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生贄になった俺のけしからん二週間  作者: 荒川 晶
第三話 聖女子と生贄
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聖女子と生贄 その9

 俺は心の中でため息を吐いた。

 起きあがって、ベッドに座り直すと、もう一度くいっと手錠を引き、アロンをこちらに向かせ直した。


「だから何よ……何でもないって言ってるでしょ」


 彼女は視線を反らす。

 俺はじっとアロンを見た。


「言いたい事は言えよ」

「だから……」


 俺はその先言い訳しようとするそいつの腕を引っ張り、引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。

 どうしてそうしたのかなんて考えてなかった。ただそうするのが正しいと俺は思った。


「無理に聞こうとは思わないけど、我慢しすぎるなよ」

「我慢なんて……」

「してるだろ?」


 アロンは何も言わなかった。

 しばらくそうしてお互い何も言わずに、抱きしめていた。

 彼女は柔らかくて、いい匂いだった。

 俺自身もこうしていることで、心配していた気持ちや、エマに対する不安が少し和らいでいくようだった。

 なあ、アロン、お前は今何を考えているんだ……――



 それからひとしきり朝ごはんを食べ、恥ずかしい思いをしながらトイレに行き、歯を磨いて今日の支度は万全だった。

「それで今日はどうするのですか。アロン様」

 俺は周りの女共の真似をしてみる。彼女は眉間に皺を寄せながらも、手帳を開いて予定を確認する。


「……エマの様子を見に行くわ。それがメインね」


 一日経った今、彼女がどうなっていくのか、見に行く必要があるようだ。だが、それは俺が一緒ではだめなのではないか?


「先に鈴に入ってもらって、状況を説明してもらう。了承が出たら入るわよ。いいわね」

「了解しました」


 !? こいつらは忍者か何かか。いつも気配を消してやってくるんだ。俺は目を丸くして、ぽかんと鈴の登場にただ驚くだけだった。


「では、エマ様の所へ行ってきます。了承が出ても出なくても、お待ちください」


 鈴はさっと駆けていくと、その後ろ姿を目で追う。彼女には目で追いたくなる不思議な物があるのだ。

 それから数分の間、のけーっと天井を見つめていた。アロンと話す事など特にないのだ。いや、もっと言えば気になる事は色々あるのだが、今は聞けない気がした。

 こんこんと扉の叩く音がする。


「よろしいでしょうか」


 鈴だ。天使の彼女が入ってくると、手紙を俺とアロンに手渡した。


「エマ様からの伝言です」


 二人の内容は若干異なっていたが、ほぼ同じ内容だった。エマは俺に会いたくない。アロンとは会ってもいい、と。もしも俺がどうしても会う必要があるというなら、見た目の事については一切触れない事、と。よっぽど何かが変わったのだろう。前にも言ったがエマはエマだ。見た目で色々いうつもりはねえ。


「了解よ」

「俺も了解だ。俺はどうしても会いたい。会って話がしたいんだ」


 それを聞いて鈴もうん、と頷く。この頷いたのが何を意味しているのかがわかりかねたが、何か納得したようだった。

 俺達二人は鈴に連れられ、彼女達の部屋へと移動する。


「いいですか? エマは精神的ダメージを強く受けています。くれぐれも……」

「わーってるって」


 俺は扉を開けた。ぎぎと幾分か重い扉が開くと、部屋の奥のベッドに座っていた、白髪の女子が肩を丸めていた。俺達が入ってくるのを察知すると、びくりと、体を揺らす。


「……よお、エマ」

「……」

「なあ、心配してたんだ」


 俺は視線を合わせるために彼女の前へと移動し、座り込んだ。

 彼女は顔を隠し、目線を合わせようとしてくれない。


「悪かった。本当に」


 まず俺が言うべきだと思ってた言葉を言うことにした。それもこれも俺が原因なのだ。彼女がこんなに話さなくなったのは俺のせいだ。


「なあ、前言ってた話。あれ、やってみようと思うんだ。可能な限り」


 それを言うと、エマはやや顔を上げる。俺は精一杯の笑顔を作った。触れることが許されないなら、と、俺は立ちあがり、アロンの頭を撫でてやる。


「え?」


 アロンは突然の事にわからないといった顔をして、俺を見た。


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