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生贄になった俺のけしからん二週間  作者: 荒川 晶
第二話 セイント戦争
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セイント戦争 その2

「あら、猿が無視することを覚えたのね」


 相変わらず嫌みが飛んでくる。だが、次の一言で俺は思わず聞き耳を立ててしまった。


「これだから、男は。いい? 貴方達、男なんてこういう生き物よ。殲滅するに値するわ」

「はいっ」


 いやいやいや殲滅って言いすぎだろう。何故周りの女共は納得したんだ。男嫌いにも程がある。しかもそれが一人二人ならず数十人の規模だ。これを氷山の一角だとしたら、一体ここは、男にどんな恨みのある女ばかりなんだ。


「あのさ」


 俺は思わず、座りなおして声を発してしまった。あまりに幼稚すぎるこいつらに付き合っているのも馬鹿馬鹿しくなってきたからだ。


「男に何の恨みがあるわけ?」


 さっき思ったことを率直に聞いてみた。これが男のいない理由に繋がるかもしれないと直感的に感じたのだ。


「あら、猿はアロン様から聞いてないようね」

「は?」

「……構え!」


 金髪の女が一言発すると、その取り巻きは一斉に檻越しに、何やらおもちゃの銃と思わしきものを俺に向けてくる。


「こういうことよ」

「いや、わかんねえよ」


 こんなおもちゃみたいな銃を向けられてビビるほどガキじゃない。そう思った矢先だった。ひゅんと、一発の閃光が俺の真横を通り過ぎた。一瞬すぎて、何が起きたかわからなかったが、すぐ脇の壁を見て思わずあほみたいな声を上げてしまった。壁に穴が開いている。しかもだ、煙まで出てやがる。これは明らかに今の閃光が原因だ。


「レーザー銃よ。知らないの?」


 声の先に目をやると、金髪の女も、俺に一発放ったおもちゃを片手に声高々と笑っている。

 そんな馬鹿な。あんなおもちゃみたいな成りした銃が本物なんて信じたくない。

 でも信じざる得なかった。女は笑うのをやめると、もう一度俺に銃を向けてきたからだ。


「私達の敵は男よ。そのために戦っている」

「だ、だからどういうことだよ……」

「呆れた。何百年も続くセイント戦争を地球人は知りもしないのね」


 金髪の女は向けていた銃を下ろすと、はん、と鼻で笑う。それに対してまたややイラつくがそれどころじゃなかった。恐ろしいワードを聞いたからだ。


「戦争……だと? お前ら、男と戦争してるって言うのか」

「そうよ」

「冗談だろ? 男と女別れて戦争とか、小中学生でも今はやらねえぞ」

「現実よ。私達は男を殺し、男も私達女を殺す。そういう世界よ」


 これがマジだとしたら、俺はドン引きするだろう。そしてきっと、こいつらは大真面目なんだ。引こう。それしかない。いったい何が面白くて男女戦争なんか起こすんだ。確かに対立しやすい傾向にはあるが、飽くまで生活範疇での話だ。こいつらが使う銃を平気で人に向ける精神は普通じゃない。そして、何より、俺の身の危険を感じた。


「エマ。よしなさい。彼が混乱しているでしょう」


 そこに現れたのが、アロンだった。アロンは昨日と同じように凛としてその場に姿を現す。長髪の黒髪が、風もないのになびいているように見える。


「アロン様、この男にまだ何も話していないのですか」


 金髪女、エマもアロンに対しては腰を低くした。これでこいつらのトップが見えてきた。


「いえ、ここが彼にとってパラレルワールドであることは話したわ」

「ならば、それ以外は……」

「まだよ。今から話をするわ」


 アロンは俺に目を向けてくる。それを聞いて、エマとその取り巻きはさっと姿を消した。まるで統一された軍隊かのように、素早かった。もしかすると、本当にあいつらは軍隊なのかもしれない。だとしたら俺はとんでもない奴の喧嘩を買ったことになる。それだけは勘弁してくれ。

 そう思う刹那、俺の希望の光は消え去り、不安は的中した。アロンの一言目で俺はここにいることが酷く嫌になった。


「エマが言った通り……私達は男女に別れて戦っているわ。本当の戦争よ。彼女はその司令塔の一人。B軍隊の隊長エマ。そして彼女の周りにいたのはその部下」


 項垂れるしかなかった。俺は、甘く考えすぎていたのだ。まさかここまでとは。男を憎むなんてわけがあるのだろうと思っていたのだが、戦争相手なんて思いもしなかった。


「朝ごはんを持ってきたのだけれども、いらなそうね」


 頭を抱えている俺を見て、アロンはそう把握した。一応、とごはんを隙間から差し出してくるが、絶望的過ぎる状況に、ショックを隠しきれなかった。


「お前も殺すのか。人を」

「正確には、男を、ね。ええ、殺すわ」


 さも当たり前のように彼女はそう放った。いったいここの奴らは「殺す」ということをなんだと思っているんだ。俺がこの世界にやってきてから、おかしいと感じていた違和感は、これだったのだ。異常に異性に対して嫌悪感を持っている。そう、異常なのだ。それはきっと、こいつらだけじゃない。恐らく男側も異常なのだ。だが、何故この状況を異常だと感じないのだ。俺はアロンを見た。こいつも恐らく異常者の一人だ。男を殺すことに抵抗など持っていない。同じ人間なのに、数百年の戦争はそこまで人の感覚をおかしくしてしまうものなのか。

 それからしばらく沈黙が辺りを包んだ。俺は、ぼんやりと宙を見上げ、彼女も檻越しに、黙って立っていた。俺の頭の中には「どうしたものか」とそれだけが渦巻いていく。そして、一つの仮説が浮かび上がってくる。


「そういうことか」


 俺はぼんやりしていた頭を回転させ始め、アロンを見た。アロンは何も表情を変えず、俺の言葉を待っていた。


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