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生贄になった俺のけしからん二週間  作者: 荒川 晶
第六話 反乱軍と戦争
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反乱軍と戦争 その6

 俺はぐっと握りこぶしを作り、俯いて代わりに声を発する。


「セイントを、潰すためだ」

「セイントを貴方なんかが潰せると?」


 冷たいその声は初めて会った時と同じような物言いだった。俺は顔をあげるとその声の主に向かって歩を進める。


「潰す。潰さなきゃダメなんだ」

「言っておくわ。反乱軍がいるように、セイントの信者もいるのよ。彼らを怒らせてどうなると思っているの」

「そんなの……とっくに知ってる」


 そう、それが俺達の『目的』だ。

 俺は息を吸って、そして、エマを見て、口を開いた。


「エマ、お前は帰れ。そんな普通の格好でここにいるんじゃねえ」


 突然振られたことにエマは驚いて目を見開く。そしてこれから何が起きるか悟ったようだった。


「そうよ、エマ様。戻ってください。せめて防具を……」

「アロン、お前もだ。風邪を引いてるならさっさと戻れ」

「なん……っ」


 言い終わらないうちに、俺はアロンの腕を引いて、そして軽く口づけをした。

 良いだろう? 最後になるかもしれないんだ。これくらい。

 その直後に警報音と、俺へのビンタの音が辺りに鳴り響いた。

 俺は叩かれたところに手をやると、その主を横目で見やった。顔を真っ赤にさせて、俺を睨みつけてくるアロンはやっぱり変わってない。良かった。

 その脇で、エマが固まって、目に涙を浮かべているのも視野に入っていた。悪い。だけど、もう自分に嘘はつけない。


「二人とも、さっさと戻れ」


 俺は、背を向けると、中間区域に乗り込んだ。すると別の警報音も鳴り出す。二つの警報音が混ざって耳の奥がぐわんぐわんする。俺は頭を振ると「行くぞ」と、あゆむに声をかけた。

 あゆむはこくりと頷く。


「行くぞ! 私達について来い!」


 あゆむがそういうと、一斉に女子達は男にも負けないような声を張り上げ、「おおお!!」と士気をあげた。


「待ちなさい! まだ話は終わってないのよ……!」


 後ろからアロンの声が響いてくる。けれど、もう戻れない。俺はセイントを潰す。終わらせるんだ。

 ずんずんと歩をセイントへと進めていく。ただまっすぐに。セイントへ。


「本当に、良かったのか?」


 あゆむが強張ってる俺の様子に勘付いて、一言そう放つ。

 ああ、いいんだ。これで。

 心の中でそう答えただけで俺は何も返さなかった。

 遠くから野次馬の声が届く。その声を聞きながら、俺達は一番にセイントへと到着した。


『またお前か。前島勇人よ』


 セイントは俺が来る事を予想していたかのように、俺の姿を確認するや否や話しかけてきた。


「ああ、俺だよ」

『今度は何を企んでいる』


 そう簡単に言うものか。そう俺は呟いて、にやりと笑う。

 ? あれ、おかしいな。なんで俺は笑ってるんだ?

 手を見ると震えていた。だけど先程までとは違う震えのように思える。これは、俗にいう武者震いってやつなのか? ランナーズハイってやつか? まだ走りだしてもないのに。

 そんなどうでもいい事に一人ツッコミを入れては、もう一度セイントを見た。

 やはり、セイントはでかい――

 俺はあゆむを見た。


「来たようだな」


 あゆむは頷く。彼女達は、他の者のとは違う、お手製の顔まで隠れる金属のヘルメットをかぶる。そうして顔を少しでもわからなくしていたようだ。俺はというと、まあ女子領にいる男なんて俺だけだから正体を隠すことは無意味に近い。

 そうこうしているうちに、周りには男女共に野次馬が集まってきた。恐らくだが、この中には『信者』もいるだろう。

 周りに人が集まったのを確認すると俺は持っていた短剣を天井へと掲げ、声を張り上げた。


「セイント。俺達は、お前をぶっ壊すためにここに集まった!」


 ざわっと、空気が淀んだ。俺はもうひと押しと更に腹から声を出す。


「お前は俺達人間を人間として扱うこともせず、無意味に戦争を起こさせ楽しんでいる。その理由を問いたい。理由如何によっては、俺達はセイントを破壊するだろう」

「待て! 地球人!」


 来た! セイントの前に立ちはだかった男数人を眼で追った。かなりがたいがいい。殺気立っていて、思わず怖気づきそうになる。それをなんとか両足で踏ん張って、掲げていた短剣を下ろした。

 この世界に来てから、男と話すのは初めてだ。それがこんな形になるなんて。

 俺はつくづくこの運命を呪ってみた。かといってもう後戻りはできない。

そんなシリアスな場面なのに、よくよく見ると、こいつ、高校時代のクラスメイトに似ている。天然パーマが特にそっくりだ。俺は思わず小さく笑ってしまった。


「何を笑っている?!」

「ああ、いや、悪い。悪気はないんだ」


 残念だ。こんな形でなければ、友達にしてやってもよかったのに。

 しかし、俺の雑念なんかどこ吹く風らしく、男は俺に抗議してくる。


「とにかく、お前はおかしい。戦争を起こさせているのがセイント様だと? 俺らはセイント様に作られたのだ。母なるセイント様だぞ。それを壊すというのか」

「お前らこそおかしいだろ。この状況地球人なら真っ先におかしいと感じるぞ。それとも何か。空球人の男ってのは、ねじが吹っ飛んでてそんなことにも気付かないのか」

「なんだと?!」

「ああ、悪い。男だけじゃないか。恐らくお前のような思考をした奴は、きっと女の中にも……」


 俺は振り返り、女子達の方を見かけた。その時だった。ひゅんと、俺の横をレーザーが通過した。


「いい加減にしろ。地球人」


 ぶっ放しやがったな。血の気が多いのは男より女だったか。

 俺は顔をひくつかせて笑ってしまう。あぶねえあぶねえ。

 女子は団結力が強いらしく、既に信者共が集まっていた。ざっとみても、女子の反乱軍並に人はいる。彼女達もセイントの前に立ちはだかる。男の信者共もぞくぞくとセイントの前へと集まってきた。

 さて、そろそろ、あいつらにも登場してもらわないとな。

 俺はもう一度男子達に向き直る。


「いるんだろう。反乱軍」


 そう呼びかけると、人混みが脇へと寄っていく。後ろからは、女子の反乱軍の二倍はいるであろう男子の反乱軍が、皆ヘルメットを被って現れる。

 そらきた。これだ。これを待っていた。

 俺は、反乱軍と信者達で対立するこの場面を見てほくそ笑んだ。互いに無言ながらも、目線は火花が散っている。戦争自体はここでは当たり前のようだが、恐らくこの場面になった事はないだろう。どう見てもこれは、男女の戦いではない。そうこれは――


「なんだ。お前らも地球人と一緒じゃないか。信じる物の違いで対立する。男女関係なくな。これが地球人流の戦争だ」


 周りがはっとした。特に信者共の動揺は大きかった。ざわざわと辺りがざわめく。そうだ。これでいい。


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