2 あの噂、とは
アリス×フリルのおバカちゃんコンビです
意識が、戻ってくる感じがする。
失われた記憶が鮮明に戻ってくるような、そんな感覚に少し似ている。
意識という、記憶という知識を一気に脳に詰め込まれるからか、頭がクラクラしている。
葉に風があたりカサカサ、とする音が聞こえる。
どこか肌寒さも感じられるし……植物の香りがする。
自分が自然に染まっているような……
ここはどこなのだろう。ゆっくりと瞼を開けようと……
「っ!いてててて……」
「……アリス?」
「この声は……フリル?」
後ろの方から聞いたことのある声がし、即座に目を開く。
振り返るとそこには見慣れた金髪に一本結びの少女が、前に崩れた体勢を整えようとしていた。
突如、目の前にいる少女――アリスが私のとこに飛びついてきた
「っ!フリルー!なにしてんの!ここどこよー!」
と言うよりかは、乗りかかって何か言いながらほっぺたを抓ってきた。
痛い……痛いよう……全く!
「し、知らな……いや……ここは……!」
「ここは?」
「グリーン……フォレスト?」
彼女の背景にあたるのは木々のさざめく広大な森
――レインボー王国西にある王国一の広さを誇る森。
私たちの何百倍という大きさの木々が立ち並び、生い茂る葉で空は程遠く、隙間から僅かに光が射し込む程度。
口で説明するより見たほうが早いというのは、まさに今のような時だろう。
両者共に立ち上がり、周りの景色を眺めた後に暫し沈黙が訪れる。
見渡す限りが木で覆われる何もない森の中、私達はこれからどうするべきだろうかと一人考えていると……
「フリル、一応一国の王女だったりするんでしょ?何か知らないの?」
「心当たりが無いわけじゃないんだけど……あの人はこの森の東にある村出身の……」
「ちょ、あの人って誰です?!」
私が知っている心当たりを話しかけるとアリスが飛びついてきた。
ここの森の人かなんてまだ確定じゃないし……
「まだこの森かなんてわかんないけど!国で一番大きい森って言ってたからここだとは思うんだけど……」
「だから!誰なんです!質問に答えてくださいよー!」
「そ、そそ、それはまだ秘密よっ!」
グリーンフォレストが実は獣使い達の森だなんて……言えないわよ。
“あの噂”が事実か分からない以上、後ろめたいものと変わらない。
そんな風に脳内で意見と格闘していると、アリスは私をポカスカと殴ってくる。
身長が同じくらいだからって……私は貴方より3つも歳上なのに!
「なんでですかー!教えてくださいよ!他に方法があるなら別ですが……ありませんよね?」
「………」
今は……他に方法なんてない。
いきなり図星を喰らい、黙り込む………まぁほかに考えようが無いんだけども。
「黙ってないで何か言ってくださいよ。黙られても困りますから!」
「うううう………やっぱ言うしかないのかぁ~~~」
「そんなに隠したい事なんです?!私とフリルの仲でもですか?!」
「ちょ、アリス。私たちってそこまで仲良し〜ってわけじゃないと思うんだけども?」
「むぅ……これからすっごく仲良しになればいいんです。それだけのことですからっ」
ツッコミを入れ、返ってきたのは自信に満ちた笑顔。
話すことといえばちゃらけてるけど、少し頼もしく見えた。
もしかしたら、“あの噂”の事を話しても大丈夫かも……そう思えた。
「実は……」
「なんてねっ!もうすっごい仲良しだと思うよ?だってフリルとはもう殴り合えるほどの仲ですし〜〜」
はっ!やっぱし、前言撤回!“男に二言は無い”とか言うけど私女の子だから“二言くらい有り”……よね……!
「………やっぱアリスには言わないから。」
怒りを込めたのが伝わったのだろうか。我ながら若干声のトーンは低く、もしかしたら凄い怖い表情をしてたのかもしれない。
そのせいか、アリスの口角が少々引き攣ってる。
「わ、私何か……マズイこと言っちゃいました……?」
そう、恐る恐る聞いてくる……よほど醜い表情なのか……。
でも殴り合えるほどの仲って……盛り過ぎじゃないかしら!普通に怒るわ!……ふぅ。落ち着いて落ち着いて……!
こんなロリっ子相手に感情ぶつけたってロクなこと無いもの。冷静に話すのよ、私!
「言っちゃいました、というか盛りすぎです。私の期待を返してほしいですよ」
「でもでも、これからどうするっていうの?こんな広い森で頼る宛もなく歩き続けるの?そんなの嫌だよ?!」
ふと、私たちを導くかのように森全体が風に揺らぐ。
ザザーッと木の葉を靡かせ、膨大な存在感を思わせる。
風が西から東に……本当に導いてるのかも。
「着いたら話すから。それまで喚いてないで付いてきなさい?」
「んぁーもう!わかったよー」
彼女の返事を聞き、少し心が解放された。
ふぅ……冷静に続けられたから良し、と。
――“あの噂”の事は、まだ内緒。
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