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生贄になった俺のけしからん二週間  作者: 荒川 晶
第三話 聖女子と生贄
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聖女子と生贄 その1

 ここでの生活にも大分馴染んできた四日目。たいてい俺が起きる頃にはもうアロンは身支度をしっかり整えている。が、ごく稀に、ラッキーなことがあったりする。

 俺は顔を洗うために部屋を出ると、珍しく彼女は寝ていた。案外寝像は悪いらしく、布団が蹴り落とされていた。俺はふとそこに横たわる彼女を見る。


「ぶ……っ」


 真っ先に服のめくれ上がったおへそに目がいってしまった。さすが毎日鍛えて戦っているだけあって、体の引きしまり具合はやばい。くびれたお腹に、形のいいへそが、こんにちはーと顔を出している。


 見ない、見ない!


 俺は心の中で呟くようにして目を反らし、顔を洗いにいった。タオルで水滴を拭うと、目の前の鏡を見て、伸びてきた髭に手をやる。伸びるのは遅い方だがさすがに四日も放置していれば伸びてくる。

 髭剃りなんかあんのかな。

 別に見た目に気をつけているとかじゃない。単純に気になった。と、言い訳を言ってみるが、実は、すごく剃りたい。そりゃ、なぜって、毎日女の子とキスするわけですよ。一日一回だけですが。そのときに「うわ、ざらざら!」って思われるのどうですか。嫌なわけです。

 自問自答しながらも、俺はキョロキョロと周りを見回す。すると、髭剃りのようなものが、あるではないですか。俺は無断だが使わせてもらうことにした。何も言わなければばれないだろう、とそう思ったのだ。

 一通り剃り終わり、再び水でぱしゃぱしゃと顔を洗っている時、背後に人の気配を感じた。


「貴方……使ったの?」

「え?」


 顔から水が滴る中、何も考えずに振り返ると、顔を真っ赤にしたアロンが立っていて、その数秒後には俺は平手打ちをくらって床に座り込んでいた。何がなんだかさっぱりわからないが、馬鹿だとかアホだとか、罵られている様子を見ると、どうやらあの髭剃りは使ってはいけないものだったようだ。


「な、なんでそんなに怒るんだよ」


 と、聞き返すも彼女は肩を震わせてただただ睨みつけてくるだけである。叩かれた部位に手をやりながら、腰をあげると、アロンは俺に髭剃りを突きつけた。


「もう使えないから要らない、あげる」


 俺は細菌なんですか、と思うも、有難かったのでもらうことにした。

 そして実はずっと後から知った事なのだが、どうやら女性陣は髭剃り、否、剃刀で脇を剃ったり、はたまた全身剃ったりするそうで、人によっては身だしなみの一貫で、女の子のあれな部分も剃るらしい。もしアロンがその一人だったとしたら、そりゃあ怒るわけだ。だがそんなことはこの時の俺は知る由もなかったので、ただぼんやりと首を傾げているだけだった。

 こんなやられっぱなしの俺だが、ちゃんとこの数日いくつか情報を得ていた。


 まず統制を取っているのはこの『聖女子アロン』だということ。聖女子については未だにわからないが、特別な存在と言うことはわかった。そして、アロンを中心に、幹部として鈴やエマがいることだ。他にも何名かいるようだが、アロンから直接指示を貰うのはこの二人が多い。よって、アロンのすぐ下にいるのは鈴とエマだ。鈴に関してはA軍隊の隊長らしく、その小ぶりな体からは想像もつかない動きをするのだという。あの、人に銃を突きつけた凶暴そうなエマでさえ、鈴には頭が上がらない様子だった。


 次に気付いたことは、この地底の規模のでかさである。俺はあの戦争のあった日からそれなりに自由を貰え、中を歩き回ったのだが、地図の分量を見ただけでも感じたことだが、半端ではない。某夢の国が何個くらい入るのだろうか、という広さである。


 そして最後に、テリトリーの問題だ。俺が自由に歩き回れるのは、地底内の、所謂女子領だけである。男子領に行こうものなら、女子共から殺されるか、男子にスパイとして殺されるだろう。女子領と男子領の間にあるのが、所謂中間区域で、どちらの領土でもない所だ。戦争はこの区域で行われることも多いらしい。この区域に足を踏み入れると、警報音が鳴るらしく、ここにも行ってはならないと釘を刺されていた。


 俺はこの『女子領のみの散策』及び『アロン以外の女子に触れない』という二つの条件の下で自由を手にした。戦争相手が男であるだけに、周りの女の視線はきつい。一人で歩いていると、時々物をぶつけられたり、身構えられたりするのはちょっと痛い所だ。普通の状態であれば、ハーレムなのに……。ここでは俺は忌み嫌われる存在だ。


「あら、またお猿さんはお散歩かしら」


 アロンの機嫌が悪くなったため、部屋にいづらくなった俺はまた散策していたのだが、あの嫌な声を聞くとため息を一つつく。何かあれば必ず突っかかってくる……そうエマだ。


「ああ、また散歩で悪いね」


 俺は不機嫌になって顔も見ずにそう言い返す。もう顔を見なくてもエマだとわかる辺り、俺も馴染み始めたな……。


「エマ様になんて言い方!」


 エマの取り巻きの一人が憤慨している。これも日常茶飯事だったが、これにも慣れ始めていた。そうそう、気付いたことはもう一つある。このエマという存在は、この地底でいう有名人のようなものらしく、彼女のファンも多い。こんな嫌みな女、男の俺には理解できないことだらけだが、異常に支持率が高いことはなんとなくわかっていた。


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