闘技大会まで二週間…剣の試作品が出来たみたい。
週が明けて、クーちゃんと手を繋いで出勤。
クーちゃんは地味少年の格好だけれど、スタイル良いから目立つな。リアちゃんから私と同じ地味眼鏡を貰ったから、エルフのメンズに変わって貰った時は格好良かった。恥ずかしいから街ではやらないらしい。勿体無い。
地味少年と手を繋ぐ私を見て、騎士さん達がざわざわしている。
眼鏡を見て感付いたベテラン騎士さんが、ウンウンと頷いて去っていく一方…新人騎士さんはクーちゃんを睨んでいた。
もしクーちゃんが受付をやり始めたら手の平を返すんだろうなーと思いつつ、私の机に積み上がった剣術指南依頼書を見てため息を付いた。
……この依頼書は何枚あるんだ?
私の身長を超えているぞ。
依頼書の横には不承認の判子が置かれ、『頑張ってね』という書き置き。
クーちゃんは隣で勉強中。
私は先ず仕分けをしようと思い、剣術指南をする対象を男性と女性に分ける。
男性への指南は申し訳ないけれど、全て不承認。
依頼書の九割以上は男性だった…
残ったのは二十枚。
女性への指南依頼のみ。
その中で貴族は不承認。貴族はベラで充分だし。
残る十枚。
道場への指南依頼は…一つの道場に肩入れするとうるさいからなぁ…ついでに男子もって言われる可能性大だし不承認。
残る七枚。
三枚は女性騎士さんか…帝都とアクアシティと商業都市から。帝都なら良いかな、近いし。
騎士学校の女子クラスへの指南依頼が三枚……これは…第三騎士学校にしようかな。第三は平民しか居ないから
残る一枚……パンケーキのお店パンパンから、依頼内容は秘密と書かれている。これは不承認で良いや。どうせプライベートでやるから、特事官としてやらなくても良い。
承認の判子を押したのは、帝都の女性騎士さんの依頼と、第三騎士学校中等部の女子クラス。
そういえば帝国流剣術じゃないけれど、良いのかな? 試合をすれば良いか。
「あっ、あの! レティさん居ますか!」
「はーい。何でしょうか?」
ダグラス君、デカイ不承認の判子を持つ私を見て何かを察したみたいだな。
「剣術指南依頼を出したんですけど…承認はされますか?」
「すみません、依頼数が多すぎて女性限定になりそうです」
「そっ、そうですか……あの…それと…彼氏が…出来たと…噂に聞いて…」
「彼氏? 出来ていませんよ」
「えっ…そうですか! じゃ、じゃああの人は…」
ダグラス君の視線の先には地味少年クーちゃん。なるほど、彼氏だと噂になっているのか。クーちゃんと噂になるなら大歓迎だけれど、クーちゃんに迷惑が掛かりそうだから否定しておかないとなぁ。
「同僚のクーちゃんですよ」
「……ちゃん」
ダグラス君はクーちゃんって呼んだら駄目だよ。
呼んだら睨むからね、クーちゃんが。
まぁ、暇で気が向いてズボンの日なら相手をしよう。
……ん? クーちゃんどうしたの?
私の肩に顔を乗せてダグラス君を見詰めている。仕事中はくっ付いたら駄目だよ。
「君は、レティが好きです?」
「ぅえ!? いや、あの…」
おっ、クーちゃん攻めるねー。
私とクーちゃんでダグラス君を見詰めると、ダグラス君はダダッと逃げ出した。
「クーちゃん、思春期の男子は女子に気軽に好きなんて言えるもんじゃないよ」
「そうなんです? ヘタレですね」
「まぁ良いんじゃない? 彼はモテるし。この前女子とデートしていたのを見たし、自分から言う必要無いんだよ」
「ふーん。じゃあ私がレティの彼氏になるです」
なぜそうなる。
その答えに行き着いた理由を述べよ。
おっ、クーちゃんが地味モードを解除。
そして男モードに変更…イケメンに早変わりした。
「もしかしてずっとそれでいくの?」
「はい、レティに男は要らないですから、私が彼氏になるです」
「うん? うん…ありがとう?」
彼氏にならなくても男は要らないぞ。よって彼氏になる必要も無いぞ。
まぁ…良いか。良いのか?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
仕事が終わってグンザレスさんの武器屋へ行く。
クーちゃんと、待ち合わせしたヘルちゃんの三人で武器屋に入る。
「こんにちはー」
「おう、出来たぞ」
早速店の奥へ行き、出来たという武器を見せてもらう。
試作品というけれど、完成度は凄いな。
少し小振りの女性用。
刀身は黄色く、骨と爪で出来ている。柄はシンプルで持ちやすい。少し魔力を流すと、バチバチと雷が発生した。凄いなこれ。
うーん…持ちやすいけれど……
ヘルちゃんに渡してみよう。
「……重いわ」
「あぁ…やっぱりか」
ヘルちゃんが一振りして首を振る。
鉄の剣並みに重いから、扱いにくいな……
「軽量化は出来ますか?」
「出来ない事は無いが…魔法効果が半減するぞ…」
「付与魔法着けます?」
「ん? 何それ」
クーちゃんが紙に何やら魔法陣らしきものをカキカキして、剣にペタリと貼る。
この状態で魔力を流せば良いらしい。
ヘルちゃんが魔力を流して振ってみる。
「……軽いわ」
「クーちゃん凄いねー!」
「なるほど、杖にやっている付与を剣に応用…簡易的な魔導剣にするのか」
雷牙王ほどの素材なら、軽量化の魔法陣を刻めば簡単に効果を発揮するらしい。でも魔力が切れると重たいソードになるよ。
「剣の柄に穴を空けて、魔石を入れれば良いです。事前に魔力を込めれば一日くらい簡単に保ちますし」
「なるほど……でも俺は必要な陣を刻めねえぞ。委託すると情報が洩れるし」
「友達の為なら私がやるですよ」
クーちゃんがチラリとヘルちゃんを見る。
あっ、ヘルちゃん嬉しそう。珍しくニヤニヤしている。
クーちゃんは付与魔法やら魔法剣やらの知識が凄い。魔槍を使うのに必要不可欠らしい。
今度は付与を使う前提で剣を作るみたい。
「この試作品はどうする? 使うか?」
「私達には扱いにくいですからねぇ……あっ、大会の人に見せてみたらどうですか? SSランク素材の剣ですし」
「あー、良いのか?」
「はい、もちろん対価は貰いますよ。直ぐそこに居るみたいですし」
魔力感知に覚えのある人が引っ掛かる。
準備中の看板を見て立ち尽くしているよ……
じゃあグンザレスさんよろしくー。




