正直…魔法主体の戦闘スタイルは合わないと思う。
白と黒の煌めく星々。
環境魔法というだけあって、見渡す限りに存在していた。
この場合…星というのは、星属性を含んだ魔力体を差す。
ほんの少し、キリエがこの魔法を使う場面が見えた。
使い方も、解る。今の私は、キリエモードというべきか…
「星乗り」
星が肥大し、飛び乗ると自由に移動が可能になった。
上昇して灼熱龍の前に浮かぶ。
顔おっきいなぁー。牙が私の身長超えてんぞ。
フーさんは灼熱龍を召喚中は攻撃出来ないみたいだから、こっちに集中しよう。おっ、クーちゃんがフラフラとフーさんの元へ行ったな。
『面白い奴だな』
「ありがとうございます。短い時間ですが、宜しくお願いします」
声デカイから耳がキーンとなるな。
時間はあまり無い。理由はこんなデカイ龍が出たら騒ぎになるからね。
という事で…
始めよう。
両手を上に掲げると、星々が空に向かって上昇。
昼間に星空が出来上がった。
「白の流星」
人差し指を振り下ろす。
白い星が肥大し、灼熱龍へと墜落。
…衝撃は与えたけれど、深紅の龍鱗が流星を直ぐに熔かすか…
灼熱龍は余裕の表情…ふっふっふ、その余裕も直ぐに剥がれるさ!
「流星群」
上空より飛来する白と黒の流星群。
空気を切り裂くような音を立て高速で衝突。
更に次々と流星が衝突していく。
これには痛そうに龍鱗から炎を噴き出させた。
「黒の彗星」
追撃の黒星!
黒い星が集まり大きな星が出来上がる。
闇のエネルギー体が隕石並みの速度で墜落。
灼熱龍の身体がブレる程の衝撃!
ほらほら攻撃しないと私が調子こき子ちゃんになるぞい!
『…耐えろよ』
灼熱龍が息を吸い込む。
少し仰け反って…
来る!
そいじゃあもう一つ!
「ライトシールド! アビスシールド! 合体!」
光の盾と闇の盾を合わせ、銀色の盾が出来上がる。
更に星の属性を乗せる。
さっき偶然出来た魔法はキリエの得意な魔法…
『――ゴォアアア!』
――来た!
灼熱のブレス!
触れると焼け死ぬ!
熱っ! っ出来た!
「リフレクト・ミラーフォース!」
目の前に魔法の鏡が出来上がった。
灼熱の炎が鏡に衝突…
少し軋んでいるけれど頑丈だな…
確か、こっちが耐えきれば…跳ね返せる。
もう少し…ブレスが終わるまで…
視界が真っ赤…呑み込まれたら死ぬ。
でも大丈夫。
この魔法を信じれば…
必ず。
跳ね返せる!
拮抗していた炎が形を変え…
そして、灼熱龍へと射出された!
うぉぉおお! 炎の色が白くなった!
跳ね返せると威力も倍増!
そのまま灼熱龍に白い炎が衝突!
もちろん効かない! 無傷! むしろ回復している!
そりゃそうか。炎の龍に炎の攻撃なんて回復して終わりだもんね。まぁでも、ブレスが効かない証明が出来た。さぁどうする? 私はまだまだ闘えるよ!
「月よ…」
更に上空へと上昇。
周囲に展開されている星々を操作。
白と黒の星々が集結していく。
やがて月のような大きな星へと変化。
どんどん肥大していく。
十メートルを超え、二十、三十……五十メートルを優に超えてきた。
さぁ…これに耐えられるかな?
「半月」
巨大な月が白と黒の半々に染まる。
混ざり合わない光と闇の半月が出来上がっていく。
大質量の星を見ていると、この環境魔法の強さを実感出来る。
灼熱龍と軽く渡り合える魔法…ふふっ、自分で使っている癖に嫉妬しちゃうなぁ…
星体観測は、キリエの魔法だから…私が真似ているだけ。私のものにするには、私に合った形に作り変えなければいけない。
キリエのように魔法主体の戦闘スタイルは合わないから、ね。
『始まりの炎を受けてみよ…』
「くふっ、では…審判の力を受けてみて下さい」
灼熱龍が身体を大地に固定し、大きな口を私に向けると真っ赤な魔法陣が出現。デカイ…
龍鱗から発生した炎がどんどん口の前に集まっていく。
収束、凝縮、圧縮を繰り返し、超密度の…炎を超えたエネルギー体へと昇華していく。
『…エンシェント・フレア』
これは…まるで太陽。
炎とか、そんなレベルで言い表せないエネルギーそのもの。
……面白い。
「力比べと行きましょうか…断罪の月」
思い切り両腕を振り下ろし、大質量の月を墜とす。
超エネルギーの太陽と…
白と黒…反発するエネルギーを持った月が…
ぶつかり合った。
超エネルギー同士の衝突で、周囲に衝撃波が発生。遅れて轟音。鼓膜が潰れる…クーちゃんが吹き飛ばされている気がするけれど、なんとか頑張って。
衝突後は中心部で停滞。
拮抗している…いや…少し、分が悪いか。
『――ガァァアアア!』
くっ…灼熱龍が力を増した。
ちょっとマズイ!
アレやるか?
やっちゃう?
やっちゃおう!
「深淵の瞳! 月蝕!」
白と黒の半月を真っ黒に染め上げる。
深い黒色…深淵の月を呼び覚ます。
これは、周りの事を考えられなくなるからあまりしたくなかったけれど、今やらないとチャンスが少ないから。
あぁ…思考が荒れる……
壊してしまいたい……この衝動は…いつもと違うな…
ギュンッ! と…黒い月が巨大化する。
灼熱龍よりも大きな月。
美しさの中に、時折見える禍々しさが愛おしく感じる。
灼熱龍が月を見上げ、大きな顔を歪ませて笑う。
楽しいかい? 私も楽しいよ…全力を出せる相手が現れた喜びは…最高の出会いだよね。
『お前が人間だというのが…惜しいな』
「くふっ、喜悦。私の勝ちです…奈落の月」
黒い月が太陽を呑みこみ、灼熱龍へと堕ちる。
衝突し、力を使い果たしたようにスーッと消えて行った。
ふふっ、最後まで楽しそう。
また会いましょう、灼熱龍さん。
「……はぁー、楽しかった!」
うんうん、楽しかった。
いやー、デカイ物をぶっぱなすってストレス発散になるね!
おっ、ラジャーナから衛兵さん達が向かって来ている。到着まで後二十分という所かな。
今の内に退散しなきゃ。
星乗りを操作。
スーッと地面に着地。
月が墜ちた地点から離れた所に、息を切らしているフーさんをクーちゃんが支えている光景を目撃。なんだかんだで仲良いじゃん。美しい姉妹愛だね。
近付いてみると、フーさんは魔力を使い果たした様子。顔が火照り、緑色の瞳が潤んで、唇が荒い吐息で濡れている……めちゃんこエロ…げふんっ、辛そうだな。
「フーさん、良い出会いをありがとうございました」
「…私も…お礼を言わせて。グドラームが、楽しかった…って言ってくれたの。ありがとう…本当にありがとう」
「私も楽しかったです。先ずは、ここから離れましょうか。ラジャーナから人が向かっているので」
魔力を口移しすればフーさんは元気になるんだけれど、今チューしたら駄目な気がする。クーちゃんが私を訝しげな目で見ているし、フーさんは私に対して真面目に感謝を伝えている状況。
一応魔力回復ポーションを飲んだみたいだし、大丈夫か。
とりあえずクーちゃんに幻術を使ってもらってラジャーナに戻ろう。




