覚悟は出来ている
「私! 本物! 戻って来たよーー! ヘルちゃん私の心を視てーー!」
「仕草を真似ても無駄じゃ! わっちには解るぞい!」
「うおおいい! これ以上拗らすなやぁーー! 黙れ幼女ーー!」
「ほれ見い、本性を表したの!」
『アスティのお気に入りジャージを使うとは……許さん。エナジーストライク!』
「黒いのは任せたのじゃ! 先ずはこいつを消すでの!」
「アーたん待って! なにかおかしいわ! あーもう!」
ママン? なぜこう言う時だけ誰かの言う事聞くの? 正気になりなさいよ……
えっ、そのエナジーどうするの?
なんで私に向けているの?
駄目だよ。
それ、本当に駄目だよ。
幼女、私にランチャーを向けるな。これ以上私のヘイトを溜める気か?
「転移…出来ない。妨害か……黒異天体」
はっはっは……やってやろうじゃねえか。
黒異天体を生成…慣れたもんだな。周囲に人は…ロクナナ発見! おや? 天異界の人達が居ない…というか少ない、なんか嫌な予感。
「…デスレーザー」
っと危ない。直前まで来ていたエナジーストライクを黒異天体に吸収し、上から落ちてくるデスレーザーを吸収。
黒と黒銀の星を作成し、幼女の砲撃も吸収…
「よっしゃこれなら…黒異天体解放・超重力!」
「く…」
覇道は少し動きを制限出来た。これでヘルちゃん達で手一杯になる筈…
っ、幼女が直ぐそこまで!
「もらったー! 一撃神槌!」
「エネジーシールド!」
シールドは一撃でバキンと割れた……手加減無しかよ。
だがな…私には幼女封じの秘策があるのさ!
「その魔法も真似しおって!」
「必殺! 最高級干し芋!」
「な……に……」
幼女の動きが止まった。
ふっふっふ、戦闘しているからお腹が空いているだろう? ほれほれ。
「今の内にテンちゃん召喚!」
『あーれー』
私とテンちゃんは繋がっているから、人質代わりにテンちゃんゲット!
「テンちゃんアレスティンカイザー出せる?」
『時間無いからむりー。ところで何遊んでるの?』
「そこの幼女が私を偽物って言うから話が拗れたの」
『ジャージで来るからだよ……それにズボンインは本当に恥ずかしいからやめて。光帝ライトタウン』
周囲に無数の光の柱が突き刺さった。光の柱同士が繋がって、これで光速移動が可能…ナイステンちゃん!
「幼女がいつも布団奪うからお腹冷えるんだよ。シャイニング亀甲縛り!」
「ぬわーーーーー!」
「はっはっはー雌豚に出来て私に出来ない訳がない! 危なっ、光速剣!」
『むっ、技も一緒か』
幼女の身体に光の縄が食い込み、口に干し芋を突っ込ませて黙らせる。幼女ファン必見の光景になったは良いけれどそれ所ではない。
幼女を抱えて光速移動した瞬間にルゼルのエナジーバレットが通過…光速剣があれば躱すくらいなら大丈夫だな。
でも……
ルゼルを何とかしないと、覇道に辿り着けない。
戦っても確実に勝てないから、話し合わないと。
あっ幼女がダランと力を抜いた。干し芋に籠絡されたか…いや流石に空気を読むから私が本物と気付いたみたいだな。
先ずは幼女を制圧。
「私達は今、何をしているんですかね」
『お前の望む、殺し合いだろう?』
「私は望んでいませんよ。おかぁさん、私を殺すんですか?」
『アスティはもう、咎星剣に呑まれてしまった。早過ぎたんだ……我のせいだ…我が責任を取らなければ…』
「私も、あの私もアレスティアです。私を殺すのであれば、覇道の私がアレスティアとして生きるだけ…」
『殺すなんて……我は、自分が情けない。望んだ姿なのに…望んだ結果にはならなかった。それに目の前のアスティが本物かも解らない…』
まぁ見た目一緒なのにこの幼女が拗らせたからね。お仕置きに縄の食い込みを強くしてあげよう。
「──!」
……エロい声出た。……うん、なんか空気壊してごめん。
「負の力を使い過ぎて、魂が分離してしまいました。覇道のアレスティアと、超可愛いアレスティアに……だから私は元に戻りたいんです。力を貸して貰えませんか?」
