モテ期到来ですね。
リアちゃんと見詰め合っていると、店員さんがやって来た。
いつも入り口でお出迎えしてくれる、金髪でクリッとした目の可愛い店員さん。
いつも私のボッチ来店を、元気一杯な声で店内に周知してくれる人。
名前はレーナちゃん。
「店長…いつも店長ばかりズルいです。私もアスティさんにパンケーキを食べさせて貰いたいです!」
「……やだ」
「「……」」
やだって…リアちゃん…あなた一番大人でしょうに。
周りの店員さんもウンウン頷いている。
みんな私に食べさせて貰いたいらしい。
私のモテ期到来ですね。
可愛い店員さん達にパンケーキを食べさせれば、お友達が沢山出来る。
「リアちゃん、皆さんお仕事頑張っているじゃないですか」
「アスティさん…」
「アスにゃん…じゃあデートして」
「良いですよ」
「やったー!」
両手を上げて喜ぶリアちゃん。良かったですね。
レーナちゃんも喜んでいる。
「あ、あの! 今度これ着て欲しいです!」
バックヤードに走っていって、戻ってきたレーナちゃん。
手に持っているのは執事服……あぁ、アレス君になって欲しいんですね。
でも今は化粧しているんで、次回です。
……因みにお客さんは居ない。
閉店の看板が掛けられている。
何故かと言うと、私が来店してラストオーダーを取り始めたから。
特事官の仕事は、四時に終わる。終わってそのままパンパンに来ているので、まだ外は明るい。
パンパンの営業時間って10時~18時半ですよね?
今17時ですよ。こんなに早くお店閉めて良いんですか?
儲かっているから良い? 流石ですね…
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
風の日。
学校での講義が終わり、私は一人でラジャーナへ。
フラムちゃんは……皇女さん達の剣術指南に行ってしまった。
何度も使者が来て、断り切れなかったみたい。迷惑だね。
第三皇女さんが、フラムちゃんじゃないと嫌だと駄々を捏ねているそう。帝都大会で一目惚れしたらしい。ほんと迷惑だね。
ルール違反だから、訴えれば勝てるよ。
最近は、皇女だろうと剣術を習う事が主流になりつつある。
まだ定着はしていないので、先駆けとして、皇女さん達は剣術を習おうという事かな。
私の方が先駆けだけれどね。
もう少し早くその波が来てくれたら、お転婆姫なんて言われなかったのに…
フラムちゃんが指南に私も来て欲しいと言われたけれど、もちろん断った。
だってあの第二皇子に遭遇するかもしれないから。
フラムちゃん…帰ってきたら慰めてあげるからね。
と、着きました。岩山の頂上。
以前、ブルークイーンを採取してクマさんを倒した場所。
ブルークイーンは二週間咲く花。
前に採ったブルークイーンは、先週に萎れてポプリに加工してある。
やった。前回よりも花が増えている。
慎重に株を取り、鉢に入れ換える事10回。
帰り、ミーレイちゃんに渡しに行こうかな。
でも最近、あまり喋ってくれないから…嫌われているのかな…
どうしよ…この花は好きそうだったから、花だけ渡しに行こう。
もう来ないでって言われたら辞めれば良いし。
岩山の頂上から、私が来た反対側…北側を眺める。草原から森、その先は荒野。
東側は岩石地帯。今度はあそこで鉱石を探そう。
西側は森、その先は街道。
「それにしても、ここは気持ち良い場所だ…魔物は居ないし」
頂上は広場の様になっているので、ゆっくり過ごせる。
空を飛ぶ魔物も来ない。キャンプ出来そう。
その後は、森の魔物を倒していった。
……やっぱりオーガが戦いやすいかな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
早々に切り上げて帝都に帰り、中央区にあるミーレイちゃんのアズリード家へ。
コンコン。
扉を開けたのは、ベテラン風お手伝いさん。
「はい、どちら様でしょうか? …あなたはこの前の」
「こんにちは。これをミーレイさんに渡しておいて下さい」
「…はい。今、お嬢様をお呼びしましょうか?」
「いえ、呼ばなくて良いです。ミーレイさんの時間を取らせる訳にはいきませんから」
お手伝いさんに花を渡して、南側へ向かう。
このまま真っ直ぐ行けば大通りに出て、パンパンに到着するから…パンパンって立地良いな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
パンケーキのお店パンパンに到着。
どこかから、私を呼ぶ声が聞こえた様な気がしたけれど、気にせず店内へ。
「いらっしゃいませー! こちらへどうぞ! さぁ!」
「あ、レーナちゃん。えっ? いきなり?」
そのままバックヤードに連れ込まれた。
目の前には鼻息を荒くしたレーナちゃん。その後ろにいるリアちゃん。
レーナちゃんの手には、執事服。
はいはい着替えますよ。
…着替えるんでここから出て下さい。女の子同士だから良いでしょって? 嫌ですよ。恥ずかしいんですから。
レーナちゃんが悲しそうに出ていく。
「リアちゃんも出て下さい」
「パンケーキ無料!」
「仕方無いですね!」
リアちゃんにあれよこれよされ、カウンターの前に立つ。
しーん――
店内から音が消えた。
私を待っていた店員さんがフリーズ。お客さんも口を開けて私を見ている。
…あの、そんなに見ないで下さい。
カウンターにはリアちゃんが座っている…結局あんたか!
