反抗期って凄いなぁ…
「ねぇ君、聞きたい事があるんだが…」
「……」
レーナちゃんを諦め、男が私に話し掛けてきた。
黒髪女子同様に黒髪で転移者っぽい。十七、八歳くらい? んー、どうして黒髪の人ばかり転移者なのだろう…謎だなぁ。
いやレーナちゃん…痴漢用の警報装置を片手にニコニコしながら近付かないでよ。鳴らしたら大変だよ? リアちゃんが喜んでこの男を始末しちゃうよ?
「目が、見えないのかい?」
「答える義理はありません」
「良かったら、俺が治してあげるよ。こう見えて回復は得意なんだ」
「いえ結構です。光魔法の超級程度では無駄ですから」
「…解るのかい?」
「答える義理はありません。では…」
早歩きで騎士団方向へ向かうと、男も付いて来た。やだー付け回しだーストーカーだー。
早歩きのスピードアップ!
人の合間を縫って目隠し女が逃げるけれど、男は追ってくる。
まぁ逃げる必要は無いんだけれど、スリルのある追い掛けっこも悪くないと思ったのだ。
でもそろそろ城へ行きたい。
という事で路地裏へダッシュ!
一気に屋根へジャンプ!
星乗りでゴー!
ちょっ、ムルムーしがみつくなっ!
そこ顔だからっ!
ついでに包帯取るでない!
「あーもう取れちゃった。ムルムー、返して」
「グッドスメル」
「嗅ぐなや。おっ、転移者さんは流石に追って来ないかな」
「でも姫さまに見惚れていますよ」
「ふっ、私は罪な女さ」
「枕を濡らした男子が何人居る事やら」
破壊の瞳が発動しないように気を付けないと。
男は屋根に上がって私を見上げていた。
そして男の後ろに忍び寄るリアちゃん…白い槍を取り出し、サクッと刺した。
「なっ! にっ…だれ…だ…」
パンパンの周りを嗅ぎ回っていたから目を付けていたんだね。私の尾行までしたから我慢出来ずに闇討ちか。
いや、ヒロットの時みたいに契約で縛るっぽい。
「…アスきゅんのお尻を眺めた罪は重い」
「はな…せ…」
おい、詰まらん理由で槍を刺すな。
リアちゃんの機嫌が悪いな…またイッきゅんと喧嘩したか。
仕方ない…可哀想だから戻るか。
「リアちゃん、めっ」
「もう一声」
「やめるにゃん」
「仕方ないわね」
「姫さま、この話数で新しい男キャラなんて誰も望んでいませんよ」
リアちゃんが唇を尖らせながら槍を外し、冷たい視線で男を見据えていた。
男はリアちゃんを警戒しながらも、私を見詰めてくる。
「失礼致しました。ストーカー痴漢野郎だと勘違いしたみたいです」
「あぁ、全くだ。悪いと思ってるなら、話を聞いて欲しいな」
リアちゃんっ、槍が刺さっているよっ。
駄目だよっ。我慢だよっ。
「悪いとは思っていませんが、良いですよ」
「…勇者ミズキと天使様に会わせて欲しい」
「ミズキさんは現在アース王国に居るのでそちらへどうぞ。天使は多忙なので三ヶ月先まで予定が埋まっています」
「そうか…解った。アースか…」
「それでは私は多忙なのでもう行きます」
「あぁ…最後に、この世界で一番強い奴は誰だ?」
「それは、私ですね」
さらばだー。
私が天使だと気付いたみたいだけれど、どうでも良いかなー。名乗ってくれないからね。
星乗りでフーツー城へゴー!
んー? なんか狭い。
…まさか、リアちゃんも透明になっている?
右手を伸ばしてみると…これはムルムーの尻だな。
左手を伸ばしてみると……やっぱりリアちゃんの尻だ。
「……暇なんですか?」
「うん」
「別に透明じゃなくても良いですよね?」
「好きな時に視姦したいの」
「…そうですか」
話相手にはなってくれるから良いか。
因みに星乗りのスピードは前よりも格段に上がっている。
少し会話しただけで到着するぐらい速い。
という事で直ぐに着いてしまった。
とりあえず…まだ明るいから城の屋上へ行くかなー。
何があったか楽しみだなー。
不穏な魔力っていうから何か召喚したのかね?
確か怪しい祭壇があった筈。
「姫さまと城なんて久し振りですねー」
「そうだね。ムルムー、私はもう姫じゃないんだよ」
「私の姫はただ一人です」
「ムルムー…」
ムルムーが透明だから感動が薄い。
確かこの辺に……あれ?
祭壇が無いな。
うーん…撤去された?
一応深淵の瞳で視てみよう。
≪代償は、ベアトリスク・フーツー・ミリスタン≫
ん?
≪なっ…ぁっ…かっ…ぁぁぁあああああ!≫
お?
≪お姉さまの代わりに、私が断罪してあげる≫
「おぉー」
「何か視えた?」
ベアトリスクがおばあちゃんになった。
やるなぁコーデリア。
これが反抗期って奴か…
「コーデリアがここで召喚の儀式をしたみたいですねぇ」
「ふーん、誰が召喚された?」
≪人はどうしてこうも、欲深い生き物なのか。だが、その強欲も嫌いじゃない≫
「あっ、私そっくりの人ですね……なっ…女医さんスタイルだとっ!」
「あぁ…うん…そうなんだ…」
白衣だから研究者の格好かと思ったけれど、あれは女医さんスタイルだ。コスプレ大好きな私が確信しているから間違いない。
やはりコスプレ大好きなのはこの人の影響なのか…いや、結局周りの環境か。
……なるほど。私と同じような能力を持っている。
おっ? 私が生命の宝珠から産まれた事を知らなかったのか?
そしてその後、生命の宝珠に興味を持ち大地の王に会いに行った。
「リアちゃん、コーデリアとその人は…大地の王に会いに自殺の名所ツアーに行ったみたいです」
「狙いは生命の宝珠か…行ってみりゅ?」
≪ぐっ…が…はな…せ!≫
≪どうせ老い先短いんだ。実験に付き合え。前回の足りない分はこれでチャラにしてやるから≫
なんだこれ。
自殺の名所から帰ってきた後か?
へぇー……
「はい…行ってみたいです。あっ…ベアトリスクは、違う世界に連れて行かれたみたいです。実験をするみたいで…」
「そう…それは、大変かも…」
「嫌な予感はしますね。とりあえず行ってみましょう」
「うん」
あの人が実の母親という事…かな。
でも血が繋がっているというだけで、あの人に私に対する愛情なんて無いだろう。
私にはルゼルが居るし。
もし、会う事があれば…私は、どんな感情を持つのだろう。
まぁ…会ってみないと解らないけれど、私の事だから…喧嘩売りそうだなぁ。




