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生贄になった俺のけしからん二週間  作者: 荒川 晶
第十話 フィナーレ
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フィナーレ その2

 そこから歩くこと数十分。俺たちは、大きなお城の前に辿りつく。決戦の場所だ。


「気をつけてください」


 鈴がレーザー銃に手をかけてそうアロンに注意を促す。アロンも口元は笑っているが、完全に瞳の奥に闘士が見える。

 俺は、目を瞑った。

 悪い。アロン。鈴。俺は――

 目を開けるとアロンが扉の取っ手に手を伸ばしていた。だがそれよりも先に、俺は彼女を押しのけて、取っ手を握り、扉を押し込んだ。


「ちょっ?! 勇人!?」

「ごめん。お前らに特攻させたくないんだ」


 彼女達の制止を待たずに、俺は中に入る。

 俺が交渉すると言って断られたときから決めていた。彼女達には悪いが、良い予感はしてなかった。貴族達が交渉に応じるような人種じゃないことだって――

 その俺の勘は外れなかった。

 俺が扉を開けると同時に、一番前にいた俺だけが黒ずくめの大きな男二人に腹パンチをくらい、捕らえられた。抵抗する猶予もなく、両脇からがっちりと固められている。

 くっそ。鳩尾みぞおちにクリーンヒットしてる。呼吸がまともにできない。


「勇人!」


 アロンの声が響く。

 むせながらもなんとかして状況を把握しようとしてやや首を持ち上げる。奥には貴族と思われるような成金風情の人間達がざっと見ただけでも何十人もいた。その一番前にいる男は小太りで、白のスーツ、いくつかの金色のアクセサリーや時計をつけていた。趣味悪いな……。

 俺が一人で静かに笑うと、一発顔面に衝撃が走る。笑っただけでグーパンかよ。俺は、俺の両腕を掴んでいるグラサン男二人を睨む。

あーくそ。口の中切れたな。血の味がする。今まで殴り合いの喧嘩なんかそうそうしてきてないのにな。


「前島勇人だな。そいつは。連れてこい」


 一番前の趣味の悪いおやじが指図すると俺はずるずると引きずられるようにして奥へと連れていかれる。


「勇人!」

「動くな!」


 白スーツの男が声を張り上げる。


「この男を殺されたくないなら黙っていろ。そしてその場を動くな」


 それだけ言って、男の前に俺は差し出される。


「ふん。ぎりぎりのところで聖女子を押しのけて前に出るなんてな」

「やっぱり見てやがったか」

「ああ、監視カメラで一目瞭然だよ。まあ誰を人質に取っても良かったんだけどな」


 それだけ言うと男は煙草に火をつけ始める。完全に勝ったと思ってる証拠だ。男は煙をふかすと、俺の顔に向けて吐き出してくる。軽く咳込むが、俺は目を離さなかった。


「さあ、何しに来た。前島勇人」

「彼女達と彼らに謝罪しろ。それから、住む場所を与えて、お前達はやったこと洗いざらい、国に曝露しろ」

「そんな条件飲むと思ってるのか。お前達は大人しく帰るんだよ。元いた所にな」


 額に皺を寄せたおやじは煙草を手に取ると、俺の鎖骨に押し付けてきた。


「っ!!」


 あまりの熱さに俺は声が出なかった。それでもその煙が消えるまで押しつけてくる。


「うぐ……っ」


 目を瞑り、声を漏らすまいと唇を噛みしめるが、煙草の火傷は熱さから痛みに変わってくる。

 やっとのことで、と言ってもその間数秒なのだろうけども、煙草の火が消えると、情けない事に目から涙が出ている事に気付いた。


「さて、どうしてくれようか」


 男がそう言って腹から笑い始めると後ろにいた貴族達もつられるようにして笑い声をあげる。


「ふ……」

「あ?」


 俺が口元が緩んだことに気付いたのか、男は笑いを止めた。


「何を笑っている。お前、この状況ががわかってないのか」

「いやー。下品だなって思ってな。地球人でこんな下品な奴らっているのかなって思ってな」

「!」

「いくら科学が進歩しても、人間としては空球人は地球人以下かもな」

「このガキ……!」


 俺は両脇を抱えられたまま、目の前の成金男から一発グーパンを食らった。

 あーついてない。痛すぎる一日だ。でも体の怪我は死なない限り、それなりに治るんだ。でもあいつらの心の傷はきっと一生経っても消えない。


「もうやめて!」

「黙れと言ってるだろう!」


 俺はくるりと反対を向かされると、アロンや鈴、和也の姿が目に入る。彼らの心配そうな目や、怒りに満ちた目がこちらに向いていた。


「鈴!」

「えっ」


 俺が声をあげると、鈴が一瞬びくりとして体を強張らせる。


「俺の事は気にするな。戦うんだ」

「で、でも……」

「目標を忘れるな。ここで負けたら、皆の夢はどうなるんだ」


 俺は鈴をじっと見つめた。彼女の、銃に添えている手が微かに震えている事に気付いた。

 そして同時に、俺の頭に、貴族の銃が突き付けられたことにも気付いた。やっぱり持っていたか。ここにいるのがアロンじゃなくて良かったと、常々思う。


「一歩でも動いてみろ。こいつの頭をぶち抜くぞ」


 男は怒りを感じている。そして、彼らの脅威にもビビっていることがわかる。じゃなきゃこんな汚い手は使わないはずだ。


「鈴! 撃つんだ」

「……!」


 彼女は銃に手をかける。


「おい! わかってるのか! こいつの命がなくなるんだぞ」


 貴族が慌てる。背後はざわざわとし始めている。と、その時だった。

 天からガラスの割れる音が鳴り響いた。一斉に皆天井を見上げる。

 空からロープで舞い降りてきたのは――


「シュタイナ!」


 俺が予想外の展開に驚いていると、真横にいた大男二人のうめき声が耳に届く。その瞬間に両腕は解放された。とっさに見やると、彼らの足から血が流れ出てた。鈴達に目をやると、一斉にこちらに向かって走ってくる。

 本当に一瞬だった。俺達が上に気を取られている間に、その隙を見逃さずに鈴が銃を撃ったんだ。

 解放されて、俺も後ろ向きで後退する。

 貴族達は悲鳴をあげた。そこにいた何人かが、腕や足を撃たれて床に崩れた。一気に混乱の渦に巻き込まれた。


「この野郎!」


 白スーツが慌てて俺に向けて銃を構えた。


「しまっ……」


 気付いた時には、時既に遅しとはまさにこのことだった。衝撃が胸を貫いた――




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