その隣にはレーナちゃん。
パンケーキを一口大に切って、レーナちゃんのお口へ。
「はい、あーん」
「……店長…これ、やばいですね」
レーナちゃん、顔が真っ赤。可愛い…食べちゃいたい…
「でしょ?」
リアちゃんはどや顔ですね。
レーナちゃんは、真っ赤な顔でパンケーキを頬張っている。
「レーナちゃん、美味しいですか?」
「……ふぁい」
蕩けそうな笑顔。可愛い。
私も思わず笑顔になる。
相変わらず店内は静か。
さっきまでテーブル席とか会話が多かったのに。
まぁ、原因は私なんですが…男の店員なんて居なかったから。そりゃ、ビックリするさ。
とりあえずパンケーキを私も食べる。
うん。美味い。まじ美味い。
リアちゃんも食べます?
はい、あーん。
……ちょっと、あんまり私のフォーク舐めないで。
まぁ、リアちゃん可愛いから良いけれど。
「レーナ、交代よ」
「…店長…私、ここから動けません」
「その気持ちは痛い程解るけれど、アスきゅんのお友達が来ているのよ」
「くっ……仕方無いですね…」
お友達? フラムちゃん?
入り口を見ると、ミーレイちゃんの姿。
やあミーレイちゃん…大丈夫?
カウンター空いたけど座るかい?
リアちゃんとレーナちゃんは席を立ち、ミーレイちゃんがカウンターに通される。
ん? 貼り紙が貼られたな…『カウンター席は関係者以外座れません』……関係者? まぁいいか。
「……」
「ミーレイちゃん、ご注文は何にしますか?」
「…ぁぅ」
「…ん? パンケーキセット?」
コクンと頷いたので、バックヤードへ行き、近くに居た店員さん…リリーちゃんに伝える。
店員さんへの伝え方は様々。
あごクイという奴をリクエストされたので……
「リリー、パンケーキセット…お願い出来るかい?」
「――はぅ! 喜んでぇ!」
あごクイをしながら伝えて戻る。
皆さんこだわりがある様子。
「今作っているから、ちょっと待っててね」
「…うん」
「今日は一人なんだね」
「…うん」
「…そういえば今度テストあるね」
「…うん」
うーん…やっぱり嫌われているか。
何か嫌がる事したかな?
……急に家まで行った事ぐらいしか思い浮かばない。
「…何か、嫌われる様な事…しちゃったかな」
「…えっ」
「あ、いや、急に家まで行ってさ。迷惑だったよね。もう行かないから」
「あっ、ちっ! ちがうよ! …迷惑じゃない…嬉しかった…凄く。ありがとう」
家に行った事じゃない。それならなんだろう…むー…
でもこうやって席に座ってくれるのは、そこまで嫌われていないって事で良いのかな?
いやね、私…好きとか嫌いとか直接言われないと解らないんですよ。
王女時代…貴族とか言い回しが遠回り過ぎて、訳ワカメだったんで。
そのせいで、人付き合いがズレている気がする。
「お待たせしました。パンケーキセットです」
「…うん。ありがとう」
「じゃあごゆっくり」
よし、私の仕事は終わりだ。いや、仕事しに来たんじゃないけれど…なんでこうなった?
……あの、店員さん達…バックヤードへ戻りたいんですけど、ガードしないで。レーナちゃん、それガードじゃなくてギューだから…
…なんとか着替えて脱出。
「ミーレイちゃん、隣良い?」
「うん…凄い、悲鳴が聞こえたけど…」
「ああ、店員さん達がはしゃいでいるだけだよ」
「…そっか」
まぁ、良い機会だし直接聞いてみよう。
「私はミーレイちゃんが好きなんだけど、ミーレイちゃんはどうかな?」
「……す、好きです」
「ほんと! 良かった! 嫌われていたと思ってた…」
「そんな事ないよ…あの、ドキドキして話せなくて」
「じゃあさ、あの、その、」
「…うん」
「お友達になって下さい」
「……えっ」「…ん?」
「…お友達?」「そうだよ?」
「もう、お友達…だよね?」
「いや、お友達宣言していないでしょ?」
「な、なにそれ」
「えっ?」
ど、どういう事…友達宣言しないとなれないんでしょ? 違う? 違うの!?
「じゃ、じゃあどうやってお友達が出来るの?」
「過ごしていたら自然となっているものだよ?」
「そ、それが解らない…」
「えー…」
ミーレイちゃんは私を友達だと思っていたみたい。
ごめんよ。解らないんだ。
でもまぁ、友達って事で良いよね。
よし、三人目の友達!
友達になれば、女の子だって言っても良いよね?
あんまり隠し事したくないし。
食べ終わったミーレイちゃんを連れて退店。
まだ夕方なので、大通り脇のベンチに座る。
「ミーレイちゃん、実はね…お友達になったら言おうと思ってたんだけど…」
「…う、うん」
「私、女の子なんだ」
「……」
「…ミーレイちゃん?」
あれ? ミーレイちゃん? ……フリーズしちゃった。
ミーレイちゃーん。おーい。
……ありゃ、動かない。
おーい。
…ふむ、ビックリした顔も美人だな。
青い綺麗な髪にスベスベな肌、色気もある。
吸い付きたくなる唇だなぁ。
あっ、復活した。
「…学校で、フラムちゃんと歩いていたのは…アレス君?」
「そうだよ。本当はアスティって言うんだ」
「…フラムちゃん…ズルい」
「…え?」
なんで?
ミーレイちゃんがキッと私を見て、キスをしてきた。
いや、なんで?
まぁ、私としては嬉しいんだけれど…周りに人が居るからね。
「アレス君…いや、アスティちゃん。私、アスティちゃんが好き」
「う、うん。ありがとう」
「アスティちゃんに恋しているの好きだよ」
「…ん? 恋…」
あぁ、もしかしてフラムちゃんと同じですか。
この前、フラムちゃんに聞いたんですよ。
フラムちゃんの夢は何? って。
『私の夢は! アスティちゃんの子供を生む事だよ!』
…彼女本気なんですよ。
どうしたら良いんですかね?




