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生贄になった俺のけしからん二週間  作者: 荒川 晶
第八話 ラストディナー
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ラストディナー その5

 そろそろ全員に声をかけ終えた頃、アロンは、ステージへ向かっていく。マイクを手に取ると、鈴とアイコンタクトを取った。鈴は頷き、そしてアロンも頷き返す。マイクのスイッチを入れるとアロンはゆったりとした口調で話し始める。


「私達が描いていた『夢』は、この地底から抜けだし、『外の世界』へ行く事だけでした。男達より先に、鍵を奪い、そして私達だけが外の世界へ行くことでした」


 彼女は、トランシーバーを掲げる。


「皆に聞いてほしいの」


 彼女はマイクに向かってそれを掲げると、そこから雑音の音が鳴り響き、そして、低い声が辺りを包んだ。


「女子領の皆さん。こんにちは。男子領の反乱軍リーダー、和也と言います」


 ざわっと、空気が緊張した。先程の説明で、トランシーバーのことは話してあったが、まさかここ女子領で、生贄以外の男の声を聞くなんて思ってもいなかったのだろう。そのざわつきを感じたのか、機械の向こう側から、和也の声が響く。


「恐らく今この声を聞いてる皆さんも、驚いているかと存じます。だけど、時は一刻一刻と明日へと向かっている。我々からも少しだけ話しがあります」


 和也は語る。


「俺たちは、沢山の命を犠牲にした。沢山の悲しみを持って生まれてきた。まるでそれが運命だと、言わんばかりに……。それは女子領の皆さんも同じでしょう。俺たちは、鍵を奪って一刻も早くここから出ることばかり考えていた。それも同じです」


 彼は一息入れると、またその先を続けた。


「だけど、ここまで一緒なのに、何故『争わなければならないのか』? そう疑問を持ったのが最初でした」


 彼はしばし黙った。その間、誰も口を開こうとしなかった。女子の皆でさえも、次の言葉を待った。


「ここまで同じであるなら、同じ敵も見えるはずです。俺達が、倒すそれはセイントの裏にいる、『奴ら』です」


 前日、俺達から向こうの反乱軍へ情報を全て伝えた。それを聞いた和也達は、彼らなりのスピーチを考えると申し出た。

和也は、俺が言いたかった事を伝えてくれる。よく言ったと、傍にいれば声をかけていたかもしれない。


「明日、これから説明がある、もろもろの作戦に、俺達反乱軍は乗ります。そして俺達も、これからこちら側を、『一つの目標』へと固めていきます。どうか女子領の皆さんも、心を同じにしてください」


 ここまで話して、いつの間にかステージに立っていたベルが一歩前へ出る。

アロンは一歩下がると、トランシーバーに一言二言添えて電源を切っているようであった。


「私はベル。引退者だ。私達引退者が望んでいるものは一つだ。平等。それだけだ。それを手に入れるにはどうしたら良いか。この世界を終わらせることだ。そのためなら私達も協力する」


 引退者達の中からパラパラと拍手が鳴った。そしてそれは一つ、また一つと増えていく。いつしか引退者全員がベルのそれに共感して手を叩いていた。

 そして、拍手はまた別の所からも始まった。動揺していた一人一人が状況を飲み込み、それぞれの意思を知り、共に戦う意思を示す。拍手の合唱は、いつしか辺りを包むようになった。

 最後まで拍手を戸惑っていた、信者達でさえも顔を見合わせ、そして取り囲んでいた鈴を見て、一人、また一人とその音に共鳴していく。

 そこにいた、恐らくほぼ全ての者が、一つになった瞬間だった。拍手に混じり、時折、歓声も上がる。それはこの世界の終了を夢見た者の声だったに違いない。


 俺はステージ下からアロン達を見上げた。そこには安堵と喜びの笑みがこぼれていた。

 さて、と。あとは作戦を話すだけだ。俺はお暇しよう。

 俺はステージに背を向ける。

だが突如マイクで呼ばれた自分の名前にびくりと肩をゆらすはめになった。

なんだよ。せっかくかっこよく退場しようと思ってたのに。

 眉間に皺を寄せて振りかえると、またアロンは俺の名前を呼ぶ。


「前島勇人。早くステージへ」


 全員が俺の事を見ていた。やりずらい。恥ずかしいし。断ることもできなそうだった。

 しぶしぶステージに上がると、アロンは俺を自分の横に立たせた。


「彼が全てを変えた、お節介ものです」


 なんだよ、その説明の仕方。どうもお節介ですみませんね。

 だがその説明にも関わらず、また拍手が湧きあがった。俺は思わずきょとんとしてしまう。


 俺の目に映るのは女子ばかりだった。ここに来た初日を彷彿とさせるものがあった。けれどそれと明らかに違う。彼女達は目に光を宿している。それぞれが同じ敵を持つことには変わりはないが、同時に今は希望も持っている。それは男女の堺さえ越え始めていることがわかる。初日は皆死んだ魚のような目をして俺を睨みつけていた。彼女達が共にしている意思は男と戦うことだけだった。


 たった二週間で、何が変わるのかと、俺は思っていた。だけどこうして変わっていく事実に、俺自身もただ驚くばかりだ。

 そうだ。この想いを無にはできない。

 俺は心も体も引き締めた。

 最後の戦いが、明日、始まるんだ。


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