最終話 そして黒井は野に放たれた。
さて長きにわたって書いてきたこの入院エッセイにも最後がやって来ました。
そう、退院ですね、昨日の時点で退院が決定していましたが、実はここ数日、恐らく薬品の副作用で夜中に38度位の熱がずっと出ていまして、退院できるかが不透明だったので決まったと言い切れなかったのです。
ですが今は自宅のPCでこのお話を書いていますから、ちゃんと退院出来ましたし、大きな問題は今はないのでご安心ください。
こうして熱が出ていたので、どこぞの買い食い不良中年に「黒井はまだまだ仮出所だから、早く帰って来い」なんて言われましたけど、ようやく歩行器使わず二足歩行が出来るようになったので、今のところは戻る気はありませんし、甘いものの差し入れを期待している糖尿患者に「もう少し自重しろ」と返事をして、お互い笑ってお別れしました。
このお話も退院しましたので最後ですから、今回は退院確定後の流れをざっくりと書いていくことにしましょう。
仕上げの点滴や経過を調べるためMRIやレントゲン等の検査を数種類して、現状の確認と今後の治療プログラムの確認を医師から告げられます。
私の場合、ヘルニアはあくまで小康状態という感じ、これから老化して症状が悪化する可能性は大いにあるそうなので、今はリハビリを多めに行って機能回復に努め、少しでも手術が必要になる可能性を叩いていくのが最良の選択という事になりました。
そうした医師の見解から、今度は理学療法士と今後のリハビリについてのブログラムと、自宅でも出来るリハビリの方法や、普段の生活での注意点、今までの日常での問題点などを色々と指導されまして、入院最後のリハビリを行います。
その後はお世話になった病院の皆さんにお礼を言いながら病院を歩いて、苦楽を共にした入院患者の皆さん一人づつに挨拶をして、二週間お世話になった病室で自分の荷物の片付けをして、ナースコールを鳴らし部屋の備品チェックを看護師さんにしてもらい、会計窓口で入院の際に掛かったお金を支払って、少し後ろ髪を引かれるように病院を後にしました。
こうして終わってみれば、入院中は色々考えたり悩んだりもしましたが、投獄されるのと入院は人生に影響があるという言葉は、本当だと感じています。
そもそも不自由ばかりの入院なんて好きな人は誰も居ません、ですが入院は自分の為に嫌な事だろうとやる事で、それだけでも健康を取り戻す以上に意味があるのだと、今の私は感じています。
同じように怪我や病気をして入院した人には、銀行員や運送業界の方、会社社長や主婦、サービス業や私のような製造まで、色々な年齢、様々な生活を送る人が、それぞれの人生を必死に生きようと同じ所で治療を受けて、一つの屋根の下でベッドを並べて生活をしています。
その中の触れ合いは、多分味気ない白い病室の壁の外では感じることが出来ないであろう、沢山の驚きと気付きを与えてくれましたし、普段見逃している小さな感動や、忘れがちな人の優しさの有り難みを何度も強く思い出させてくれました。
その全てはきっと私の人生に新しい感覚を与え、こうして文字を書くことや、新しい人との出会いの際や、これからの人生全てにおいて変化を与えてくれるものだと、今の私は強く感じています。
どんな世界にだって幸せは有る、それに気付く事が出来るかは己次第だ、そして人間というのは肩書を脱いで一人の人間という裸になれば、誰もがそう大きくは変わらないし、どんな人でも話せばそれなりに気持ちは通じ合える。
これが今回の入院で感じた事です。
夕食でトンテキが出て、いい年した同じ病室のおっさん共が皆で肉が出たと子供の様に喜んだり、それを聞いた給食のおばあちゃんや栄養士さんが、退院する私のために退院祝いにひっそりハンバークを一つ多めにつくろうと考えてくれたりと、あの病棟には暖かさや優しさばかりがあって、私は出るときに少し寂しさを感じました。
入院患者や看護師さんたちにも明るい貴方が出て行くと、病院が静かになって寂しくなりそうだと言われ、嬉しいやら恥ずかしいやら複雑な気持ちになったりしました。
それでも私は再び自分の足で二足歩行して、自分の人生を歩かねばなりません、あの優しく温かい場所はあくまで人生の休憩所、私の人生はまだまだこれから続いていくのです。
こうしてこの実話に基づいたエッセイを読まれた皆様に言いたい、入院ってそんなに悪く無いですよ、こうして色々考えたり、感じたりする心を持って、前向きに人と触れ合えば、きっと貴方の人生に新しい気付きを与えてくれる、得難い経験になると思います。
そしてヘルニアと言うのは誰もがなるものです、みなさまも自分を愛し、大切にして私のようにならぬように健康という得難い財産を大切にしていただきたいと思いながら、こんな私の入院の慰めとなってくださった全ての方に、お礼と感謝の言葉を述べて、このエッセイを締めくくりたいと思っています。
最初は慰みから始めたこのエッセイ、黒井はヘルニアで大変なことになりました?(黒井の入院ライフまったり手記)は、これにて完結にしたいと思います。
皆様のお陰で、私は青空の下に放たれた子犬のような幸せいっぱいの気持ちで退院を迎える事が出来、今の私の胸には感謝の気持ちだけがあります、病院の関係者各位、同じ病院の患者の皆様、そしてここまで読んでくださった貴方に感謝します、本当にありがとうございました。




