1 それは突然の出来事で
わりと短めです。
俺は当分眠っていたのだろうか。
瞼は重くゆっくり開くと同時に、意識が戻ってくるかのように目の前の世界が広がる。
「ふぅ……一時はどうなる事かと思いましたよ」
「でも、皆さん無事で何よりです。ひとまず休憩としましょう」
アリスとフルールの話し声が俺の耳に飛び込んでくる。
真っ白な壁紙に金箔の施された飾り、大理石の柱といった風景……なんとか無事に王城に辿りつけたようだ。
俺に気づいたのか、側にいたコユキが至近距離にくる。
「目は覚めたみたいやね。おはよう、ハヅキ」
近くに来たときに微かに香った匂いといい、この笑顔といい、コユキには胸を締めつけられる。
どこか愛おしいこの笑顔を、昨日のようにどうにか独り占め出来ないものかと企みたくなる。
―ガチャ
扉が開いたと思えば、そこには真新しいドレスに身を包んだフリルと、貴族の身なりに着替えたコノハが立っていた。
昨日までの割烹着ではなく、足下まで隠れるほど長い赤のドレス。
当人の名前のようにドレスの上下には緩やかなフリルが付けられていた。
頭にはティアラのような髪飾りを置き、その姿はまさに女貴族の鑑であった。
コノハもコノハで昨日までの薄汚れた兵服とは違い、まっぴらの新装である。
兵服とはまた違う感じで、それは騎士のような身なりであった。
「葉月くんは、お目覚めですか?……なら、よかった」
「それでは、案内までまだ時間がありますので。暫し寛ぎ下さい」
アレクト兄妹は俺が起きていることを確認すると、二人揃って微笑ましそうな表情のままそう言い残し部屋を出ていった。
――遡ること数日前
精鋭メンバーとフリルは、コノハの移動魔法で王城に転移することとなった。
ギルドの広場にて魔法陣を作りそこから移動
「『テレポート』!」
そうコノハが魔法を唱え、辺り一面には白い光が満ちる。
これでうまく行くはずだった……普通に王城に行けるはずであった。
「あ、忘れものしたかも……」
そう言ってフリルが魔法陣から出なければ、厄介事には至らなかった。
彼女の行動により、白い光に包まれていたその場は警報を鳴らすかのように赤く点滅しだした。
「え、まって。ねえ……これやばいやつじゃない?」
「ちょっ!フリル、なにしでかしたんです?!」
いつものように俺に続いてアリスが声を上げる。
一国の王女への対応とは思えない雑さであるが、これが普通だったから仕方あるまい。
赤い光は次第に濃さを増していく。
やがて、最大限ともいえる明るい濃さとなり、爆発手前といえる状態に近づく……
「わ、わわわわわわわわ……!どど、どうしよう兄さん!」
「この状態ではもう無理だ……魔法陣に結界が貼られてる。内側から出ることは不可能だ」
「ちょ、ちょっと待って下さい!……結界ってなんですか?!」
妹の質問を冷静に対処するコノハに俺は問う。
まさかコイツらの家系は肝心なことを言わない間抜け……なんてことはないだろう。せめて兄様だけはフリルとは違うしっかり者であってほしい……!
信じてる、信じてるぞ……コノハ兄様…………!
「あぁ、それはね。移動魔法で魔法陣が作られると途中でそこから出ようとしたとき、数秒後くらいに魔法陣から抜け出せない結界が貼られるんだ。」
「兄さん、そんな大事な事なんで最初に言わなかったの?!私それ初耳だよ?!」
「いや、何度もテレポート使ってるから最低限の知識くらいあるだろうとおもってな……無駄な説明は省いたわけさ☆……」
あれ、いまの言い方……若干初見時のフリルに似てたような。
フリルの笑顔のような☆のようなものが入ってたような……兄様ツッコミどころ満載なんですが。
「そう、それで赤い光が現れて……最高潮に達した時に帝国内に散りばめられるんだ。移動魔法はファンタジスタしか適用しないからね」
「なるほど……ってそうじゃないよ兄様!」
「散りばめられるってどういうことです?!」
俺に次いでアリスも問いかける。
何故この王子は間抜けな上に冷静なのだろうか。
「……それって、帝国中に私達が拡散されるってこと、ですよね?」
フルールは確認するかのように彼に問う。若干引き攣ったその顔は、自分が話すべきだったのではないかという後悔の色も見えた気がした。
「まあ、そういう事かな……」
「コノハ兄……やっぱいい忘れてとったか……」
「……………………………」
コユキの言葉の後、各々は何も言うことが出来ずに沈黙が続いた。
魔法陣は赤く点滅している。もうそろそろ駄目かもしれない。
「わわわわわわわわ…………そろそろ飛ばされるんじゃ………!」
「と、とりあえず!拡散した後の集合場所?!決めないと?!」
「王城に集合だ」
フリルとアリスが大慌てな中、やはり冷静に対処する兄貴、コノハ。
冷静なのはいいとして……本当にこの家系は駄目なんだな、とさっきの言動で証明されてしまった。
――赤い光がピカ―と広場の半分を埋めるほど広大になった時
各々は近くにいた誰かに身を寄せていた。
他の人はともかく、ハヅキは帝国のことも知らない。
せめて誰かと一緒に飛ばされたい、と強く思ったものだ。
それが想い人であってほしいとも思った。
やがて――光の威圧で瞼も開けなくなった時
――魔法陣のあった場所には、その跡形さえもが光と共に消滅した
NEXT
各キャラの視点で書いていくつもりです!




