あーんをしないお茶会なんてつまらんよ
一夜明け、クーちゃんと身支度を整える。
私と一緒に居る時は、地味眼鏡を掛けたくないと言われたので、クーちゃんは眼鏡無し…私は眼帯で家を出た。
クーちゃんは耳を隠すのに毛糸の帽子を被って、黒い革ジャンにスカート…脚長いから格好良いな。私は白っぽい服を適当に…最近学校以外は白い服しか着ていない気がする……
行く場所はパンパン。
モーニングセットが目的だ。
朝ごはんの材料を買い忘れたからね。
「レティ、今日は何するです?」
「今日はねぇ……あっ、収納魔導具買いに行かない? 帝都に来た時、大きなリュックだったでしょ?」
「買うお金無いです」
「大丈夫! 身体で…げふんっ…今度ラジャーナで高ランク狩りを手伝ってくれるなら安いもんだよ!」
クーちゃんと一緒なら、SSランクを大量討伐可能だ。ついでに強くもなれるし、バラスに草原の奥まで送って貰おう!
パンパンに到着し、カウンターに座ってモーニングセットを頼む。……ムルムー、写真は了承を得てからにしなさい。
クーちゃんの眉間がシワるじゃないか。
あっ、リアちゃん。クーちゃん用の地味眼鏡下さい。御代は身体で払いますので。
「……美味しいです。帝都は美味しい物が沢山あるです」
「良かったぁ。エルメシアのご飯はどんな感じなの?」
「全体的に味が薄いです」
「あぁ…素材の味を大事にする風習があるって本に書いてあったなぁ。でも故郷の味に慣れるものじゃないの?」
「時代錯誤の料理人が多いだけです。ジャンクフードも食べるですよ」
最近ジャンクフードやら近代的なお菓子やらのお店が増えて、若い子はみんな濃い味を覚えてしまったみたい。時代の流れって奴だね。
帝都も最近増えて来たなぁ…すむーじー屋さんとか、はんばっが屋さんとか、ぽてち屋さんとか……
ほとんどの料理はパンパンかロンロンで食べられるから行かない。料理のレベルが違い過ぎるからなぁ……みんな独立しても成功出来るだけの腕を持っているのに…リアちゃんの為、後輩達の為に働いている。帝国の母ってやつだね。
おっ、ヘルちゃんがやって来てクーちゃんを見詰めている。
……ヘルちゃんの見定める視線と、クーちゃんの何も考えていない視線が交差した。
「私、ヘルトルーデ。宜しく」
「クーメリアです。宜しくです」
カウンター越しに握手を交わして、割りと和んでいる。フィーリングが合うのかな?
「アスティ、お願いがあるの」
「なーに?」
「お姉様に会ってあげて欲しいの」
「お姉様……是非と言いたい所だけれど、目的は?」
「ただ会ってみたいらしいわ。目的なんて聞けないわよ」
この前ヘルちゃんとバラスのお花畑に行ってお誕生日用の花束を作った。まぁ、珍しい花だから目的はそれだろうね。ヘルちゃんは入手経路は言わなかったみたいだけれど、お友達と花束を作ったとは言ったらしい。
となれば、私に聞けば教えて貰えると踏んでいるのか……それともヘルちゃんのお友達だから挨拶したいのか……会ってみないと解らないか。
会わない選択も出来るけれど、味方になり得るなら味方に付けたいな。ヘルちゃんの目標…同性婚の手助けになる訳だし。
「会うとしたら…場所は?」
「場所は、お城の庭園。お茶会ね」
「…お茶会マナーを知っている平民ってどう思う?」
「まぁ…素性を調べるわね。でも下手な演技は得意でしょ?」
「まぁね。でも非公式でしょ?」
「ええ。マナーなんて適当で良いわよ。あーんとかしなければ大丈夫」
「えっ、ヘルちゃんにあーんしなかったらお茶会の意味ある? 無いでしょ? 何の為に行くの? 拷問されに行くの? 私はあーんを譲らないよ」
「……そこは自重して。私も自重するから」
ちぇっ。堅苦しいのは苦手だよ。
まぁ第二皇子みたいに後でグダグダするより、今の内に顔を合わせるのも悪く無い、か。
「良いよ。いつにする?」
「助かるわ。日時は追って伝える」
お姉様…第一皇女か。
ヘルちゃんの話では、優しくて美人で大人っぽくて知識が豊富。民衆からは慈愛の姫なんて言われている。年齢は十七。婚約者は一応居るけれど、公式には発表されていない…
「クーちゃんは行く?」
「嫌です」
「だよねー」
とりあえず近々の予定が多いなぁ……クーちゃんの買い物が終わったら、可愛い手帳でも探すか…いや、作った方が早い。むしろ、パンパンの店員さん達に作って貰おう! 大量に!




