私がグレても知らないよ
北の扉を開けると、また草原が広がっていた。
でも違う所が一つ。道がある。
「レティちゃん、良い事教えてあげようか?」
「なんです?」
蛇行しながら続く細かい石の砂利道。
歩くとシャクシャク音が鳴って気持ち良い。
草も腰位の高さなので、見晴らしが良いな。
「アレスティア王女の遺体を探した本当の理由」
「盗まれたから取り返そうとしたんですよね?」
今、フーさんの岩龍に乗って道なりに進んでいる。
先頭がエーリン、真ん中が私、後ろがフーさんと、縦に並んでいる。
先頭のエーリンは岩龍の頭に乗って楽しそう。
真ん中の私はフーさんに抱っこされている…初めてのお姫様抱っこはエロフだったという結果が私の頭の中を駆け巡ったけれど、悪い気にはなっていない。むしろごちそうさまという訳だ。
「そうね。そこまでは正解。その取り返した後の話よ」
「お墓へゴーじゃないんです?」
「ふふふ、それはね…」
一々喋る時に耳元で喋らなくても聞こえるよ。
耳にフーさんの唇の先がほんの少し触れて、吐息がダイレクトに掛かる。私をその気にさせる気だな…だがその手には乗らんよ。
「それは?」
「アレスティア王女をコレクションにする事…つまり、剥製にするつもりだったのよ」
「…凄いゾクゾクしました。因みに…誰が私をコレクションにしようとしたんですか?」
「もちろん、皇帝よ」
もちろんの意味は解らないけれど、凄い趣味だね。
もしあの時、そのまま寝ていたら私は今頃……いやー、逃げて良かった良かった。
「じゃあ、アレスティア王女がレイン王国に居ると解ったらどうなるんです?」
「間違いなく情報収集はするわ。それで生きていると解ったら、なんとか理由を付けて帝城の後宮へご案内…かしら」
「別に皇子の婚約は破棄されたんで、行く理由は無いですよ」
「そうね。帝国は後手に回っているから、今更難しい。レティちゃんは強いし、繋がりも強い。ヒーちゃんがそれをさせないだろうし、ね」
ヒーちゃん? リアちゃんの事か。
まっ、後宮へ行く可能性が無いなら安心。早いところアース王国で用事を済ませたいな。
あっ、魔物。ゆびーむ。
魔物は結構出てくるけれど、三人でそれぞれ対応している。
エーリンは前方。私は横。フーさんは後ろを対応する。
「あっ、皇帝って美少女を集めるのが趣味なんです?」
「そういう訳じゃないの。お金じゃ手に入らない物を集めるのが趣味なのよ。レティちゃんって超美少女だから、皇帝のコレクションになり得る存在って事」
「嬉しくないですね。因みにどんな物がコレクションなんですか?」
「迷宮のお宝が多いかしら。貴重な魔物の剥製もあるし…特A級資料とか…色々ね…あっ、魔眼も集めていたわね」
「魔眼って、目玉をコレクションしているんですか?」
「そうよ。目玉に魔力を通せば能力を使えるものもあるから、魔眼持ちが死んだら目玉をくり抜くわ」
えー…やだー…
あれ? そういえば、フーツー城にも変な目玉があったな。宝物庫の見学で見た記憶がある……あれが魔眼だとしたら…ミズキが暴走した理由になり得る…か。
「じゃあ魔眼持ちは命を狙われますよね?」
「いや、自然死や予期せぬ事故死じゃないと能力は発現しないらしいの。だから手元に置いておくって訳ね」
なるほど…それが解るまで、何人の魔眼持ちが犠牲になったのだろう…
…それにしても、いつまでこの一本道は続いているんだろうな。私の予想では、草原の中を進めばゴールに着きそうだけれど…
「アレスティアー、何か見えますよー!」
「なにー?」
「でっ……かいウンコです!」
「どれどれ……おー!」
でっ……かいウンコだ!
絵に描いたような巻き巻きスタイル!
産まれたてホヤホヤの潤いあるホカホカな湯気持ち!
しかもその中に宝箱! アホか!
