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生贄になった俺のけしからん二週間  作者: 荒川 晶
第十話 フィナーレ
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フィナーレ その1


 全員がドームに集まった。軽くパニックになるかと不安だったが、そこまで大事にはならなかった。

 ただ声を出して泣き出した者はいる。無理もない。彼らにとって、ずっと待ち望んでいた、『外の世界』なのだ。

 ベルが二回手を叩いた。

 すると徐々に辺りは静まり彼女を見やる。

 彼女はウインクをアロンにした。アロンもこくりと頷き口を開ける。


「皆、セイントの製造者達が貴族達の下へ案内してくれるわ。勿論行きたくない者は残っても構わない」


 アロンが一瞬シュタイナに目をやる。彼はそれに気付くと目を反らした。


「交渉は私がするわ。護衛は鈴と和也よ。数もいる。それに私達は戦うために生きていた。強いはず。でも、決して気を抜かないで」


 アロンは一度全員に座ってもらうよう告げると、製造者達のリーダーかと思われる、背の高い男性が前に一歩足を踏み出す。黒のスーツに彼の白くて長い髪がよく映えている。彼の目は鋭く光り、そこにいた者達は自然と身構えてしまっていた。


「私はセイントの製造者のリーダーの子孫に当たる者です。リーネと言います」


 彼はそう放つとぺこりとお辞儀をする。


「そしてセイントによって作られた第一の生命体の子孫です」

「どういうこと?」


 横にいたアロンが口を挟む。リーネは一瞬アロンに目をやり、にこりと笑うと軽く会釈をする。


「私の先祖がセイントを作り出しました。先祖には子供がいなかった。子供が欲しかった当時のリーダーは、自分の遺伝子を提供して人間を作ることにした。そしてできたのが、私の本当の意味での先祖。私はセイントによって生み出された人間の、子孫です。ややこしくなるので便宜上、セイントの製造者の子孫と名乗ってます。その証拠に日本人にしては背も高いし、髪も白いでしょう? 遺伝子をいじった結果です」


 確かに、彼を取り巻いている他の製造者達の子孫は着ているスーツは同じであれど、見た目は完璧に地球の日本人と同じだ。


「先祖はセイントによって、子供ができない人のためにセイントを作り出した。だが大量に遺伝子を操作できることに目をつけられた」

「それが貴族か」


 俺の問いに彼は頷く。


「勇人、君のいる地球では身分制度はあるかい」

「ないな」

「そう。空球もかつてはそうだった。だがその昔政党の大きな移り変わりがあり、貴族と平民という身分制度ができてしまった。私達製造者達は平民であり、貴族の出すお金でセイントを作り出した。貴族はセイントが完成するとセイントを譲れと言い出した。製造者達は拒否をした。しかし、お金を詰まれた揚句に、貴族の金によって作り出されたものは貴族に還元しないとならないという法律により、セイントは彼らの手に渡ってしまった。そして君達が生まれ、君達の戦いは、お金が飛び交う娯楽となった」


 そこまで話し、リーネは一息つく。皆の顔を見ると、怒りを抑えているのか俯いたり、唇を噛み締める者が多くいた。


「警察は動かなかったのか?」


 あゆむが眉間にシワを寄せて尋ねる。


「動いたさ。だけどセイントに入ることはできなかったし、彼らが賭けや娯楽をしている決定的な証拠も掴めなかった。そしてそのままずるずると今に至る。私達も何度か要請を出したり、証拠になるものを提出するも、最終的に金で丸め込まれた彼らが動くことはなかった」


 リーネは目をつむって沈黙する。次に出てくる言葉を息を飲んで見守る。


「セイントを作り出してはいけなかったんだ。本当に申し訳ないことをした。そして貴族らを止めることのできなかった私達を許してほしい……。そしてこれから、君達がいるという事実と、君達の歴史を公にしてほしいんだ」


 それでなければ歴史は繰り返されてしまう、と最後に呟くようにリーネは語る。そこまで言って、座っていた一人の男が立ち上がる。


「頼まれなくてもそうするつもりだった。連れていってくれ。貴族の下に」


 彼が一言発すると、一人また一人と立ち上がる。

 しかし動かない者達もいた。シュタイナを含め数十人の男子達だ。彼らは終始俯き、口を開けようとはしない。


「アロン、あいつら……」

「さっきも言ったけど無理じいするつもりはないわ」


 彼女もちらりと彼らを気にするも、再び指揮を取るべく声をあげた。


「皆、行くわよ」









 俺は歩きながら辺りを見回した。

 日本であって日本ではない。ビルのごちゃごちゃした感じはそっくりだが、ガラスのチューブで覆われた中を車のようなものが走り、そのチューブは高速道路さながら宙に張り巡らされている。

 道路が宙に浮いた事で、隙間が出来た場所に、新たな建物が密集して建っている。歩行者と自転車用の道があり、俺達はそこをずんずんと歩いていた。

 時々視線を感じるも、俺達の道中に関わろうとしないところは日本人らしさかもしれない。


 そんなことを思っていると、急に視界が開ける。そこには日本とは思えない広大な敷地が広がり、緑が沢山植えられていた。その先を見ると、屋敷のような建物が建ち並んでいる。その中央には特に背の高い、西洋風の城が建っていた。

 俺が足を止めて呆然とそれを眺めていると、隣にリーネが立った。


「仲間の情報によるとあの建物に貴族達が今集まっています」

「あそこに……」


 俺は思わず口に出して息を飲んだ。ここで全てが終わる。そして全てが始まるんだ。


「勇人」


 ぽん、と背中を叩かれる。

 はっとして俺は横を見ると、アロンが笑いかけている。


「息止めてるわよ」

「あ……」

「緊張しすぎ」


 そう言うアロンの額にもうっすらと汗が滲んでいる。つっこんではいけないよな?


「行きましょう」


 彼女は前を向いた。風が吹いて、彼女の黒髪が遊ばれる。それがやけに綺麗に見えた。

 そうか。風。ここは外なんだな。

 負けられない。俺は改めて深呼吸をした。


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