後は、娘を待つだけ
『泣いてなんかない…コーデリア、私はあの子達の分離を試みるから、ルゼルと共闘してくれ』
「はい! 禁薬作成•鋼の心天!」
ディアが鉄色の液体を飲み干し、デスサイズを構えた。鋼の心天は精神力を上げる…それだけで少女達が吸収された怒りや悲しみは収まらない。収まらないが、気持ちを切り換えないと天明に吸収されるのは明白だった。
そして迫り来る天明に斬りかかる。
『何故拒む。我等の仲間になれば不自由などない。死からの解放、そして心の解放』
「うるさい! 解放してどうする! 世界を壊すのか!」
鋭い翼とデスサイズがかち合うと、耳をつんざく金属音が響く。
隙を見て斬り付けても天明は再生しているが、ディアもまた天明から力を吸収しながら戦っていた。腕を切断し、断面から魔力を吸収…腹に刃が突き刺さった瞬間にデスサイズから生命力を吸収…
それでも、万ある内から一を引くを繰り返すような気の遠くなる作業。
それでも攻撃を止めたら少女達が完全に吸収されてしまう。
ディアの問い掛けに天明は止まり、黒い翼と、蜘蛛のような鋭い翼を広げて獰猛な笑みを浮かべた。
『欲しいものがある』
「…もの?」
『星の核』
「なに…それは…っ」
ディアが聞き返そうとした瞬間…天明はルゼルのエナジーバレットに頭を貫かれた。
天明の力が抜けた後も胸、腹、再び頭と致命傷の追撃。
とどめとばかりに大きなエネルギーが天明を吹き飛ばした。
『おいお前…星の核を、何に使うつもりだ?』
『クハッ……ハァハァ…黒金なら、解るだろう? 身体に取り込めば、更なる力を得られる…貴様がしたようにな』
『くくっ、我は例外だ。星の核を操れる者がいないと、ただの石に成り下がる』
『そんなことは、知っている。それに…一つとは言っていない』
『……へぇ、お前の目的は…銀河の核か』
『アレスティアのお蔭で思い出したんだ。全てを征する方法を』
『征してどうする。全く意味の無い事だ』
『意味なんて、ないさ…』
天明が天を仰ぎ、両手を広げた。
本心なのか、戯言なのかわからないが、ルゼルだからこそ言った事は間違い無かった。
『お前も…過去の被害者なのだな…今更無理か。エナジースチール』
『かっ…』
天明の鳩尾にルゼルの拳がめり込み、ルナリードの力を奪い返した。最初からこうすれば良かったのだが、ルゼルは天明の意思を知ろうとしていた。ルゼルは天明が世界を壊そうと、どうでも良かったから。
『裏世界でなら、お前は華開くぞ』
『ぐぅぅ…我等の存在意義は、我等の願いを叶える事』
『願い、か。全ての願いを叶えたら、どうするんだ?』
『存在意義が無くなれば、消えるだけ』
『願いを叶えさせてやれば早いだろうが、我が娘アレスティアを殺す事も含まれているのだろう?』
『そう、願いは叶える。これ以上奪われては敵わん…エクスプロード•ノヴァ!』
再び力を奪おうというところで、天明が大爆発。
多大なる魔力を込めたせいで、爆発の余波は広範囲に渡った。
「くっ、なんて魔力…ルゼルさん天明はどこですか⁉︎」
『逃げた。今場所を特定する……ちっ、よりによって……アラスに逃げた』
「っ! 早く追わないと!」
『良いのか? アラスは天異界同盟の世界だ。天異界の奴らに捕縛されるぞ』
「覚悟は、出来ています」
『…そうか。少しは助けてやる。あとルナリード、力が戻ってもその姿じゃアラスに行けば破壊の暴走の危険がある。暴走したら我でも簡単には抑えられない』
『百も承知。最悪封印されても文句は言わない。それにあの子達を助けないといけない』
『くくっ、封印されたら我が困るがな。それと雌豚、アレスティアは我の城にいるから手伝いを頼む』
「ふふっ、了解しました。面白くなって来ましたね」
『……我が雌豚と言っても反応しないんだな』
「疼きはしますが、ルゼル様は似合い過ぎてアレなのですよ。あっ、髪の毛を二本戴けますか?」
『予想は出来るが、何に使う?』
「予想通りです。ご主人さま用のブツはルゼル様にプレゼント致しますよ」
