近くに、居るんだ……
深淵の闇が辺りを侵蝕し、全ての魔法効果を私の闇に塗り替える。
覇道に付与された強化魔法を打ち消し、一気に圧縮!
一回死んだかな、リスポンした感覚。
強化さえ消してしまえば紙装甲なのは私が一番解っている。
「お姉さま! 愛情一本!」
『ニ撃目! 混沌神位魔法! カオス・ディザスター!』
コーデリアからエリクサーを受け取ってグイッと飲み干し魔力全開!
そして混沌の力を大解放!
予測出来ない呪われた天変地異をランダムに浴びせてやる!
「痛い、なぁ…魔法大全」
炎の海に焼かれながら、覇道から極彩色の魔力が溢れ出した。
一気に全属性を出すなんて、今までじゃあ考えられない事だな。
『コーデリア、この戦いの勝利条件は…圧倒的な勝利』
「勝つだけじゃ、駄目なんですか?」
『そう。ギリギリじゃあ駄目だ。覇道は完全な敗北を認めないと立ち止まらない』
「…負けず嫌いのお姉さまが敗北を認めるなんて無理ですよ…」
『よく解っているね。だからこそ、本気の一撃以外使えない。それに、時間制限有りだ』
「お姉さまの結界が天異界に壊されるまで…ですか」
私のダメージゼロ結界が、完全に包囲されている。
ダメージゼロ結界は真っ黒だから外から中の様子は見る事が出来ないのはまだ救いはあるかな。
音はどうか解らないけれど、地震規模の衝撃は起きている筈。
問題は、序列一位アスターの女神が来ている事。
《安心しろ、この結界を破れる者は居ない》
でも、外のみんなはどうなの?
《見るか?》
大きな黒い鏡が出現。外の様子が見られるようになった。
「あっ、外の様子ですね」
『うわーやっぱり包囲されている』
おっ、あれはノワールさんと……なんか何処かで見た事のある黒髪の美人さんだ。
──結界の調査は終わったか?
──はい、これは裏世界の王の仕業です。私達には破れません。
──はぁ……閻魔は何を企んでいるんだ。ノワールは心当たりあるか?
──……さぁ、あそこで落ち込んでいるルゼルさんに聞けたら解るかと思いますが……
──あいつどうしたよ……この中に関係しているのか?
──まぁ、うん、娘さんと喧嘩したみたいですよ……
──……娘? あの万年独身のルゼルにか? 言うならもっとまともな冗談を言え。
──こんな時に冗談なんて言いません。娘さん超可愛いですよ。
あっ、黒髪の美人さんが目を見開き、膝から崩れ落ちた。なんだこの残念臭のする人は……
《アスターのリーダーのラグナたんだよ》
あぁ、この方が天異界総帥……って天異界総帥が来る事態なの⁉︎
《そりゃあ、私が表世界に居るんだもん。大事件だぞっ》
えー……逃げられないじゃん。
「お姉さま? 攻撃が来ますよ」
『あ、あぁ……破壊神位魔法…ジェノサイド・ゾーク』
「うわ……凄い。あの、どう、されました? この方が何か……」
『……天異界総帥だってさ』
「えっ……大変な、事態ですね」
『恐らく、天異界の歴史に残る大事件になっている』
コーデリアの顔が引き攣った。
この事件は元凶がルナリード、コーデリアが繋いで、私と閻魔でとどめを刺した感じ。
身内でわちゃわちゃした結果、天異界のトップが来る事態に発展した。
いやー困った困った。
はぁー……ん? あれ? 誰か走ってきたけれど……この人って……
──はぁ、はぁ、遅れてすみません! えっ、ラグナさん大丈夫ですか⁉︎
──……大丈夫、友に娘が居た事を知らなかったからショックでショックで心が抉られているだけさ。キリエ…応援感謝するよ。
……ははっ、キリエだ。あの時と、変わっていない。私と同じ、銀色の髪…前より伸ばして、綺麗だな。
こんなに直ぐ、近くに居るのか。
私の御先祖様……会いたいな……会って、伝えたい。キリエのお蔭で、私があるから。
──えっ…それは…残念でした…ね。お友達も忙しかったから言えなかったかも知れないですし……
──いや、あいつは私より暇だからそれは無い。ほらっ、あそこで落ち込んでいる奴だ。
──あそこ? ……えっ……うそ……ルゼル……
──ん? 会った事があるのか?
……ルゼルに会うのはあれ以来なのかな。
キリエが頷き、ゆっくりとルゼルに近付いていく。
ママン……三角座りでウルウルしながらダメージゼロ結界を眺めて…言い過ぎたかな…胸が痛いよ。
「お姉さま……また、攻撃来ますよ」
『今いい所なの。深淵破壊神位魔法・絶壊天下』
「いや……片手間に恐ろしい魔法放たないで下さい……」
『もうちょっとだから。大丈夫、何かあったら私が守る』
「お姉さまぁ…」
結界内を回避不能の破壊で埋め尽くしてやるぜ!
