10 戦いの果てで
一戦を終え、少女と共に扉の先に向かうことになった。
扉といえど木の板で出来ているオンボロなもので、水が途絶えた国の洞窟だというのに、苔が生えているようだった。
それにしてもこの緊張感は何だろうか。
すぐ側にその少女がいるせいか、先程よりも心拍数が速まっている気がする。
自分の顔が熱くなっているのがよく分かる。そのせいか、うっかり変なことも聞いてしまった。
「な、なんかこの辺、あつくないか?」
「そうかなぁ……?戦闘ばかりだったからかもやなっ」
少女は少し不思議そうにしながらも、顔をこちらを向けながら、優しく微笑みそう言った。
―言葉こそ、八割ほどは標準語であったが、やはりどこか関西弁のような訛りがあった。
―数分後
扉の前に着くと少女は立ち止まり、こちらを見つめる。
「武装は、平気?」
肩下まで長く伸びるツインテールを揺らし、ハヅキにそう聞きながら扉に背を向ける。
―ドスッ
「っぁぐ……」
突如、何かが打つかる音がしたと思いきや、目の前の少女がこちらの方へ倒れてくる。
ハヅキは慌てて少女の元に駆け寄り、完全に倒れる手前でボフッと受け止める。
が、少女は起き上がらず持たれたまま―意識が無いようであった。
その時、ハヅキの心拍数は最高潮にまで達していた。
自分の腕の中に、同い年位の少女が倒れ込んでいる。
しかも、その少女からはふわっといい香りもする。
―だがもっとも、こんな状況で長く興奮状態でなんていられない。
一体誰が少女に気を失わせるような事をしたのだろう。
誰がこんな酷いことをしたのだろうか。
考えるだけでは駄目だ。そう思い、ハヅキは少女を背負って辺りを見廻す。
そして、警戒を高め恐る恐る扉をひらく……
――そこにあったのは、神々しく淡く赤い光を帯びた石……
を木造の箱に詰めたようなもの。
まさか、これが封印というわけではないだろう。
“何者かが封印を解いた後、持ち去ろうとした状態”。
それこそが真実であろうとハヅキは思う。――あくまで勝手な解釈だが。
だが、簡単に取り去れる位置に置いてある辺り、どうも怪しいのだ。
変な仕掛けがあるに違いない、というかそうでない限りこの状況の説明がつかない。
一人を気絶させた上で、鼠とりのように餌をホイホイ投げ掛けられているのだ。
罠だと確信したハヅキは近くにあった石を、いかにもプラチナレッドが入ってます、という木箱に投げつける。
―バギッ……
街並みが中世位の世界にしては珍しい“センサー式”なのだろうか。
石を感知したと思わしきそこに上から真新しいギロチンが落ちてきた。
それは見事木箱に命中し、刃先がプラチナレッドに触れる。
「ヒィィッ?!」
その光景にハヅキはゾッとし少女を背負いながらも肩を震わせる。
だが、大事なことに気がついた。
刃先がプラチナレッドにかすれている……宝石が傷ついてしまう――
「プラチナレッドが――危ない!」
刹那、紅の光に包まれたと思いきや、これまでとは比べ物にならないほど巨大な“レッドポイズン”が現れた。
簡単に解説するとしたら誰もが同じことを言うであろう。
“真っ赤で体長二百メートルはありそうな大きさの強烈な毒を吐くムカデ”だと。
もしコイツを倒せるとしたら、ハヅキではなく魔法を使える少女であろう。
……だが、唯一の戦力である彼女はいま意識を失っている。
俺は先程までの戦いで魔力を使い果たしている………どうすればいい……!一体どうすれば……?!
“本当に困ったときにしか使ってはならない”
ふと、彼の脳裏をギルド長の言葉が過ぎった。
そうだ……あのダガーを使えばいい、そうすればこの状況を切り抜けられる。
意識のない少女を岩陰に休ませ、両手にダガーを持ち、俺は解放の呪文を唱えた。
「『光の守護神アルティメットよ、我に力を!』」
次の瞬間、ダガーの形をしていたソレは神々しい光を纏い、ハヅキの腕ほどの長さはありそうな神具、“アルティメットの大双剣”に変化した。
―タッタッタッタッ……
神具の力とヴァンパイアのスキルが調合し、彼の身体の傷は癒えていく。
魔力切れだった状態が回復の傾向へ行っている。
勝てる。必ずや勝てる……!
―タッタッタ………カタッ。
「?!ハヅキくん!それはまさか……」
自分を呼ぶ声に振り向くと、そこには走ってきたのだろうか。
息を切らしたコノハが驚異の表情でハヅキを、いや…彼が手に持っているモノを見つめていた。
「すみません、その岩陰に休ませている子のことを頼みます……!」
「?あ、あぁ……!」
気の抜けた返しをし、コノハは少女の元に駆け寄る。
彼により、助けてくれた子の安全を保証。
これで少女への借りを返せる。先程助けてくれた借りを……!
当然の事だ、借りとは返せるうちに返すものである――
ハヅキはヴァンパイアの力で宙に舞、レッドポイズンの首に向かって斬撃を走らせる。
「喰らえ、『プラズマハリケーン』!!!」
その言葉と同時に、宙に浮いたハヅキの手元―大双剣は金色に光る。
まるで稲妻のような剣は、それに触れたものを消滅させていく。
岩石から使い魔ポイズン、レッドポイズンまでもを巻き込んで光の中へと消え去っていった。
ハヅキの手元から、金色の大双剣は消えた。
―刹那、草間葉月の意識は途切れた。
駆けつけた、淡い茶髪をした少女の腕の中で―




