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生贄になった俺のけしからん二週間  作者: 荒川 晶
第二話 セイント戦争
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セイント戦争 その4

「怖くないのか」


 俺は思わず口にした言葉にしまったと口元を押さえた。つい出てしまった本音に、鈴の顔色を伺うが、彼女は何事もなかったかのようにきょとんとして、そしてまた笑ってみせた。


「怖いですよ。特に、大きな戦争前は皆怖いって言ってます」


 鈴は銃を手に取ると、それを優しく撫でた。


「武器が私達を守ってくれている……」


 それは違うだろう。武器がお前らを殺していくんだ。なんてとてもじゃないけど、言えるわけなかった。俺は戦争なんて知らないんだ。俺よりよっぽどこいつらは考えて生きているに違いない。

 銃を愛でるように撫でているこの異様な光景に俺は、ぼうっと目を奪われていた。と、その時だ。

 ――カンカンカンカン!

 どこからともなく、響き渡る、かん高い音が鳴り響いた。俺は突然の事に一瞬びくりとして、辺りを見回す。女共の走る足音が遠くに聞こえた。それから鈴に目をやると、俺はあまりの彼女の変貌ぶりに固まった。

 目つきは先程の柔和なものから鋭くなり、口を結んで、足音のする先を見つめている。手に銃を握り締め、すっくと立ち上がった。


「すみませんが、ちょっと行ってきます」


 彼女は表情を変えず言う。たった一言言葉を残すと、彼女もまた遠くの足音に混じっていった。

 勘付いてしまったのが運のつきだろう。

 戦争だ。敵襲なのか、どういう状況なのかはわからないが、とにかく今から彼女らは戦いの場にいくのだ。あの天使のような鈴でさえ人が変わった。警報音がまだ鳴り響いている。俺はただ佇んでいるだけだった。

 と、そこにアロンがどこからか現れた。


「来なさい」


 彼女は鍵を開けると、俺の手を取り、どこかへと連れて行こうとする。


「ちょっと、待てよ! いきなりなんだってんだ」

「貴方を安全な所へ移動させるのよ。生贄のいる時期に襲われるなんて予想外だった……。私のミスよ」

「安全って、どういうことだ」

「ここよりも安全だと言う意味。貴方は二週間後、生贄の務めを果たさなければならない。死んでもらっては困るの」


 彼女は俺の抗議にいちいち答えながらも早足でその場を駆けていく。すると、遠くから爆撃のような音が聞こえ始めた。

 連れていかれる途中で俺は改めてこれは戦争だと認識する光景を目にする。

 地底に作られたこの建物の多くは金属の階段と多くの渡り廊下で複雑に構成されていた。そして、その一つの大きな渡り廊下の下には何人かの女子が大きな銃を手にしていた。その最前列にいるのが、エマだった。彼女は体に防具を備え、頭にヘルメットを被っている。俺はエマとその取り巻きを頭上から見下ろす。


「急いで」


 アロンは立ちすくみそうになる俺の手を引いて、急かした。

連れていかれた先は、奥の倉庫のような所だ。周りには何もなく、金属製の扉も分厚く、外が見えなくなっている。あるのは頭上に一つの小さな白いライトだけだ。


「これが内鍵。もしも二十四時間以内に誰も来なかったら……この扉を開けて逃げて」


 アロンは俺に鍵を託してくる。正直なところ受け取りたくなかった。誰も来なかったら、なんて、そんな物騒なこと考えたくもない。だがそんな反論を待たずに彼女は鍵だけ渡すと、すぐにその扉を閉め、俺を置いていった。

 本当に戦争が?

 聞こえてくるのは爆撃音くらいだ。時間もわからなくなってくる。こんな生活が続くのか。

 頭がおかしくなるんじゃないか、とそう感じた。実際に戦争を見てないから実感が湧いていないが、体中の交感神経が興奮しているのがわかった。


 どれくらい経ったのだろうか。爆撃音が消えた。まだ一日は経っていないと思うが、俺はただ座り込んでいるだけのその時間が苦痛になってきた。

 誰も迎えに来ない……。

 内鍵を使うことにした。約束と違うのかもしれないが、時間がわからなかったと言えば、それで済む話だ。第一今の状況がはっきりしないのだ。負けたのか。勝ったのか。何百年も続く戦いだ。そう簡単に勝ち負けが決まるわけないとわかっていても、思わざる得なかった。

 内鍵を使い、俺は重い扉を思いきり引く。ぎぎぎと鉄の錆びた音が響き、ゆっくりと扉は開いた。

 静けさが辺りを包んでいた。自分の足音だけが響く。エマ達が集まっていた所の上の橋までくると、じっくりと見回した。どうやらここが一番大きな場所らしい。良く見ると、俺が最初に縛りつけられていた場所でもあった。

 俺は、何か聞こえないかと耳を傾けるが、何も聞こえてこない。と、思いきや。


「ここで何しているのかしら?」


 俺は突如耳に入ってきた音声にびくりとして、とっさに後ろを振り返った。そこには、あの金髪女が睨みつけて佇んでいた。


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