気高くはないぞ。
闘技台にシエラとヘルちゃんが登り、お互いに笑顔を見せながら握手をした。
仲良いのかな?
ヘルちゃんがシエラの耳元で何かを呟くと…
「なんだと!」
ギュルン! とシエラの首が回転して私の方を凝視した…怖えよ。
目を見開くな…直線上の子供が泣くぞ。
……ちょっと、こっち見過ぎ…軽く手を振ってみると、にへらっと笑って嬉しそうにしている。
「シエラちゃんも訓練に来てくれるんだよ!」
「そっか…お礼をしなきゃね…縞パンでもプレゼントするか…」
「シエラとヘル、二人は互角の強さです」
「えっ、そうなの? シエラも頑張っているんだなー」
シエラとはまともに戦った事は無いんだよなぁ…
二人とも木剣を持って対峙…シエラの方が大きな木剣、両手でも持てるサイズだ。
人気も二分している…シエラの方が剣聖の孫だけあって男性人気が高い。
『それでは…始め!』
――ワァァァァァァアアア!!
歓声が響く中、シエラは帝国流剣術の上段の構え。ヘルちゃんは剣先を下に向けて脱力の姿勢。
先に動いたのはシエラか。
「帝国流奥義…技の結界」
ピンッと空気が張り詰める。
己の神経を尖らせ、ヘルちゃん動きを把握する。
「…流石ね。見切られているのなら…力技!」
ヘルちゃんが正面突破!
剣先に手を添えて全身のバネを使っての袈裟斬り。
シエラは流石に力技で来るとは予想していなかったみたいで正面から受け止めた。
「くっ…重い…」
「無元流…十連衝!」
あれは一秒間に十回突きを行う肩と肘を犠牲にする技!
あっ、こっそり回復しながら突いている! ずるい!
シエラはなんとか防いではいるけれど押されている。
「負けない! 闘気爆発!」
剣を振り抜くとヘルちゃんが吹っ飛ばされた。あれは剣に魔力を乗せて暴発させる技か…中々上手いね。ん?
「あれ? そういえば魔法って良いの?」
「一応規定では剣技なら魔力込みでも有りです」
なるほど、吹っ飛ばされたヘルちゃんがくるんっと回転しながら着地。その場で剣を振ると、光の刃が飛び出した。
あっ、それ私の技!
光の刃を追うようにヘルちゃんが駆ける。
「姫様やるぅ! 爆裂破!」
シエラが木剣を振り抜き光の刃を爆発させる…いや、爆発技使って木剣大丈夫なの? あっ、魔力でコーティングしている…頭良いなー。
「言葉を返すわ! 雷迅剣!」
雷を纏う木剣で斬りかかる…
シエラは触れたら不味いと判断したのか再び闘気爆発を真下に放って自分ごと吹っ飛ばした。
「ぐっ…」
闘技台の両端まで飛ばされ、直ぐに床を蹴ってお互い距離を詰めて連撃の嵐。木剣同士の打ち合いなのに、身体に響くような重い音が響いていた。
二人とも攻撃しては弾かれを繰り返す激しい互角の戦いに、観客も興奮している。
「まだ速くなるか…爆破斬!」
シエラが逆手に持った剣を振り抜くと、遅れて連続した爆発が起きる。
ヘルちゃんは全て雷迅剣で斬り払った。
……木剣でよくここまで戦えるね。 観客席熱くないの?
「はぁ、はぁ、くっ…」
技の使いすぎでヘルちゃんが膝を付く…魔力量が少ないから短期決戦に持ち込もうとしたけれど、失敗したか。
「はぁ、はぁ、奥義…」
シエラも疲労困憊か。爆発を調整しながら戦っているから集中力も切れている。
最後の力を振り絞るように、両手に持ち替えた木剣を構えた。
「負けられない…」
「爆炎破斬!」
炎を纏う剣を横凪ぎに振るう。
食らえば勝負は着く。
「…雷駆動」
む? ヘルちゃんの身体に雷が纏わり…
スピードが急激に上がった!