『……』
ルゼルから戦意が消えた……少し落ち着いたから迷っているみたいだ。
これからどうするべきか、私を信じて良いのかって……全く、らしくないよ。
「……」
『……』
……私も、甘えてばかりじゃ、駄目だよな。
私の問題だ。
これ以上みんなに迷惑掛けられない。
本当は凄く嫌だけれど、私が行く道は一つ……
「……今のは忘れて下さい。ありがとうございました…この御恩は、忘れません」
『我は……』
「……光速剣」
ごめんね。ヘルちゃんが危ないから、行かなければならない。
幼女は、置いていこう。
また、ルゼルは自分を責めるのかな……もう少し、話したかった。
「破壊神剣・覇剛!」
覇道が咎星剣を振り抜く寸前……私は軌道を逸らすように光速の突きを当てた。手が痺れる……やっぱりまともに打ち合ったら朱天の剣はもたないな…
覇道の攻撃は逸れ、衝撃波がヘルちゃん達の横を通り過ぎていった。間一髪…と言うわけでは無いけれど、私が敵ではない事が分かればそれで良い。
覇道と話すチャンスでもあるし。
でも覇道とヘルちゃん達の間に立って覇道の方を向いているから……後ろから攻撃されないか凄く不安だ。
「さて、話し合う……雰囲気では無さそうだね。覇道の私」
「そうだね、普通の私」
「私に消えて欲しいのなら、私と戦ってよ」
「ふふっ、弱いのに?」
「そうだよ。弱いのに狙ってきたじゃん。私が怖いんでしょ?」
「それは、無い……」
少し怒ったか、負の力が強いから感情に振り回されやすいんだな。いや、私と覇道は性格が違うからか。
これなら私のペースに持っていける。
ん? 後ろから抱きしめられた……ヘルちゃん。
「……アスティ、なの?」
「うん……ごめんね。約束、破って……」
「……今に始まった事じゃないわ」
「私ね、幸せだったよ」
「そんな事、言わないでよ……」
「……今から、少し頑張ってみる。だから、みんなと一緒にこの世界、この星を守って欲しい」
「……もう、止めても、無駄ね。ばか…ちゃんと、戻って来なさいよ」
ありがとう。本当に……
私と覇道が戦えば、この世界は壊れる。
同じ力で、戦うから。
「お待たせ。やろうか」
「弱いのに、よくやろうと思うね」
「私は強いよ。一人じゃないから」
「じゃあ、見せてよ」
「うん、ちょっと待ってね。閻魔さん、見ているんですよね?」
『……きひ』
やっぱり居た。
なぜなら、結界の外にリアちゃんが来たから。それに…テンちゃんのお友達の妖精さん達も一緒…元に戻れたんだね。
良かった…
リアちゃんの所に行きたい理由があるけれど、元々の私はせっかちだから覇道がそこまで待ってくれる保証は無い。
覇道は腕を組んでじっと見つめている……私の考えは解らないみたいだな。よしよし。
「テンちゃん、リアちゃんに…後でお願いがあるって伝えて」
『……わかった。気を付けてね』
「閻魔さん、不本意ですがあなたを継ぎます」
『きひっ、私を継いでも、この戦いが終われば死ぬぞ……』
「はい、そんな事はわかっています。私を信じて下さい、必ず生き延びてやりますから、私の為に力を下さい」
私の寿命を伸ばす方法として、閻魔を継いで王になる事を提示された。
でもその時と状況が違うから、継いでも死ぬ。継がなくても死ぬ。
それなら、今、生きる道を探してやろうじゃないか。
ギリギリの戦いなんて慣れっこだよ。
『相変わらず、わがままだな』
「ふふっ、一緒に戦った仲じゃないですか。血盾さん」
魂が分離して、解った事がある。以前…閻魔の分離した魂や力を入れられた事があったんだ。キリエの夢であった妖精さんに。
私の能力が増える度に、閻魔は私を祝福してくれていた。
邪悪、混沌、破壊が揃った時は、戦い方を教えてくれた。
王になる事は、必然の未来だったのかも知れない。
『きひひ……バレたか。では、やるぞ。アレスティア』
「はい!」
……元気に返事をしたは良いけれど、継ぐってどうすんの?
