先祖の記憶・邪族戦2
星々を集めて、大きな月を形成。
私よりも密度が違う…練度も違う…参考になるな。
「大地を照らす優しい光よ…悪しき力を跳ね返す衣となりて…私の力となれ…魔装・月光の女神」
輝く羽衣をキリエが纏う。本気でいくのか。
魔装・月光の女神…おっさんをボコボコにしていた時に使っていた力で、リックの炎雷を纏う技よりも、何段階も上の魔法…超魔法特化になれる。
魔装…おっさんがキリエに教えていたな。己の目指す強さ、信念を魔力に乗せて具現化する魔法剣の最上位。キリエの目指す強さは…月光のように美しく、女神のように優しい、そしてキリエの中で誰よりも強い最強の存在…ルル。
私がもし魔装を使えるなら、キリエとは違うタイプになるだろうな。キリエは武器を使わない…いや、幼少期の影響で身体が弱くて使えないから。
『表の世界にも、強者は居るのだな。深魔剣技・剛炎黒牢』
深魔貴族インガラ…貴族というからには、階級があったり? 解らないけれど、普通の邪族とは違う事は確か。
今も黒い炎を大地に張り巡らせて、黒い火柱を出している。
上位の戦いになると、自分の領域を作る事が多い。
キリエは空に星を。インガラは大地に黒炎を。
「…流星群」
キリエがインガラに向けて星を墜としていく。一点集中で星が墜ちる様は圧巻だなぁ。
それ以上に…黒い剣で斬り、大きな盾で防いでいるインガラも凄い。あの巨体での高速斬撃。高速移動……私じゃ瞬殺だな……
「強すぎだよ…半月」
月に光と闇が射し、混ざり合わない半月が出来上がる。
白と黒。断罪の月か。
『深魔炎殺』
インガラが剣を大地に突き刺さすと、黒い炎柱がキリエ目掛けて空高く噴き上がる。キリエは躱す事無く直撃。黒い炎が球体になってキリエを包んだ。
でもキリエに炎は届いていない。
手前で停滞し…魔装の力で跳ね返した。
リフレクト・ミラーフォースの力かな。光と闇の属性も混ぜて反射しているから、ダメージはあると思うけれど…
黒い炎がインガラに直撃。
キリエが月を操作して、追撃していく。
「断罪の月」
インガラが燃えている間に大質量の月を墜とす。
衝突した瞬間に断罪の光が縦横無尽に駆け巡り、大地を壊していく。インガラはこれくらいじゃやられないと思うけれど、衝突後は反応が無いな。
――来るっ! 黒い斬撃!
真っ黒い剣が目の前を通り過ぎ、追撃が来る前に後退。乗っていた星が破壊される。
月を見ると、真っ二つに斬られていた。
まじかよ…灼熱龍を倒す程の威力だぞ。
斬れるもんなのか…
『深魔炎突』
――剣が伸び…刺さっ……てない?
両手を伸ばしたキリエの手前で止まっている…魔装を貫けないのか。
どれだけ強固なんだよ…
でも遅れて衝撃は受けた。
水平に飛ばされ、ビリビリと腕が痺れた。
「くっ…」
態勢を立て直そうとした所で、影が射す。
上!
『深魔奥義・煉獄』
炎が黒から真っ赤に燃える。
その真っ赤な炎がキリエ目掛けて放たれた。
視界が深紅に染まる。
それと同時に大地に叩き付けられる感覚…
「ぐぁあ! オート・エクスヒール!」
魔装を貫通する炎…焼ける腕…叩き付けられた衝撃で骨も折れている…キリエが初めてダメージを受けた。
回復魔法を施して、焼ける腕は治っていくけれど…
回復に回す魔力なんて無いのに…
劣勢だ。
『見事…これも防ぐか。ならば…黒炎の鎧よ、狭間の炎となれ。煉獄の鎧』
うわ…黒い鎧が深紅に染まる。
盾を捨て、両手に血のように赤く染まった剣を持った。
「はぁ…はぁ…満月」
全ての星を白く染めて、集結させた。
陰り一つ無い真っ白な月…
駄目だ…それを使ったら…魔力が無くなる…
『全ての力を込めよう…深魔絶義・煉獄炎殺』
深紅の炎が噴き上がり大地を、空を深紅に染める。
灼熱龍の炎よりも強く、綺麗な血の色…
あれが…インガラの本気か。
キリエは…
「全てを裁く聖なる月…審判の月光!」
神聖な光を放つ大質量の月…
空に白い蓋をしたような…アホみたいな大きさ。
一人だからこそ出来る超範囲を狙った…
キリエの最大の攻撃魔法…
炎が光に触れると…溶けるように浄化されていくけれど…少しずつ。
このまま行けば倒せるけれど…早く倒さないと…どんどん魔力が減っていく。
「あぁ…どうしよう…仕方ない…目の前の敵!」
両手を振り下ろして、審判の月光をインガラ目掛けて墜とす。
よし炎が消えた…後はインガラだけ!
