよね。
ここは私の出番か。
「初めまして、黒金と申します。たまたま知り合ったミズキさんにヘンリエッテお嬢様の学校案内を頼んでいました。ほらお嬢様、挨拶ぐらいして下さい」
「えっ…よくそんなの思い付くよね…ヘンリエッテ・アース・ユスティネと申します。以後お見知りおきを」
流石は王族、挨拶だけは完璧だね。
あすかさんが目を見開き、一気に緊張し始めた。そりゃ世界は違えど風格は解るよね。
「はっ、初めまして! 橘明日香です! み、みずき…よく平気な顔してるね…お嬢様だって…」
「うん、まぁ、慣れかな。まだ学校見てる途中でさ…」
「じゃあ私も案内するよっ! あっ、良いです、か?」
「はい、喜んで。あすかさん、よろしくお願いします」
「うわぁ…可愛い……」
ふむ、あすかさんが張り切って案内してくれるらしい。身元確認とか良いのか? お国柄か?
まぁミズキも懐かしいだろうし…ヘンリエッテは持ち前の社交性で直ぐに打ち解けて、三人仲良く喋っている様子を後ろから眺めていた。
そう、私は今普通にジェラっている。嫉妬している。ヤキモチ焦げるほど焼いている。
ミズキの友達と仲良くしたい。
「……」
「もう授業は無いの?」
「授業は終わって、今は部活の時間なんですよ」
「あれ? あすか部活は?」
「……」
「テスト前だから休みだよ。昨日言ったじゃん」
「あっ…テスト…うわ…まじか…」
「どんな勉強をしているの?」
「……」
「普通の勉強ですよ。普通の学校ですから」
「普通ってどんなの?」
「普通かぁ……説明が難しいよねー……じゃあ勉強会する? というかしよう! 私は点数取れる自信が無い」
これが女子の会話か。
なんというか、会話に入れる気が全くしない。完全に別世界だ。まぁ女子の会話を一番近い所で眺めるのも悪くないか。地味っ子だから凝視しても視線が合わないし。
「じゃあ史織も誘おっか。部活休みらしいよ」
「おっ、やった。史織に教えて貰お」
部活というのは、競技や芸術やらの分野に所属して学ぶ活動か。ミズキは帰宅部らしい…帰り道に特化した活動って気になる。帰り道に美味しい物を買って食べるのかな…
あすかさんは陸上部という部活らしい。なんかよく解らないけれど走るらしい。
「ねぇ黒金、私達もお勉強しよっ」
「そうですね。日本の文化を学ぶ必要がありそうです」
「あの、ヘンリエッテさんは、どこの国から来たんですか?」
「私は…黒金、なんて言ったら良いの?」
「別に国と聞かれたからアース王国という日本から見たら超マイナーな国と言えば良いじゃないですか」
「いやそうだけれど…」
「アース王国? わかんないけど日本語上手ですね!」
嘘吐いても設定が面倒だから、異世界出身とバレても良いんだよ。
別に誰かと戦う訳じゃないし。
ん?
――ピンポンパンポン。
なんか聞こえて来た。誰かを呼び出す放送か。
ざっと学校を見たけれど、幼女世界よりは通信技術や加工技術が高いイメージ。魔力が少ない世界だからか、平均的に身体能力は低め、警戒心も低いかな。
まぁでも、魔力が高い人も居るね。
そういう人は、どんな風に過ごしているのかな。