閻魔は私の耳元に近付いて……
『ひそひそ』
え……まじ……継ぐって、そういう事?
「待ちくたびれたよ、もういいかな…」
「……」
破壊の力が覇道から溢れ、地面の色が枯れるように抜けていった。
後ろに居たヘルちゃん、ディア、ルナリードは後方から結界を張っていた。天異界の結界の中に結界の二重結界。
幼女は雌豚に拾われ、ロクナナの所に行った。
ルゼルは、動いていない…か。
……みんな、頼んだよ。私はこれからどうなるか分からないから……
「世界を壊せば、もっと強い者が現れるかもね」
「……現れないね。見てきた筈だよ、表と裏の世界を」
「だから、全部壊せば違うものだって現れるじゃないか」
「現れない。ここで私達は終わるんだ」
「終わらない! 終わりが来てもその先がある!」
「無いんだよ。その覇道の先は、孤独なんだ……」
「ある! 絶対に! 破壊神剣!」
「……ははっ、絶対なんて尚更無いよ」
覇道が破壊の力を放ってきた。
それを閻魔はそっと受け止め、そっくりそのまま跳ね返した。
吹き飛ばされる覇道は、楽しそうに笑って力を増大させ始めた。
動かない私に、少し呆れた視線を向けられたけれど、今私に死なれちゃ困るのを知っているからね。
わがままは性分だ。守ってくれるのなら守ってもらうよ。
『全く、世話の焼ける子だ。ルゼルの気持ちが解るよ』
「あいにく私の母枠は埋まっていますよ」
『私はルゼルのような過保護は出来ない。こっちから願い下げだ』
「ふふっ、閻魔さんもだいぶ過保護でしたよ」
『きひっ、それは無い。裏禁術・武神適性増大』
「うはっ…なんですかこれ…」
『私への適性を上げた。生き延びる手助けでもしてあげよう』
そういう所が過保護なんだよ。
相変わらず、私は一人じゃなんも出来ないな。
だからこそ、この優しさに、出会いに感謝を込めて…
「武神装・裏世界の王!」
王を継ごうじゃないか。
閻魔は私の後ろから両肩にそっと手を置き、同化するように私と重なった。
黒い稲妻が私に落ち、濃密なエネルギーに支配される感覚は、とても懐かしい。
「ふふ……流石、私だ」
『そうか、負の根源は……この時の為の魔装だったのか』
本当に意外だったな……裏世界の王の閻魔は、咎星剣よりも特殊な意思を持つ自立型の武器生命体。この事実が、天異界に知られた瞬間でもあるのか……ますます私は表世界で暮らせなくなるよ……
何故閻魔は武器なのかは閻魔に聞かないと分からないけれど、王になるという事は、閻魔を使いこなさなければならない。
確かにこのエネルギーを使いこなすには、一発勝負じゃ無理だ。
「全力で戦って、良いんだね……」
『もちろん、時間切れまで、私は壊れない』
相変わらず、黒ローブに黒仮面という可愛くない格好だけれど、妙に安心するよ。
はははっ、まさか自分と殺し合うなんて……最高の人生だ。
あっ、やっぱり可愛いくないから黒仮面は取ろう。




