地味…
調査を終えた私は、特事班の本部に戻り、ミリアさんから手続きの説明を受けていた。
「アスティちゃん。宜しくね。仕事内容と出勤はロバートが管理してくれるから相談し合ってね。給料は高額じゃなければ、騎士団の詰所ならどこでも引き落とせるから。身分証は今ロバートが作っているから待っててね」
「はい、了解しました。学校について教えて貰えますか?」
「良いわよ。帝都の学校は大きく分けて、一般、魔法、騎士の学校なの。アスティちゃんが入れるのは一般の方ね。
週2日の授業過程だから、ちゃんと学科を選ぶのよ」
「はい!」
曜日毎に受けられる学科が違う。
一般的に平日は、無、火、水、風、土の曜日。休日は闇、光の曜日で合わせて7日が一週間。
「あっ、それとね…アスティちゃん。ロバートが、休日以外はこれを付けて活動して欲しいって」
「ん? メガネ?」
黒ぶちのメガネを渡された。魔導具かな?
「これは、顔の印象を凄く地味にする魔導具よ。アスティちゃんってまじ可愛いから、目立つの。強くて可愛いと、かなり目立つの。嫌でしょ?」
「あぁ、まぁ、目立つのは嫌ですね」
本当に、何をするにも注目されて。迂闊な事は話せないし、席を立っただけでバッ! って皆見てくる…嫌だったなぁ。
このメガネを掛ければ、注目されない…素晴らしい…
地味だった男爵の男の子、カーナリ・ジーミー君みたいになれる。
地味…なんという甘美な響き…
学科についても聞いていく。編入という形だけれど、初等部の六年の中盤という半端な時期。来年は中等部…週2日で友達は出来るのか…少し不安。
ミリアさんと話していると、手続きをしていたロバートさんが戻って来た。
「アスティ、これが身分証だ。魔力を通してくれ。
騎士団詰所で給料の預貯金が出来るし、転移ゲートの優先もある。
一応この身分証で転移ゲートを通ったら、通行は記録されるから覚えておいてくれ」
「はい、ありがとうございます」
騎士団の身分証。白いカード。『帝国騎士団・特事官アスティ、男、12歳』騎士団の判子が押されている。
なんか凄いなぁ。最近まで王女だったのに、帝国の騎士団に所属するなんて…
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
細かい手続きが終わるまで、来週まで勤務は出来ない。
お花屋さんは、週一日勤務になるので、家賃を払う払わないの争いはあった。週一日働いて家賃相殺に落ち着いてしまったけれど、良いのかな?
という事で暇人な私は…
「気を付けてなー坊主」
「はい、行ってきます」
辺境の街ラジャーナに来ていた。
オーガの魔石を納品して、給料アップを図るのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
街道から外れ、のんびりと歩いていく。
しばらく歩き、前に来た岩場に到着。
うーん……この岩場って、なんか澄んだ空気になったなぁ…
岩場にて休憩。
相変わらず、ソルレーザーを撃った場所はうっすら光ったままだ。
光を見詰めながら、しばらくボーッとする。
「あぁ、なーんもしたくない…」
この何もしないをするという無駄な時間が幸せで堪らない。
「…」
ヤバい、動けない…けれど、尻に根っこが生える前に行こう。
岩場を抜けてしばらく歩く。この先は荒野になっていて、たまに凄い魔物がいる。
爺やに連行された時は、デストロングトロルとか、デスグランドオーガとか、デスクロスイーターとか、デスデスばっかりだな。
「…ん? あれは」
魔物を発見。遠くに居るので、どんな奴か解らない。
「こっちに来てるなぁ…」
ドッドッドッ――
結構大きい。
「あの距離でこっちに気が付くって事は上位の魔物かな?」
ドッドッドッ――
索敵が上手な魔物は気を付けないと…あれ? 見えて来たけれど、結構大きいけれど…まだ遠い?
「あっ、嫌な予感」
ドッ!ドッ!ドッ!――
うん、見える。見えるよ。遠くに居るのにバッチリ見えるよ。
ドッ!ドッ!ドッ!――
「…」
距離はある。けれど直ぐ近くに居るんじゃないかと思う程の巨体。
体長…二十は超えている。真っ黒い肌、筋肉モリモリの人型。
走るスピードが速い…逃げられない。
「本で見た…ギガース種上位…」
こちらを見据える冷えきった一つの目は、私を捉えて離さない。
「…デスジャイヂ・ギガンテス…Sランク」
まだ…物語の序盤だよ…駄目だよ…Sランクなんて…




