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御先祖様…いつか、お会いできることを楽しみにしております  作者: はぎま
終章・叶えてやるんだ
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挿話・運命に抗う者1

妹ちゃん視点です。

「お姉…さま」


 私は…何処で、間違ってしまった。

 何処で…いや、これは、私の運命だったのか。


 違う。

 そんな運命なんか、信じない。

 お姉さまの流した血を掻き集めながら、悪い事ばかり考えてしまっていた。


 お姉さまは、私を、見ていなかった。


 どうして、他の女を見ていたの?

 どうして、私を見てくれないの?

 どうして、あんなに楽しそうなの?

 どうして、私はあの中に居ないの?

 どうして、私を冷たい瞳で見るの?

 どうして、そんなに遠くへ行くの……


「なに…この子…」

 その場に残っていた勇者ミズキが私を見ている。

 今、話している場合じゃない。

 大地に染み込んで消える前に、お姉さまの血を集めないといけないんだ。


 大事な、大事なお姉さまの血。

 なんだろう…胸が高鳴る。

 少し土が付いているけれど、気にしない。

 手に付いた血を舐めると、胸の高鳴りが一層激しくなった。


「…美味しい…お姉さま」


 力が…湧き上がる…


 この高鳴りは…なんだろう。

 喜び? それに近い。

 大好きだから? もっと、上の…これは、愛?

 そうか、私は…愛していたんだ。

 心の底から。


 だからこそ、悔しい。


 自分の運命を変えられない事が。


 私の運命は、フーツー王国の女王。

 そんなもの、興味無いんだ。


 ……私が出来る事を、やってみよう。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「コーデリア姫? どうかなされましたか?」

「ぁ…いや、なんでもないわ」


 あれから、私はフーツー王国に帰ってきていた。

 帰り道の事は覚えていない。

 帝国で偽物女に何か言われたような気がするけれど、どうでも良かった。もう、用は無いから。

 母の計画は半分以下の達成らしく…酷く不機嫌だった。

 達成出来なかった部分は転移者を使って第一皇女と、白雲…お姉さまを殺す事に関係している。

 恐らく…お姉さまの言っていた魔族の召喚の生贄。


 正直、母の計画なんてもうどうでも良い。


「帝国グランプリの疲れが残っているようでしたら、夕刻のパーティーは欠席致しますか?」

「えぇ…そうね。まだ、疲れているみたい。お母様は?」


「はい、連絡しておきます。王妃様はライゼル殿下と過ごされていますよ」

「そう…ライゼルに会いに行こうかな」


「では、準備致しますね」


 また、つまらない日常が始まった。

 お姉さまの居ない色の無い生活。

 でも、それももうすぐ終わるんだ。


 少しだけ変わった事と言えば、母が男児…第二王子ライゼルを出産した。正直ライゼルに興味は無いのだけれど、今は我慢しなければならない。

 お姉さまが産まれたという生命の宝珠をどうやって手に入れるか、聞き出さなければいけないから。


「…お母様」

「リア、どうしたの?」


 母の部屋へ行ってみると、母はライゼルを抱いて私を出迎えた。


「ライゼルを見に来たの」

「ふふふ、リアはライゼルが好きね。ライゼル、お姉さまが来てくれたわよー」


 ライゼルの頭をそっと撫でると、小さな手で私の手を掴み、笑顔を見せた。

 侍女達が口々に可愛いと言うライゼル……これのどこが可愛いんだ?

