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生贄になった俺のけしからん二週間  作者: 荒川 晶
第三話 聖女子と生贄
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聖女子と生贄 その10

「俺がアロンにしてやってることを、エマにやってあげてくれないか」


 直接触れないなら、間接的に触ればいい。ただそれだけだ。

 俺はアロンの髪を撫で、ぽんぽんと叩く。それと同じように、アロンもエマを撫でた。


「触れないからな。こんな形にはなるけど」


 今度は背中をさすってやった。アロンはやや赤面しつつも、同じようにしてくれる。


「俺はどうしたらいい?」


 ひとしきり撫でると、俺はまた目線をエマに合わせるためにしゃがむ。大分顔を上げてくれるようになった。


「勇人……貴方は……」


 エマに勇人と呼ばれることに違和感を抱きつつも、その先をじっと待つ。俺はエマを見つめた。


「私が嫌ではないの?」


 いやになる理由なんてどこにあるんだと、俺はきっぱりと言い放った。


「エマ、お前はお前だろう。俺の事猿呼ばわりする、凶暴で、でも人気者で、多分だけど俺の見えない所だと部下に優しいんだろ」


 彼女は目線を反らす。イエスとも、ノーとも言わない。だけど、必死に何か言葉を紡ごうとしているのはわかった。


「一日だけだけどな。代わりになれるのは」


 そこまで言って、俺はアロンにちょいと袖を掴まれた。


「なんだ?」


 アロンが目線を、彼女の袖に移す。エマがアロンの袖を握っていた。

 なるほど、俺からエマだけじゃなく、エマから俺へのこういうやり方もあるのか、と納得する。


「なんだよエマ」

「もう、代わりはいらない」

「えっ?」

「今は……勇人、貴方がいい」


 思考が停止した。エマが、目を腫らした彼女の視線が、俺の視線を掴んで離さなかった。

 ちょっと待ってください、お嬢さん。

 これって、告白ですか? どっきりか何かですか?


「えっ、え?」


 戸惑う俺はアロンと鈴を交互に見やった。どうやらこのことも、彼女達は知っていたようだ。


「……セイントの中で、好きだった人が死ぬ場面を何度も、何度も何度も見せられたわ。その度に絶叫して、悲しくて、どうしようもなくなった。でも……おかげでわかったの。彼は死んだのだと。彼の代わりなんて一人もいないのだと」


 エマは淡々と起きた事を語る。

 それから、彼女は意を決したようにして、俺の瞳を覗く。


「でも、私は聖女子じゃないから、勇人にはどんなに頑張っても、触れることはできない。だから……」


 彼女はアロンに目を向けた。


「聖女子の座をかけて、私と戦って。アロン様」



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