りりすまっ! ~クリスマスを嘆く少女の話~
「アタシ、生まれ落ちたと同時に現代社会から迫害を受けてるんだ」
ノエルがいきなりふて腐れたようすで言い出すので、清子はまじまじと彼女の後頭部を見つめてしまった。
清子とノエルは高校に入ってからの親友同士で、付き合ってからの初めての冬を迎える。「寒い!」の一言でノエルは清子の家に上がり込み、ベッドの上で膝を抱えていた。学校から直接訪れたので制服姿のままで、黒い繊維に包まれた膝に顔の下半分を押し当てている。
清子も同じく制服姿で自分のベッドに座り込んでいた。ノエルのすぐ後ろに。広げた脚の間に親友が収まっているので、うかつに閉じられない状態だ。下手に立つとノエルは怒るだろうし。
清子はなだめるように優しく声をかけた。身長差があるので視線がわずかに下に向くことになる。
「いきなり何を言い出すの。ノエルちゃん?」
「だってさー。アタシの誕生日、クリスマスと被ってるんだよ」
ああ、なるほど。
親友の誕生日は今まで知らなかったが、思ったより深刻なものではなく清子は安堵した。同時に微笑ましく思い、いい匂いのする頭をぽんぽんと叩いた。
「なあに? 他の子よりプレゼントが一つ分もらえないからいじけてるの?」
「違うっ! プレゼントでいじけるなんて子供みたいじゃないか!」
むずがるような子供の声にしか聞こえなかったが、それには触れずに清子はさらに面白がって尋ねた。
「じゃあ、ノエルちゃんはどうしてそんなに腹を立ててるのかな?」
「だって誕生日とクリスマスが被ったら清子に祝ってもらえる回数が一つ減っちゃうじゃないかっ!」
体育座りの姿勢を崩して勢いよく振り返る。
清子は真剣で、それでいてどこか無念そうな親友の視線とまともにぶつかることになった。
時間が暖かに凍結する。
親友からこんな表情で見つめられたことは今までなく、清子は顔色の制御が効かなかった。ノエルもまっすぐ見つめる予定はなかったようで、すぐさま赤い顔を前に戻した。
「アタシたち、こうして付き合ってんだからさ。クリスマスも誕生日もきちんと清子に祝ってもらいたかったんだよ。それなのにこんなふざけた日に生まれたせいで、二つの日を一緒くたに祝われることになるんだ。他の人はともかく、清子にアタシの大切な日をこんな風に扱われるなんて耐えられない」
泣き出しそうな声に清子は沈黙した。そんなことないとはとても言えない。言ったところで彼女が納得するはずがないからだ。
その代わりに、清子は背後からそっとノエルを抱きしめた。不意打ちだったらしく、彼女の背中が小さく跳ね上がる。
首の付け根に額を押し当てながら清子は囁いた。
「……記念日なんていくらでも作ればいいじゃない。普通の人たちの目じゃないくらいにね」
「友達になった記念とか初めて手を繋いだ記念とか、そーいうの?」
「う、うん」
改めて言われるとちょっと恥ずかしくなってきた。
一方、親友の提案を受けたノエルは腕を組みながら、むー、とうなった。そして、納得したように声をはずませる。
「そっかー、そーだよねっ。クリスマスも勝手に人が作ったものなんだし、アタシたちが勝手に記念日を作ったりしても文句を言われる筋合いはないわけだ」
「そ、そうだね。他の人に強要したりしなきゃ自由だと思うよ」
いちおうクリスマスは伝統のある行事です。念のため。
背後から抱擁を受けたノエルがもう一度振り返る。今度は目を細めてにっこりと笑っていた。
「じゃあさ、じゃあさっ。清子との毎日を記念日にしちゃっていい?」
「いいよ。さすがに毎日プレゼントやケーキは無理だけど、一緒に思い出をたくさん作ろうね」
清子は再び、親友の身体をしっかりと抱きしめた。
翌日、ノエルは今までのすべての日に記念日をつけようと徹夜をし、ホームルームで爆睡するはめになったのだが、それはまた別の話である。