覇道の強さが上がってきた……そろそろ限界か?
でももっとキリエが見たい。ママンがんばれ!
──お久しぶりです。私のこと、覚えていますか?
──……あぁ。
──どうして、ここに居るんですか?
──……別に、いいだろ。
──……じゃあ、今、あの中で何が起きているんですか?
──裏世界の王と、王と互角の者が戦っている。
──な…なんで、この世界でそんな事が起きたんですか……
──アラスには、我の娘が……うぅ…ぁずでぃ……
ママーン! 泣かないでー!
くそっ、今すぐ抱き締めたい!
『コーデリア!』
「駄目です! 今行ったらあっちのお姉さまはどうするんですか! 全部解決してからでも遅くはないです!」
『これだから大人って嫌い!』
「お姉さまは本能で生き過ぎなんですよ!」
『私が欲にまみれているのはみんな知っている!』
「開き直らないで下さい! 今は駄目です!」
『駄目は振りでしょ?』
「そこで澄ました態度を取っても無駄ですよ。終わったらなんでもしますから」
『なんでも? そうやって大人は自分の利益に持っていくんだ』
「ぐ……」
ふんっ、やりゃいいんだろ。
まっ、冗談だけれどね。
丁度復活して来たし。
わかっている、覇道を止める方法はもう見つけた。いや、前々から邪道だと思っていた方法だ。
出来れば、やりたくない方法だから、他にも方法があるか探って色々したけれど。
「ふふっ……流石は、裏世界の王。私よりも強い。でも、私には邪神の能力がある! 神格上昇!」
『神格? 神にでもなったのか?』
「天明は女神の素質を持って生まれたからね。神の格が追加されれば私が王を上回る!」
『神、か。私は忘れてしまったのかな……神になっても、強くはなれないのに』
確かに、能力は強いよ。
私よりも力があるし、速いし、魔力も上がった。
それでも、女神は似合わんよ。
「私なら強さを求める気持ちは誰よりも解るよね! 破界神拳!」
『ぐぁ!』
「お姉さま!」
覇道の拳が、私の鳩尾にめり込んだ。
ピキピキと骨にヒビが出来る音が響き、遅れて真後ろへと飛ばされる。
速過ぎ……うわっ、飛ばされた私に追い付いた!
「破界衝撃烈!」
覇道が飛ばされた先に回り込み、背中に鈍く重い衝撃。
打ち上げられ、空中へと投げ出された。
視界一杯に私が作った真っ黒な空。
こんな暗い場所で決着なんて、なんか嫌だなぁ……そうだ、天異界総帥もいる事だし、盛大に私という存在を打ち上げよう。
『強過ぎ……このままじゃ勝てないや』
「とどめ! 破界墜獄!」
視点が一瞬で切り替わり、地面の中に埋まった。
痛ったいよ。
でも、生きていればそれで良い。
いやー強いなぁ。
正直勝つなんて無理無理。
なんだよ殺しても復活するし直ぐ強くなるし今だって全属性攻撃の追撃とかさ……閻魔が居なかったら即死だよもう。
《どうするんだ? もう勝ち目がほぼ無いぞ》
わかっていますよ。
なんだか覇道が強くなる度に嬉しくて。
《きひっ、やはりアレスティアは面白いな》
自己愛は誰よりも高いですから。
『さぁ、やるか。邪悪、混沌、破壊を…黒異天体に捩じ込んで……転移』
地面の中から転移でコーデリアの元へ。
っと危ない、コーデリアが狙われる所だった。
「お早いおかえりで」
『隙あり! 黒異天体・大解放!』
「──なっ!」
先ずは覇道をぶっ飛ばして、時間稼ぎ。
武神装・裏世界の王を解除すると、閻魔がきひきひ現れた。
『おや、もう終わりかい? 寂しいな』
「はい、もっと楽しみたかったのですが私の時間がありません。お願いがあるんですが、コーデリアを守って下さい」
『きひっ、高く付くぞ』
「私を誰だと思っているんですか? 報酬なんていくらでもあげますよ。コーデリア、少しの間……任せて良い?」
「ええ…帰って来るなら良いですよ。私も高く付きますが…」
「それなら期待していて。信じているよ。転移」
さあ、先ずは天異界に私アピールでもするか。
あっやべ、格好ダサい。
「……逃げた、訳ではないか」
「覇道のお姉さま、貴女の相手は私です」
「ディア……いや、コーデリアか。転生してまで、何を求める?」
「ふふっ、もう私の願いは叶いました。後はお姉さまが信じる私でいるだけ」
「そうか、先ず…この邪魔な結界を壊そうか」
「させませんよ。ご覚悟を……禁薬作製・英雄の薬」