『…よろしく頼む』
ルゼルと雌豚が固い握手を交わし、雌豚はご機嫌に裏世界へと転移していった。
『さぁ、行くぞ』
『「……」』
『……なんだ?』
『ルゼル、何を企んでいる…アレスティアを…縛る気か…』「ルゼルさん…ズルいです」
『お前らに関係無いだろ。行くぞ』
睨み付けるルナリードと、暗いディアを一蹴し、ルゼルはアラスへと転移。遅れてルナリードとディアもアラスへと転移した。
転移した先、何処かの城があったと思われる残骸と、その残骸の周囲に広がる半壊した街があった。逃げ惑う人々を眺めつつ、天明が壊したと思われる城の中央には、歪な翼を広げた死の使い…天明が何かを抱えて佇んでいた。
「ここは……フーツー城」
『アスティの生まれた場所か。何か赤子を持っているが、食うのか?』
「いえ…あれは天明の中にいるベアトリスクの子です…一応、社会的には私とアレスティアさんの弟ですね」
『殺さない方が良いか?』
『ルゼル、殺しちゃ駄目だろ』
『それ破壊神の台詞か?』
「任せます。恐らく王も死にました…生きていても争いの火種になるだけです」
『アスティに怒られたくないから人間は殺さないでおこう。そうだ、連絡しないと』
ルゼルがタブレットを取り出し、アスティに天明がアラスに逃げたと連絡。
これでアスティは咎星剣をアラスに持ってくる…という天異界から見たら裏世界の王を連れて来るに匹敵する案件なのだが、ルゼルは忘れていた。
「先に行きます! ルナ様は分離魔法を頼みます!」
『あぁ…コーデリア、成長したな…』
『…ところで、その姿は戻らないのか?』
『クシャトリスという者に頼まないと戻らない』
『ふぅん、だから我らは似ていたのか。仕方がないから頼んでやる』
『……ありがとう』
『でも、悔しいがアスティはその姿がドストライクだがな。抱っこして一緒に寝てくれるぞ』
『……本当か?』
『あぁ、絶対だ』
『やっぱ考えさせて』
『あ、悪い。もう頼んだ』
タブレットをチラつかせてニヤニヤ笑う姿に、ルナリードはやっぱりこいつ嫌いと睨み付けた。
『愛する我が子よ…ゆりかごに…愛を込め…』
「天明、その子をどうするつもり?」
『……母と共にするだけだ』
「吸収…するのか?」
『いや、こうする』
天明の胸元から光が飛び出し、赤子の前に停止すると、徐々に光が形を成して来た。
頭、手足が生え、赤子と同じ大きさの光になり、色が着き始めた。
「うそ…赤ちゃんを、作った……」
『ベアトリスクはこの赤子を王にしたいそうだ。ここでお別れ、だな』
「じゃあ……それはベアトリスク…」
『おっと殺すな。爆発するぞ』
酷く冷たい視線を投げ掛ける赤子にデスサイズを向けるが、爆発というのはどの規模か解らない。
フーツー国民を巻き添えにしてしまえば、心が耐えきれない。
天明が二人の赤子を何処かに転移させた。詳しく調べれば行き先は解るが、ディアにとってもうどうでも良い存在だった。
『ディア、サポートに回れ。我が力を奪う』
「…はい。仙術・神光分身」
ディアが神光分身で散開。周囲に被害が行かないように結界を張った。
天明が天を仰ぎ、巨大な魔法陣を展開させる。
『黒金よ、力を奪っても我等を消す事は不可能だぞ?』
『分かっている。認めたくは無いが、我には無理だ』
『ほう…天異界の者に、我等を消せる者が居るというのか?』
『天異界の奴らには居ない。我には自慢の娘がいる』
『アレスティアには無理だ。能力が頭打ち…その前に魂が死滅寸前。放っておいても死ぬ』
『あぁ、確かにアスティの寿命はあと僅かだ。だがな、我は娘に全てを継がせた』
ルゼルが構え、両手から濃密なエネルギーの塊を発生させ、心底楽しそうに笑った。
『それが、黒金の願いか』
『くくっ、今のアスティが裏世界の王に会えば、全ての序列が変わる。この先も、生きられる。正直我の役目は、もう終わったんだ』
『羨ましい、な。それが、願いを叶えた者の顔か』
『羨ましいだろ? さぁ、楽しもうか』
あと何話かな。
ちょっと書き溜めに入ります。