 お姉さまの方が何百倍も可愛いだろう。


「……そうだお母様、聞きたい事があるの」

「ん? なに?」


「生命の宝珠って、なぁに?」

「……命を造る秘宝よ。誰から聞いたの?」


 少し空気がピリッとした。

 でも、口角を上げてライゼルを撫でればその空気も落ち着いた。

 もう少し、聞いてみよう。


「帝国新聞の総集編を読んでいたら、十五年前にフーツー王国へ寄贈と書かれていたので気になって…どうやって命を造るの?」

「私もよく、解らないわ。特殊な魔法を使うらしいけれど…」


 嘘だな。

 きっと詳しい資料はこの部屋にある。

 どうしよう…魔眼で運命を可能なだけ変えてしまえば、有利に動いてくれる…と思う。

 でも、もう遅いか。


「そっか、気になっただけだから。迷宮にあるの?」

「そうね。迷宮で手に入れるか、魔物から手に入れるか…」


「魔物? どんな魔物?」

「大地の王…おとぎ話の魔物よ。本当かどうか解らないけれどね」


 大地の王…お姉さまのマル秘資料に書いてあった。

 人が絶対に敵わない最強種。

 おとぎ話では、認められたら証を貰える。


「大地の王は何処に居るの?」

「確か…世界の果て、自殺の名所ツアーと呼ばれる場所らしいわ。ラジャーナの奥の奥ね」


 ラジャーナ…お姉さまが城の転移ゲートで密かに通っていた場所。

 今はディアス室長と共に通っている。

 魔物を倒して、魔石を沢山手にいれた。

 使い道はもう決まっている。


「大地の王かぁ。見てみたいなぁ」

「ふふふ、行く前に死んでしまうわよ」


 確かに、行く前に死ぬか。

 死…か。


「あっ、そうだ。屋上の祭壇ってなにを奉っているの?」

「…さぁ? 私が来た時からあったわ」


「ふーん。じゃあこの魔眼で視に行ってくるねっ!」

「駄目よ」


「どうして? 気にならない?」

「もし良からぬ事が起きたら大変よ。やめなさい」


 実はもう視に行っている。

 お姉さまが夜中に祭壇を調べていたから、ずっと気になっていた。

 これは母を誘き寄せる為に言っただけ。


「やめませんー」


 少しわがままな振りをして出ていけば、母は様子を見に来る筈。

 部屋を出て私の部屋へ行き、窓から出た。

 ここでお姉さまの使っていた鉤爪で壁を登る。

 屋上へ行く最短ルート。


 少し衝動的だけれど、前々からやろうと思っていた事をしよう。

 屋上にある祭壇は、儀式召喚をする為の設備。

 最大限に魔力を使って、断片的に記録を視たからやり方は解る。

 でも、魔族の詳細は解らなかったから…これは賭けに近い。


 母が美少女百人を生贄に使ったのは、当時はそれが一番安かったから。

 Aランク以上の魔石百個よりも、人の方が安かった。

 経済状況が悪い家に、王城で働けると言えば良い。

 本当に、駄目な母親だ。

 同じ血が流れていると思うと、自分を殺したくなる。


「よし…先ずは魔石を…」


 祭壇に到着した。

 私くらい大きな箱の中に、燭台と魔法文字の刻まれた魔水晶が納められていた。

 祭壇の周囲に魔石を置き、魔法陣の形にしていく。


 並べ終わり、魔法陣の中に入ると……なんだ?

 鼓動? 声?

 ……私の瞳が反応しているのか。


「リア! 何をしているの!」


 この光景を見て、血相を変えた母が近寄ってきた。

 護衛騎士も戸惑いながら警戒を始めた。


「何をって、視た事を試したくなっただけだよ?」

「馬鹿な事はやめなさい! 早くそこから出なさい!」


「ふふっ、ふふふ。馬鹿はお母様でしょ? 帝国を攻めるだなんて無駄だよ」

「リア…」


「お母様は大きな罪を犯した。私はそれを裁かなければいけない」

「罪? 何を…言っているの…」


 魔法陣に魔力を通していく。

 これで、この魔法陣の主導権は私。


「私は…この運命の瞳を覚醒してから、城で沢山の物を視てきた。国の不正、親の不貞、派閥、密偵、黒い歴史」

「どうして、教えてくれなかったの…私が、助けになったのに」


「はぁ? 助け? お姉さまを殺しておいて何を言う!」

「なっ…っ! リア! 落ち着きなさい!」


「あなたの浅はかな行動でお姉さまが死んだ! あなたの無知でお姉さまが覚醒してしまった! あのまま籠の中に閉じ込められていればもっと一緒に居られたのに! あなたの罪は外の世界を熱望していたお姉さまを解き放ってしまった事!」


 ――トビラヲヒラクダイショウヲ…ハラエ


 魔法陣が起動し、地の底から沸き上がる声が響いた。

 扉を開く代償は…生命力。


「くっ…殺しなさい」

「えっ…ですが…」


「殺しなさい! あれはコーデリアではない!」

「はっ!」


 母…いや、ベアトリスクが護衛に命令を下したけれど、もう遅い。


「代償は、ベアトリスク・フーツー・ミリスタン」


 ――リョウカイシタ


「なっ…ぁっ…かっ…ぁぁぁあああああ!」

「お姉さまの代わりに、私が断罪してあげる」


「今、すぐ! やめろぉ! コーデリアぁぁあ!」

「ふふふ、あの時は失敗しちゃったけれど…これで、お姉さまに褒めて貰える。運命の瞳…」


 魔法陣が輝き、空間に亀裂が発生した。

 生命力を代償にしたけれど、死ぬ訳じゃない。

 ヨボヨボのおばあちゃんになるだけ。

 ベアトリスクにとって、死ぬよりも辛いんじゃないかな。


「コー…デリア…貴様…」

「ふふふ、随分お綺麗になって…」


 運命の瞳を使い、護衛を操作。

 私の命令を聞くようにし、年老いたベアトリスクを拘束。

 これで、邪魔する者は居ない。


 その時…亀裂から、強大な魔力が溢れだした。


『…人はどうしてこうも、欲深い生き物なのか。だが、その強欲も嫌いじゃない』

「ぁ……うそ…お姉…さま」


 亀裂の中から…研究者のような白衣を着た、大人のお姉さまが現れた…銀色の髪が綺麗……あぁ…美しい…

 眼鏡越しに見える少し眠そうな目が、徹夜明けのお姉さまそのもの…


 ふふっ、ふふふふふふ…そうか。

 お姉さまは、このお方の血を元に作られた。

 このお方が、お姉さまのお母様!


 身体が熱い。

 このお方が、私の運命を変えてくれる。

 そう、確信した。


妹ちゃんは後1話続くかな。

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