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生贄になった俺のけしからん二週間  作者: 荒川 晶
第三話 聖女子と生贄
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聖女子と生贄 その2

「いいのよ、怒ってくれてありがとう」


 皆に笑みを振りかざす彼女に一目やると、付き合っているのがくだらなくなり俺は足早にそこを去ろうした。


「ちょっと、待ちなさいよ」


 それをエマは追ってくる。嫌いなら追ってくるんじゃねえよ。俺は目で威嚇するが全然効果はない。彼女は俺の視線をはじき返すように、口端をあげる。


「せっかく、新しい事教えてあげようと思ったのに、必要ないようね?」


 ったく、わざとらしい。しかし、俺はそんなわざとらしさに気付きながらも、新しい何かが酷く気になる。

 おい、俺の好奇心はいつ満たされるんだよ。

 俺は足を止めた。止めて、彼女に向き合うと「で?」と口を開く。


「交換条件か?」

「あら、察しがいいのね」


 ぱちぱちと拍手する。そういえば取り巻きがいない。どうやらこいつが追い払ったようだ。


「部下に聞かれたくないことか」


 察しがいいのは俺の長所でもあり短所でもある。思ったことを言葉にするとエマはさすがに困ったように笑う。こいつも黙っていれば可愛いとは思うんだが。残念系だな。そんな上から目線の感想を持ちながら、彼女が発するのをじっと待った。しばらくして、「来て」と言われた。

 俺は黙ってついていけば、そこは何度か通った事がある場所だった。確か鈴とこいつの部屋だと誰かが言っていた。

 これはもしや、と思うのも束の間、俺には『アロン以外に触れてはならない』という条件があることを思い出す。はいはい、わかってます。そんなもしや、なことがあるわけないってね。

 軽く暴走した思考を振り払い、促されるまま俺は部屋の中に入った。


「……誰もいないのか?」

「鈴と一緒に住んでいるわ。幹部は二人一組なのよ。鈴は今日見張りの当番でいないの。そこに座って」


 俺は言われるがままにソファに座りこんだ。彼女も前に座るといつになく真剣で何か言いたげだ。最初は出された紅茶を飲んで待っていたが、そわそわとしたまま、なかなか言い出さない。俺は沈黙が耐えられなくなり、しびれを切らした。


「で、なんだ?」

「えっ、と……その……」


 エマは赤くなり、手をもぞもぞと動かして遊びだす。

 おいおい、なんだこいつ、ちょっと女の子じゃんか。

「なんなんだよ?」と言って女の子がもぞもぞと照れる流れは、そうだ、告白しかないじゃねえか。エマが? 俺の事? もしもそうだとしたら俺はどうする? エマは口は悪いけど決して見た目は悪くない。だけど触ることができないからな……。

 色々考えてはみたが、この展開でありがちなのは主人公がわくわくしといて、裏切られる展開だ。そうだ。きっとアロン様を取らないで、とかそういう百合的な展開なのかもしれない。

 ひとしきり考えを巡らすと、これから何言われても驚かないだろうと言う自信が生まれてくる。例えそれが拍子抜けな内容だとしてもだ。


「貴方が、前の片想いしていた人に似ているのよ」


 そうそうこんな風に、片想……い? は?

 あまりに斜め上にぶっ飛んだ発言に俺は思いきり眉間に皺をよせてしまった。しまった。絶対何が起きても驚かないつもりだったのに、斜め上すぎて反応してしまった。


「それを、俺に言ってどうするつもりだよ」


 これが素直な感想だろう。寧ろそれしか出てこない。


「困るのよ」


 この展開でまさかの文句ですか。

 いや、そもそも片想いって、そんなチャンスこいつらにあるのか。ロミオとジュリエットみたいな感じで、戦争相手とこっそり会っているのか、そんなこと、ここのシステムで可能なのか?


「それで、その相手に似ているからどうしろと……」

「一日だけ、彼になりきってほしいの」


 俺は全身の力が抜けていくのを感じた。なりきるって、ネットじゃあるまいし。ねじが緩んでいるのか、こいつは。だけど目を見る限りどうやら本気のようだ。とりあえず何も理解ができてない俺はエマに情報を求めることにした。


「言ったでしょう。新しい事教えるって……」


 それは二年前に遡る。エマがまだ十六の話だ。エマは十六にしてこの世に初めて誕生した。彼女の脳はまだ0歳児と同じであった。

 もうこの時点でおわかりの通り、俺は既に混乱していた。質問しようとするのを制してエマは話を進める。

 彼女の生みの親は、あのセイントである。遺伝子は実際の人間から貰っているらしい。セイントは言う所の人間製造機でもあったのだ。

 テレポートもできれば、人間まで作れるってどんだけ万能なんだよ。これがアロンの言っていた、「テレポートは古い」の意味なのか。

 いずれにせよ、彼女、否、彼女以外の人間もセイントによって生み出されていた。男女が何百年も喧嘩を続けているにも関わらず、子孫が残っている理由がこれで一つ解決した。彼らは直接体を交わすことなく、遺伝子を残していけるのだ。


 そして二つ目の小さな疑問も解決しようとしていた。何故幼い子供がいないのか、ということだ。それはセイントの意思によって――機械の意思というのもおかしな話だが――子供が生まれないように調整されていたのだ。調整と言っても、ようは細胞を短期間に成長させるということだ。ずっと戦争を続けている彼らの中に幼い子供を投入する意味は少ない。故に、ある程度まで成長させた、もっと言うと第二次性徴期の戦える男女をセイントは作り出していたのだ。

 急速に、セイント内で細胞を成長させるため、作られていく細胞は非常に不安定である。うまく発生できない人間はセイントによってすぐに除去されてしまうらしい。

 そうこうして生み出され、体のみが成長した人間ができあがる。その時に、一気に複数の――男女合計だいたい十数人の――人間を作るわけだが、全ての人間にセイントは知恵と知識を与える。だがこれも脳の構造に関与するらしく、出来上がりは十人十色だそうだ。


「つまり、私は、というより、ここにいる皆全員、貴方以外は作られた人間なのよ」


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