インガラは血赤の剣で炎の技を繰り出しているけれど、浄化の光に書き消されていく。
『見事……また…一から出直しか』
審判の月光がインガラを押し潰す。
大地を浄化し、音をもかき消して、ゆっくり…ゆっくりと大地に沈んでいく。
「はぁ…はぁ…もぅ…駄目かも…」
後に残るのは、インガラの残骸。砕けた鎧の中に、黒い球体が覗いている…魔石か核かな?
うーん…勝った…
でも…
まだ、円柱は存在している。
――パチ、パチ、パチ、パチ。
…拍手?
円柱から聞こえる。
『これはこれは。インガラを倒すなんて、素晴らしい御方ですねぇ』
「…誰? っ! 何この強さ!」
円柱から、黒いスーツを来たオールバックの男が出てきた。纏う空気は…インガラよりも格上。まじか…
『申し遅れました。わたくし、裏世界の王にお仕えするロンドと申します。邪神候補の深魔貴族が最速で敗れたので見に来たのですが…ふむ』
じろじろとキリエを眺めるロンドと名乗った男。
裏世界に王なんているんだな。
それに邪神候補? インガラは邪悪の力って言っていた…
ロンドは眺めた後、ウンウンと頷いて笑い掛けてきた。
『聖女様でしたか。王が中々帰って来ないので、わたくしが奮闘した甲斐がありましたねぇ…』
「…こんな事をして…何が目的?」
『今、千年程邪神が不在なのですよ。ですので、一番華々しく活躍した者にこの邪悪の力を授けよう…そう裏世界に伝達したら盛り上がりまして…』
「邪悪の…力」
ロンドが出した禍々しい黒い塊……あれは…懐かしい気分にさせられる。あれが…根源か?
邪悪の力を貰う為に…邪族が進行してきたのか…だとしたら、こいつが元凶…
『今頃…他の世界にも我らが侵攻している事でしょう。さて…幾つの世界が我らを退けますかなぁ』
「……」
楽しそうに笑うな…
他の世界…正直それに意識を持っていくなんて余裕は無いね。
いつ殺されてもおかしくない状況だから。
『聖女様、わたくしは少しこの世界の神と話をしてきます。それまで……え? はい、意外ですね…あなた様が来たいというのは』
ロンドが楽しそうにパチンッと指を鳴らすと、黒い円柱が縮んでいく。
三十メートルくらいから、五メートルくらいに……
これは…
インガラよりも強い奴が出てきそう…うわ…出てきた…
「何なんだよ…もう…」
もう訳が解らないよね…ロンドより強いや…
出てきた邪族は、黒髪黒目に白い肌…黒い衣を纏い、背中には漆黒の翼。天使のような美しさ…内包された強い力…それに邪族っぽくない。
『それではルゼル様、よろしくお願い致します。殺しても良いですが、魂は消さないで下さいね』
『…ふん、早く行け』
『では、また』
ロンドは笑いながら、スーッと消えていった。
残されたルゼルと呼ばれた女性は、こちらをじっと見詰めて…バサッと翼を広げた。堕天使のよう…あれ? この人、星属性持ちだ…
『我は、核星使ルゼルという者だ。名を訊こう』
「…キリエ」
『そうか。ではキリエ、足掻いてみせよ』
「…はぁ…困ったな。勝てる気がしない」
ルゼルから溢れ出す黒と銀のオーラ…
ちょっとこれは…
魔力があっても勝てないぞ…




