起のみ
「偉大なる王、フルンガルドよ!」
「大いなる王、フルンガルドよ!」
王をたたえる声が高らかに響く。ここは王のために用意された巨大な庭園。偉大なる巨人族の王フルンガルドの、即位百年記念に作り上げられたものである。
「しかし、森の王たる狼王モールドにも来ていただきたかったですなぁ。」
巨人の賢者、ガルヴァンドスが残念そうに言った。
「モールドの贈り物は実に素晴らしいのですが、如何せん本人が来なくては…。」
ガルヴァンドスの手には、キラキラと輝くランプが握られていた。
「まぁ、モールドは狼女王カレーヌを娶ったばかりですからな。愛らしい雌狼ともあれば、愛でていたくなるのは節理であろうよ。」
フルンガルドはガルヴァンドスを優しくたしなめた。
その様子を見て、捩じれた鼻の巨人ドルゲンは、にやにやと笑いながらその場を秘密裏に立ち去った。
(愚かなフルンガルド。貴様がそのランプを撫でた時が、貴様の最後だ。)
そして、フルンガルドがガルヴァンドスからランプを受け取った直後。ランプから噴き出した白い煙が、瞬きする間に巨人の庭園を満たした。
後には、動くものは何も残っていなかった。死んではいない。だが、永遠に冷めることのない眠りについているのだった。
モールドが、巨人族からの宣戦布告を受け取ったのは、その二日後だった。
「そんなバカな、何かの間違いだ。」
宣戦布告を聞いたモールドは叫んだ。
「私は、フルンガルドの即位百年記念祭になど呼ばれていない! ましてや、呪いの白霧を使ってフルンガルドたちを眠らせたりなどしていない!」
「言い訳など無用だ、卑劣なモールド。」
衛兵隊長のデグズダーはモールドを睨みつけた。
「今、王位を仮に預かっておられるドルゲン副王が居なければ、どうなっていたことか。貴様が呪いの効果を解かない限り、我ら巨人軍はお前たち狼を踏み砕く用意はできているのだ。」
「…我々ではない、といっても信じぬのだろうな。」
「信じぬとも。このランプには、確かに狼王たるお前の魔力が残っているのだからな。」
モールドはガチガチと歯を鳴らした。なるほど、確かにそのランプからは己の魔力と己の臭いが感じられるのだった。
「…わかった、何とかしよう。だから、少しだけ待ってはくれないか。」
「俺に待つ権利はない。だが、俺の脚では、王国に帰るには一週間は時間がかかる。お前たちなら王国まで二日とかからぬのだから、五日の間に呪いを解けば、ドルゲン副王も考え直すだろうよ。」
「…感謝する。」
モールドは頭を垂れた。しかし、心の中は荒れ狂っていた。
(おのれ、ドルゲンめ!)
モールドの鼻は、ドルゲンを最初から黒幕だと判断していた。