どうやら私は拐われてしまったらしいので、雌豚の上に座る事にした。
おー、もう300話になっていたんですね。
「「……」」
…ん?
あれ? 私…拘束されて…
ベッドから起き上がって辺りを見渡してみる…
ここは…何処…というより見覚えがある?
王女時代の私の部屋…に似た場所。
どういう事だ?
「「……」」
……なんか、ジーッと見られている。
さっき戦ったばかりの白仮面と黒仮面の二人組。やはり生きていたか。
攻撃してくる様子は無い。
無いけれど、私を逃がさないようになのか一挙一動を見ていた。
んー…私は敵に捕まったという訳か。
「あの…」
ビクッとした後、二人で手を繋いで近寄ってきた。
「はい」「なんでしょう?」
「えっ…あの、ここは何処ですか?」
「家」「ナナ、拠点だよ」
「拠点」
……なんか、丁寧だな。
私の事さっき戦った奴って気付いているのかな?
銀仮面は付けっぱなしだけれど…
「どうして私は捕まったの?」
「捕まった?」「ディア様に招待されたのですよね?」
「いや、メイド服の人に捕まって…目が覚めたらここに居たんだけれど…」
「「?」」
首を傾げられても…私の方が解らないよ。
メイド服の人は…きっと扉の隙間から覗いている人で間違い無いだろう。
ちょっと、この縄を解いて欲しいんだよね…これ亀甲縛りじゃん。胸ポッケに居るテンちゃんが出られなくてモゾモゾしているお蔭でさ…いや、言わないでおこう。
「メイドさん? 来てもらえますか?」
「はい、お呼びでしょうか?」
「逃げないので、これ外して貰えませんか?」
「…豚と罵ってくれたら良いですよ」
「……早く外せよ、雌豚」
「はぅっ! 良い…良いですよっ! もっと言ってくださぁい!」
「……もっと這いつくばって懇願しろよ。穢らわしい雌豚の分際で私にお願い出来るだけでも幸せだと思え」
「あぁぁああんっ! 主様以上の快感っ! ご主人様とお呼びしたいっ!」
「主が居るのにこの程度で乗り換えるのか? そんな不義理な雌豚はいらないなぁ」
「どうかっ! どうか御慈悲をっ! ご主人さまぁ!」
「口を慎め雌豚!」
「きゃぅうううんっ!!」
…何この人、ちょっと危険だ。ドMで良いんだよな?
ノリノリな私も私なんだけれどね。なんか雰囲気がムルムーに似ているから雑に扱っても大丈夫と判断。
ハァハァしている雌豚が這いつくばって、ベッドに座る私まで這いずり、お口で縄を解き始めた。
…良いね、ゾクゾクする。
「…凄い」「エロメイドを手玉に…流石はディア様の…」
「あっ、二人のお名前教えて? 私はアレスティア」
「ロクです」「…ナナ、です」
しっかりしている黒い仮面の女子がロク、少しオドオドしている白い仮面の女子がナナ。
雌豚がゆっくり縄を解いている間に自己紹介は済ませよう。この組織の情報を集めたいし。
ビクビクしないでね。雌豚しか罵らないから安心して。
「私がさっきまで戦っていた相手なのは、解る?」
「はい」「解るます」
「ディア様のお客様だから、敵ではありません」「大事なお客様。ディア様が絶対」
なるほど、今のところ敵では無いか。
そもそもディアって人は初対面だけれど、そこは追々調べよう。
「どうして世界を壊そうとしていたの?」
「幸せの世界の為に悪い世界を壊さないといけないんです」「悪い世界はディア様の敵だから」
「悪い世界ってどうやって解るの?」
「ディア様が決めました」
ディアが首謀者で間違い無い、か。でもそこまで悪い奴に見えなかったんだよなぁ。
でもこの二人を洗脳して操っているように見えるし…意志が弱いんだよなぁ。ディアの言いなりというか。
視ちゃ駄目かなぁ…仮面を外してくれたら視られるけれど。
「はぁ、はぁ、ご主人さまぁ…ずっとこうしていたい…ハァハァハァハァ」
雌豚が手間取っている…涎すげぇな。
そもそもこれは魔法だから口じゃ外せないんじゃないのか? 匂いを嗅ぐでない。鼻息荒すぎんだろ。
「他に仲間は居るの?」
「はい、他には六人…イチ、ニイ、サン、ヨン、ゴウ、ハチが居ます」
「確かに強い力を持つのは六人。とりあえず…ディアが来るまで目的も解らない…か。ねぇロクちゃんとナナちゃん、顔は見せちゃいけないの?」
「それは…」「外せないです」
逃げても雌豚に追われるだけだし、ディアが来るまで暇なんだよなぁ。その前にママンが来そうではある。
二人の顔が気になるお年頃なので、仮面を取れるか聞いてみたけれど拒否反応。
まぁ銀仮面をしている私が言うなという話だが…気になるんだよなぁ。妙に親近感があるというか、星体観測も使っていた訳だから…
「ロク、駄目かな? アレスティアと居ると…なんか解らないけど、安心するから」「ナナ…まぁ、ナナが良いなら」
白仮面のナナが仮面を外してくれた。
…おや? おやおやおや。
眉間を通る大きな黒い斬り傷痕…楔というかこれは呪いだ。
ディアの呪い…では無いな。
ロクもため息を吐きながら黒い仮面を外してくれた。こっちも同じ傷痕。効果は…服従やら奴隷やらの系統。無理矢理解除すると、死ぬ。酷い呪いだ。
……傷痕に目が行っていたから改めて顔を見ると…二人は双子みたいに似ている。
それに、顔が少女時代のキリエにそっくりなんだよなぁ…
星体観測も使っていたし、親族なのか?
