不毛の地、エルドラドへ
エーリンの毒を研究して二日目、今まで緑溢れる土地から次第に草木が無くなっていった。
「エーリン、エルドラドに入った?」
「はいー、もう入っていますよー。あっ、あそこは妖鬼族の集落ですねー」
「全般的に鬼族が多いの?」
「はいー。確か、全体の半分くらいが鬼族で後は他種族ですよー」
へぇー。なんか別世界って感じだな。
草木が少なく、荒野が続いている。時折見えるオアシスには集落があり、紫色の肌をした鬼族が生活していた。
「なんか、指さしてくるね」
「まぁ、空飛ぶ物体なんて珍しいですし…攻撃されたら困るな。バランス崩れるから」
「エルドラドは好奇心旺盛な種族が多いですからねー」
確かにエーリンは何でも食べるからなぁ。
……人食べていないよね?
私の指を食べるくらいにしておいて欲しい…いや、食べる時点でやべぇ奴だけれどそこはエーリンだから仕方ないか。
……なんか、妖魔族が等間隔の円陣になってこっちに手を向けているけれど、攻撃態勢で良いのかな?
「レティ、来るよ」
「まぁ、そうなりますよねー。エナジーバリアで防げるとは思いますが…」
あの円陣で魔力を増幅しているのか。儀式魔法に近いな…おっ、妖魔族の魔力が中心に集まり、紫色のエネルギーが放たれた。
属性は…闇というか負のエネルギー。これくらいなら深淵の瞳で吸収出来るなぁ。
あっ着弾。少し揺れる程度だったからよしとしよう。
「アレスティアー、喧嘩売られたんで買って来ますねー」
「いってらー」
エーリンが、とうっ! と飛び降り、エナジーバリアに激突。
……ごめん、これ解除しないと出られないんだ。
「……いや、解除して下さいよー」
「待つの嫌だから先に行って良いのなら解除するよ」
「せっかちさんをお休みして下さいよー」
「やだー。無駄な事で待つのは苦痛なんだよ」
妖魔族をボコボコにしても得られる物は怨みだけだぞ。
エーリンは暴れたいだけだろ。無駄な殺しは駄目ですー。
「ぶぅー。殺しませんよー。じゃあ戻りますー」
「代わりに黙らせてあげるから。ソルレーザー」
バシュンっと円陣の中心に光の柱を落とした。
……お? 落とした場所に穴が空き、穴の中から緑色の煙が立ち上った。
なんだろう…少し旋回して中を確認……虫? でっかいハサミクワガタみたいな奴が死んでいる。
しかも妖魔族がそれを見てビックリしている。
……なんかその後…こっちに土下座をしている気がするな。
「おー、あれはアースイームの幼虫ですねー。食べるとクソ不味いんですよー」
「そうなんだ。アースイームって?」
「土地の栄養を根刮ぎ食べ尽くす大型の虫ですよー。幼虫の状態で駆除出来たのは、妖魔族にとって後十年は安泰を意味しますねー」
「へぇー私は良い事をしたんだな。崇めよー」
「アレスティアー、上げてくださーい」
「ジャンプすれば良いでしょ」
手を伸ばせば引き上げられるけれど、私が引き摺り下ろされるのでエーリンにジャンプして貰う。
そしてエーリンがとうっ! っと足に力を込めた瞬間…エナジーバリアを貫いてしまった。
「アレスティアー!」
「エーリーン!」
エーリンが真っ逆さまに落ちていく。
「「……」」
……着地。
周囲を見渡し、笑顔で鬼棍棒を担いでいた。
「ふんふんふーん、ふふふんふーん♪」
『うわぁー! 赤鬼が攻めて来たぞー!』『逃げろぉおお!』『全員防壁を貼るのじゃ!』
「……行きましょうか」
「……そうだね」
現地集合で良いか。
場所はなんとなく解るし。
「エーリンの脚力、異常ですよね」
「まぁ、うん。踏ん張ってバリアを貫くとか凄く強くなったよね」
「うーん、強くなったんですが…何かを隠していますね」
「何かって?」
「迷宮の宝箱の中身とか…視ようとすると逃げられるんで解りませんが…」
「そうだね…なんというか、エーリンちゃんの生命力が減ったような気がする」
生命力、か。
確かに、出会った時はミズキより弱かったのに…今は明らかに上回っている。
……前よりも好戦的になっているのは、副作用なのかな。
今も妖魔族が吹き飛んでいるし…
そこで無駄な力を使うなよ…
前よりもアホになっているぞ。
「……あっ、聞きたかったのですが…」
「ん? なに?」
「ちきゅうは女の子同士で結婚出来ますか?」
「あぁ…出来る国もあるけど、私の故郷では出来なかったな。今はどうか知らないけど」
「そうですか。あの…彼氏っていました?」
「んー…告白されたけど、返事をする前にこの世界に来たから…居なかったが正解かな」
「好きだったんですか?」
「まぁ好きと言えば好きくらいの感じだったよ。昔の話だね」
「…でももし戻ったら、告白された後に戻る訳じゃないですか。青春って奴ですね」
「いや…振るよ。流石に精神がオバサンだからね」
オバサンって言っても二十代だから…いやでも高校生とやらは子供に見えてしまうのか。
それより若い私はお子ちゃまなのだろうか。
「じゃあ、私はお子ちゃまですか?」
「レティは精神年齢高いからお子ちゃまだなんて思わないよ」
「へぇー、精神年齢いくつに思います?」
「私と同世代以上だね。ん? なにか…来る?」
「あっ、気付きました? 実は強い魔力の存在が進行方向から迫っているんですよ」
「早く言ってよ! ビビるじゃん!」
言っても言わなくてもビビるから良いじゃん。
っと、こうじゃれている場合じゃない。
標的が迫っているんだ。
「……これは、なんともまぁ」
「……ほんとに勝てるの?」
感じる魔力は、天異界序列六位ハズラドーナ以上。
大気がビリビリと揺れ、ミズキの手が震えているのが解る。
そっと手を握り、おまじないにヒールを掛けながら戦いやすい場所の付近でエナジーバリアを強化していく。
「初撃、来ます。ハイエナジーシールド」
「えっ、もう? うわっ!」
標的の姿を確認する前に蒼いエネルギーがシールドに衝突。
やばっ、吹き飛ばされるっ。
「ミズキさん降りますよ!」
「降りるってこれ墜落じゃん! いやいや怖い怖い怖い!」
星乗りが崩れ始め、回転しながら落下。
ぐーるぐる。
まぁこれくらいなら落ちても大丈夫でしょ。
っと着地。
ミズキはグデッと着地…いや落下。気を抜くからだよ。
「ふぅ…なんとも手荒い挨拶ですねぇ」
「ぐっ、なんで普通に着地してんのさ…ハイヒール」
「逆スカイダイビングで鍛えられましたからね。じゃあ、始めますかー」
「はぁ…ほんと、ラスボスには相応しいよ」
上空から激しい着地音と共に現れた蒼い体躯。
引き締まった筋肉質な胴体に、大きな両翼。
竜の顔を思わせる頭に、蒼い炎が纏わりつくように燃えている。
いやぁ…どうするかなぁ…正直かなり強い。
いや、強いと表現するのは間違っているのかも知れない。
ルゼルの領域に足を突っ込んでいる。
規格外だよ。
「作戦名を伝えましょう」
「一応、聞こうか」
「絶対、死なない事」
「そりゃ、難しい作戦だね」
『咎を背負う者よ…我が名は羅刹煌。黒金の力…戴こう』