「何か中にあるわね。岩龍」
『ギュォオオ!』
岩龍が砂のブレスを吐いた。サラサラとした砂で、ウンコが乾いて少しずつ風と共に去っていく。
さようなら。もう会わない事を祈るよ。
……出てきたのは…茶色い宝箱。元々茶色なのか、ウンコの色が移ったのか解らないから触りたくない。なんかキラキラしているから尚更…
「アレスティアー、早く収納して下さいよー」
「嫌だよ。私の収納が汚れる。開けてよ。中身収納するから」
「嫌です」
「もう綺麗でしょ」
「例え綺麗だとしてもウンコの中にあったという実績があるだけで触りたくないですしむしろエルドラドではウンコを触ると縁が切れると云われているので触れません」
すげぇ早口。
そんなに嫌なの?
…仕方無い。
昨日手に入れた青い槍を使って開けよう。
よいしょ。よいしょ。
やった…開いた。
ふっ、どうよエーリン。
さて、中身を…中身を…あれ? 空っぽ…というか梯子が付いて下に続いていた。
すげぇ入りたくない。
入りたくないけれど、入らないと先に進めないんだろうな。
宝箱に触れなければ大丈夫っ…とぅ!
ジャンプして宝箱の中に入り、梯子を掴む。
宝箱の中から外の景色を見ると、エーリンとフーさんが何も言わずに私を見ていた。
「…後から続いてね」
「「……」」
「…先に行くから、後に続いてね」
「「……」」
「絶対…来てね」
「「……」」
無視……あーそうかい。良いですよ良いですよー。
ふーんだ。独り占めしてやるんだから。
私がグレても知らないよー。
梯子を降りて、降りて、二十メートルくらい降りると、床に到達。中は暗いけれどよく見える。
中央に台座があって白い石…ダイヤモンドじゃあないな。魔力の籠った水晶…魔水晶だ。純度が高いから、高価な一品。
その奥に宝箱を発見!
ははは! 独り占めしてやるんだから!
白い宝箱…中身は…
ダイヤモンドのアクセサリーセット…ネックレス、ブレスレット、イヤリング、ヘアピン、いや良いね良いね。
魔法のウィッグ…おぉ、色が変わるウィッグだ。
ぐるぐるメガネ…メガネを外すと美少女っていう古典メガネ!
青いドレスと赤いドレス…サイズ調整付き。
赤い細剣…剣先から火が出る細剣だから対人用かな。
緑色のハンマー…効果は地面から木を出す。
ミスリルの鍋…熱伝導率が高いやつ。
かれーるぅ? あっ、固まったアレだ…触りたくないな。
魔法書・ユダの揺り篭………おぅふっ! 拷問魔法だ。
アヴァロンの目薬…光の魔眼用か、ヘルちゃんにあげよう。
ざっとこんなもんか。
ドレスもあるし、行かないのにパーティーに余裕で行けるぞ。
後は…特に無い、か。
戻ろう。梯子を登って、外を見ると岩龍に乗ったエーリンとフーさんが談笑していた。
…ちっ。
「あっ、おかえりなさーい」
「…ただいま」
「…どうしたんですかー? 腕なんか広げて」
「抱き締めて良いよ」
「ちょっとなんでこのタイミングなのか解らないので遠慮しておきます」
…私は臭くないぞ。お花の匂いだぞ。見ろ、白い服は汚れ一つ無い。真っ白だ。私の心みたいに真っ白だ。
フーさん、抱き締めて良いよ。
「もう、レティちゃん可愛いわね」
おっ、フーさんが私を抱き締めてくれた。ありがとう…流石大人の余裕。エーリンとは違うね。
尻は揉まないで。
「アレスティアー、私は宗教上難しいんですよー。お祓いしないと駄目なんですよー」
「エーリンお祓い出来るだろ」
「…なんで知っているんですか?」
「私を誰だと思っている」
「白い人」
「ふわっとしすぎ!」
エーリンと話すと切りが無いな。
さぁ帰り道を探そう。
岩龍に乗って、進もうとすると転移陣を発見。
これ幸いと転移陣に乗ると、最初の部屋に到着。
終わり? いや、罠の部屋…西の扉が変わっている。
ご丁寧に扉には六つの窪み。
これまで手に入れた宝石を嵌めろという在り来たりな仕掛け……まぁ、私が取る選択は決まっているさ。
「エーリン、この扉を壊せ」
「流石、欲に目が眩んだ人は違いますねー」
いや、勿体無いだろ。
私の勘が告げている…この扉は頑張れば壊せるという事を!