「これは誰に付けられたの?」
「……イチ」
「私なら治せるけれど、治したい?」
「「……」」
二人で顔を見合せて、相談するように見詰め合い、二人でコクリと頷いた。
…雌豚、早く解けよ。解除出来ねえだろ。
「…雌豚、仕事が遅いぞ。五秒だけ待つ、五秒過ぎたら優しくする」
「そっ、そんなっ! 嫌です嫌です嫌です! 亀甲縛り解除!」
「ふんっ、魔法を解除なんてプライドを棄てたか。そんなお前は四つん這いになって二人の椅子になれ」
「はひぃ! 有り難き幸せ!」
女王様気分で楽しい。これくらい言えるのは今まで二人くらいだったから増えて嬉しいよ。
あの目は本気だから…もしかしたらここから出ていっても付いて来そうだな。んー…この変態をアラスに解き放っても良いのだろうか…
雌豚が四つん這いになり、ハァハァしながらロクとナナをジーッと見詰めている。二人は凄く嫌そうな顔をして一歩引いていた。
『ぷはっ、やっと出られた。アレスティア、変態が居る』
「やぁテンちゃん、あれが雌豚だよ」
『ふーん』
胸ポッケのテンちゃんは興味無さそう…じゃないな。私の肩に乗って、小さな写真の魔導具で雌豚をパシャパシャ撮っていた。
「あの…座りたくない」「本気で嫌です…」
ロクとナナは雌豚の上に座る事を拒絶。
まぁ尻振ってハァハァするメイドになんて座りたくないよな。
仕方ない。私が座るか。
よいしょっと。少し揺れるな。
「あぁん! ご主人さまの温もりぃ!」
「黙れ動くな雌豚。じゃあ二人ともこっち来て」
ロクとナナの傷痕に触れ、呪いの破壊を試みる。
光魔法じゃ難しい強い呪いだけれど、破壊の力なら簡単。
バキッという音と共に、二人の黒い傷痕がただの傷痕に変化した。
後はエナジーヒールで傷痕を治せば…よしよし、可愛い。
「…ほんとに治った」「あ、ありがとうございます」
「服従系統の呪いだったけれど、何か変化はある?」
「あ…頭がなんか軽い」「本当だ。そうだ…私達はここから逃げようとして…イチに見付かった」
「イチ、怒ってた」「ディア様を裏切る奴は許さないって」
なるほど、ロクとナナは世界を壊すなんて嫌だったのか。二人で何処かの世界にひっそりと暮らそうとしていたみたい。
じゃあイチが他の子も操っている可能性もあるって事か。
「ねぇ、それなら私の所に来る? 二人なら大歓迎だよ」
「…でも」「またイチに見付かったら…」
「私が守る。ディアにも話を付ける。それで良いでしょ?」
二人の頭を撫でると、少し笑顔になった。良いって事だね。
それなら全力で守ってやるさ。今、ここに向かって来る者から。
雌豚から立ち上がり、扉に向かって仁王立ちで待ってやろう。
早歩きで向かって来る足音は、少しの焦りと怒り。そして憎しみも混ざっていた。
「ロク! ナナ!」
バンッ! と勢いよく扉を開けて現れた黒髪の少女。軍服に直剣を持った少女は、何処かで見たような既視感があった。
「あらあら、ノックも無しに入って来るなんて無礼も良いところ」
「……お前か…お前が…」
私が呪いを解除したから怒り心頭なご様子。
出会い頭に憎しみをぶつけられた方が、気が楽だよ。
「ふふっ、どうしたい?」
罵倒でもしたいのかい?
それとも、戦いたいのかい?
「……決闘を申し込む」
「良いよ」
合意した瞬間、斬り掛かってきた。折れないソードで受け、イチを蹴り飛ばす。
怒る気持ちは解るけれど、ここは狭いから外へ行こうよ。
窓から外に出て、手招きして挑発するとおー…怒っているな。
『アレスティア、私も私もー』
「じゃあズルして二人で戦おっかー」
「殺す…お前だけは…私が…殺す!」
呪いを解除しただけでこんなに憎むもんか?
まぁ知らないけれど、売られた喧嘩は買ってあげよう。




