これで気兼ねなくぶっ飛ばせる。
騎士団長さんの訓練に耐えられるとあって、三人ともセンスが良いな。息切れをしながらでも攻撃をやめる事をしない。
三人が同時に剣を振り下ろす。
同時と言っても同じタイミングで斬られる訳じゃないから対処は簡単。
「――閃弾き」
全部弾けば良い。
三人の剣が上に弾かれ、がら空きの胴を骨が折れない程度に叩く。
「ぐっ…」
痛みに耐えながらの攻撃は効かないよ。
痛みに慣れなきゃいけない。
という事で…
「無元流・散り桜」
三人の首から下に満遍なく木剣を当てる。
辛うじて立てる程度に調整しながら…股間は騎士の情けでやめておいてあげよう。
「ぁっ――がっ――ぐっ――」
「耐えて下さい…朧三段」
皇子の横をすり抜ける合間に両腕と胴を打つ。
皇子は耐えきれずに木剣を落とし、膝を付いた。
「お次は…清流剣」
ダグラス君の身体に水が纏わり流れていくように、なぞるような軌跡で木剣を走らせる。
木剣だからあまり威力は無いけれど、斬られたという実感か強い攻撃だ。ダグラス君が硬直。
「最後、強撃」
両手に持ち換え、ジードの木剣に力を込めた一撃を放つ。
木剣で一瞬耐えていたけれど、身体ごと吹っ飛ばした。
「みなさん、痛みに対する耐性が足りないです。魔物は待ってくれませんよ」
* * * * * *
「ったく女の子一人に情けねえなー」
「…お前馬鹿か? ジード君もダグラスも殿下もお前より強いぞ。レティちゃんが強すぎるんだ」
「えっ、まじすか?」
「そうそう、レジンさんとまともに打ち合えるんだから、俺達より強い」
「帝国流じゃないから見るだけで勉強になるぞ。レティちゃんが来てから強くなった奴多いし」
「……精進します」
* * * * * *
あっ、今日はフラムちゃんとお買い物の日だった。そろそろ終わろうかな。
「ところで、みなさんはどんな魔物を倒しているんですか?」
木剣を向けた臨戦体制のまま、質問をしてみる。
男子の流行りとかも知りたいんだよね…学校で男子と話しても話が合わなくてさ。
「俺! この前オーガ倒しました!」
「ダグラスさん良かったですね。もう一人前を名乗れますよ」
オーガを倒せれば騎士としては標準。
もちろん事務系統の人は違うけれど。
ジードと皇子も同じか。
「レティはどんな魔物を相手にするんだ?」
「それはですねぇ…秘密です」
Aランク以上だなんてザワザワするから言えないよ。
ジードは察したみたいだけれど、皇子は不満そう。
「お三方は折角仲良くなったので、一緒に魔物を倒しに行ってはどうですか?」
「レティさんも一緒にですか!?」
「いえ、私はご一緒出来ません。忙しいので」
「そ、そうですか…」
ラジャーナにはお友達と行くから、予定が空いていない。
じゃあお友達も一緒にと思うかもしれないけれど、中々難しい。
フラムちゃんとミーレイちゃんは男に冷たいし、チロルちゃんは警戒心が強い。ヘルちゃんに至っては男が居るなら来ない。
シエラは多分大丈夫だけれど、私と居る時はキャラ崩壊が凄いし……
私一人の時はバラスに会いに行きたくなるから、結局予定を合わせるなんて面倒な事はしないかな。
「ところで、皆さん気付いていますか? 話をしている間に攻撃を受けた事…」
「「「…え?」」」
三人の背中に矢の形をしたライトが刺さっている。
魔力感知は必須だよ。
「どんな攻撃にも対処しなければ、上位の魔物とは戦えませんよ。っと、このくらいで私は用事があるので帰ります。皆さん、貴重なお時間をありがとうございました」
一礼して帰ろう。騎士団長さんには手を振っておこう。
ほらっ、騎士さん達どいてどいて。仕事に戻りなさい。
「レティちゃん格好良かったよー!」
「ありがとうございます」
「今度闘ってくれよ!」「俺も!」「俺も!」
「騎士団長さんを通して下さい」
「「「うっ…」」」
気が向いた時と、ズボンの時しか訓練はしないよ。
まぁ、これでレティはある程度の強さを持っているという証明が出来た訳で、気兼ねなくセクハラされそうになったらぶっ飛ばせるね。
男社会だから、デリカシーの無い方も多い。
女性騎士さんが泣いている姿も見た事がある……
許せない。でもその現場を見ないと言い逃れをされてしまう。
だから、見付けたら私は容赦しないよ。
現在ミリアさんと一緒に計画している事がある。
女性騎士のコミュニティを作って、情報交換、悩み相談等の場所を設ける計画。
でも本格的にやるには人が足りないからなぁ……がんばろ。




