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生贄になった俺のけしからん二週間  作者: 荒川 晶
第二話 セイント戦争
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セイント戦争 その6

 シャワールームはシャンプーやコンディショナーのいい匂いが充満しており、それがアロンの匂いだと気付くまでにさほど時間がかからなかった。俺はアロンと同じ物を使い、洗って、シャワーを浴びる。これって、一歩間違えたらなんてエロ展開なんて思うも、あり得ないよな、と俺は思った。

 そういえば、エマは儀式の時間だと言っていた。儀式と言うと、キス……だよな?

 そう思うと緊張してくる、タガが外れないことを祈りながら俺は体を拭き、シャワーをあとにした。さすがに女の子がいるので、上着もズボンも履いた上で、シャワールームから出ていく。


「くはー、さっぱり!」


 俺はタオルで頭をわしわしと拭くと、気持ちも軽くなったかのように、アロンの傍まで歩み寄った。彼女は本を読むのをやめたのか、何やら地図のようなものを広げて、一生懸命に考えている。


「何してるんだ?」

「これは、この地底の地図よ」


 この何十枚もある膨大な量の地図が、地底の地図だと? 俺は眉間に皺を寄せてしまった。


「貴方」

「なんだよ」

「眉間に皺を寄せていると、癖になって不細工になるわよ」

「それは俺が不細工だと言いたいんですね、わかります」

「違うわ、元は良い方だと思うわよ」


 彼女は相変わらず地図から目を離さずに、そう放つもんだから、一瞬どきりとしてしまった。顔を褒められたこととなんて殆ど無いからな……耐性がないんだ。


「ここ」


 ふいに彼女は自分の指を、先程からじっと見つめていた所に置く。


「ここが怪しいの」


 何が、と問うと、そこに鍵が眠っている可能性が高いらしい。他の地図では隠し場所がどうしても見つからないと言うのだ。


「今日の戦闘は、他にあった候補を潰すための戦い。そっちは外れだった」


 苦い顔をして、今日の戦った場所に大きくバツ印を書いておく。よくよく見ると小さいのから大きいのまでバツ印がしてあり、戦争を起こしてきた量がそれで把握できた。


「鍵は、二週間後には場所が移動しちゃうのよ。それまでに手に入れないと」

「ちょっと待て、二週間って……俺がどうとか言っていたよな」


 アロンの言葉に刺激されて脳の引き出しから取り出される記憶。俺は思わず聞いてしまった。


「ええ……。話さないといけないわね……。だけど……もう少し待って」

「先延ばしにする意味があるのか?」

「ごめんなさい、まだ時期じゃないと思うの」


 おれは、はああああと大きなため息を一つついた。

 もう今更何を聞いても驚かないのに。

 だが、ここで無理に聞きだすのは俺の性じゃない。話したくないと言うならもう少しだけ待とう。まだ二週間あるんだ。

 俺はその場に立ったまま、じっくりと地図と格闘しているアロンを眺めた。

 黙っていれば普通に美人で可愛いと思うんだけど、そして根は優しいんだろうけど……。いかんせん、表情が固いし、何より普通の地球人と比べるとぶっ飛んでる。いや、ぶっ飛んでるのはこいつだけじゃないのかもしれないが。


「何か?」


 じっと顔を見ていたのがばれて俺ははっとする。「いや、えーと……」と言葉を濁すも、その間もずっと彼女は見上げてくる。

 まずいって。こんな可愛い子に見られるのは、さすがに……。

 ちらりとアロンを見ると、彼女はあからさまに鼻で笑った。

 は……? 今鼻で笑ったよな、こいつ。

 そんな俺の心情を無視し、彼女は立ち上がり、俺の前にずいっとやってきた。


「な、何す……」

「儀式の時間よ」


 彼女は肩を掴んで、俺を無理にかがませて彼女の目線にすると、そのまま吸いこまれるようにして唇が重なった。

 ほんの一瞬だったが、シャワーから出たての匂いがお互いからしてくる。 これはまずいと思った。シャンプーの匂いはまずい。

 興奮しそうになるのを抑えるために、頭の中で急遽、掛け算を始めた。

 だが、なかなか目の前の光景は変わらない。顔が近い。


「あのっ、これ以上はまずいから」


 俺はアロンの肩を押し返した。


「はい?」

「えっと、その……」


 わかっている。軽いキスだった。でも、軽い一瞬でも俺にとっては凄く長い時間だった。胸の動悸は一体なんなんだ。


「慣れてないのね」

「うっせぇ」


 顔を覆い隠したくなる。代わりに背を向け、奥の部屋へ向かっていく。とりあえず落ち着きたい。


「もう寝るのね」


 そう後ろから呼ばれたが、俺は返事もせず、ちょっと後ろを振り返っただけで、扉を閉めた。





 気付けば、俺はぐっすりと眠っていた。色々あった日だったからか。

 むくりと起きあがると、辺りを見回す。案の定、時計が設置されている。まだ朝五時だ。しかしこんな朝早くから隣からはごとごとと物音が聞こえてくる。アロンがまだ何かやっているのか?

 俺は気になってベッドから降りると、ゆっくりと扉を開け、その隙間から様子を伺った。

 ここで百合展開があれば面白いのだが、そんなことはなかった。何人かの女子が机を囲っている。そこには鈴やエマの姿も、当然アロンの姿もあった。


「ここに鍵があるとしたら、相手もここを狙ってくるはずよ」

「だけど、ここは二週間後の聖域。簡単には近付けない」

「敵はこのことに気付いているのでしょうか?」

「地図は私達が殆ど握っている。可能性はあるかもしれないけど、知らないかもしれないわ」


 どうやら作戦会議のようだった。目は真剣そのもので、俺が出る幕ではなさそうだった。扉を閉めて、再び寝ようと思った、その矢先だ。


「生贄の様子は?」


 突然俺の話になった。どきりとして、閉じかけた扉に耳を傾ける。


「ええ。思ったよりいい子ね」


 アロンの声が聞こえてくる。


「儀式説明はしました?」

「それもまだよ。説明するより実感してもらう方が早いと思ってね」

「しかし実感が湧くのは少なくとも一週間……」

「大丈夫、頑張るわ」


 何を頑張るんだ? 一週間? 実感ってなんのだ?

 俺は様々な疑問を抱いた。

 だがとにもかくにも、どうやら儀式のことは一週間後にはわかるようだ。

 一体一日一回のキスになんの意味があるのだろうか。そんなことを思いながらも、談話が始まったので、このまま戻って眠ることにした。


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