爆炎破斬を紙一重で躱してシエラの脇腹に攻撃するも限界が来たのか威力が無い…
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
ヘルちゃんがシエラの後方に移動するも、息を荒くしてペタリと座り込んでしまう…魔力切れか。
「これで…終わり…ん?」
シエラはまだなんとか戦える…ヘルちゃんに向き合い、剣を構えようとした所で…
ボロッとシエラの木剣が崩れ落ちた。
最後の制御が乱れて木剣が耐えきれなくなったのか…
戦意はあるけれど動けないヘルちゃんと、ボロボロの柄を眺めるシエラ。
「……はぁ、剣を失うなんて情けない…私の負けです。姫様」
シエラがため息を吐きながらヘルちゃんに歩み寄り、手を伸ばす。
ヘルちゃんはキョトンとしながら、手を伸ばすとシエラにグイッと引っ張られ立たされた。
「……シエラ?」
「ほらっ、姫様…あなたの勝ちです。審判さん、号令を」
『あっ、はい! 勝者! ヘルトルーデ・ニートー・グライト選手!』
――うおぉぉぉぉおお!!
割れんばかりの歓声が場内に響き渡り、二人の勇姿を祝福していた。
ヘルちゃんは少しの間呆然とその様子を見ていたけれど、次第に実感が湧いてきたのか嬉しそうにシエラに抱き着いた。
……シエラ、今感動の瞬間なんだからさ……必死に浮気じゃないよ! っていう目を向けないでくれるかな?
おめでとうヘルちゃん。
あっ、ヘルちゃんがこっちを見てブイサイン。可愛いのう。
『それでは! 中等部門個人戦の表彰式を行います!』
ぱちぱちぱちー。
会場の興奮が続く中、表彰式が始まった。
大会運営委員の一言が終わり、十位から表彰され、二位のシエラも表彰された。
『優勝のヘルトルーデ皇女殿下に優勝の感想を聞きたいと思います!』
ヘルちゃんの番になり、会場は祝福ムード。ちゃんと実力でこの場所に立っているから雰囲気が良い。
ヘルちゃんはマイクを持って少し緊張している。がんばれー。
『おめでとうございます! この喜びを誰に伝えたいですか?』
『はい、ありがとうございます。この喜びは…私に剣を教えてくれた師匠に伝えたいと思います』
「アスティちゃんの事だねー」
「うん、まぁ、うん、そだね」
「んー?」
『素晴らしい戦いでした! 帝国流とは違いましたが、そのお師匠様の流派でしょうか?』
『はい。流派は伏せますが、師匠は同じ歳なのに私よりも強く、気高く、美しい…剣を持つ姫の先駆けなんですよ』
盛るな盛るな。
気高くはないぞ。
堕落しているぞ。下ネタ大好きだぞ。
ヘルちゃんの発言にみんなの頭に?が浮かんでいるぞ。
『同じ歳? あの…お師匠様とは一体…』
『私の師匠は、アレスティア王女です』
『は?』
「「「は?」」」
おー、どよめきが凄い。
しかも手を繋いでいるフラムちゃんの手汗が凄い。
べっちゃべちゃだ。
クーちゃんは私が元姫だって知っているからウンウンと頷いて、フラムちゃんを見ると口を開けて凄い顔で私を見ていた。
「あ…あ…アスティ…ちゃん?」
「なぁに?」
「ヘルちゃん様の師匠って…アスティちゃん…だよね?」
「当たり前じゃん」
「……王女様」
「フラムちゃん、これからもよろしくね」
「……はぃ」
べちゃべちゃの手を拭いてから、また繋ぎ直すとフラムちゃんがポーッとしながら私から視線を外さない。
惚れ直したかい?
これで距離を置かれたら泣くからね。
『あっ、あの…ど、どういう事でしょうか?』
『そのままの意味ですが? 今の私があるのはアレスティア王女のお蔭です。今もきっと…何処かで観ていてくれていると信じています。ありがとうございました』
上を見ながら話すヘルちゃんに、会場が感動ムードだね。
亡きアレスティア王女の意志を継いだヘルトルーデ皇女と言ったところだろうか…
私はここに居るよー。
めっちゃ元気だよー。
剣技大会も終わり、大会優勝者ヘルトルーデ皇女の師匠はアレスティア王女だったというのは瞬く間に広まった。
ヘルちゃんは王女のファンから質問責めにあったりしたみたいで、楽しそうに話してくれた。
これで、私がアレスティア王女だと気付いた人も出てくるだろう…うん、益々帰り辛くなったな。




