人体実験
即興小説より転載 お題:君の強奪 制限時間:15分
浮かぶ光は色とりどり、もちろん千差万別だよ。
人の人生は色々、夢も色々なのさ。
類型が見えたとして、同じものは一つしてない。存在しない・・・。
それぞれに闇があり、地獄の世界があるのさ。
さて、どれをご覧になりたいかな?
ああ、それ。
見えるかい?息を呑むような凄絶な姿・・・。
その男・・・おや、人間に見えなかったかい?
まあそうだね、それだけバラされていたら分からないさ。
内臓から何から何まで、機械と繋がって操作されている。
そういう実験に供されているのさ。
何でそんなことになったのか、知りたいかね?
彼はね、優秀な研究者だったのさ。
素晴らしい知識を持ち、医学の発展を望んでいた。
それは大層な理想の持ち主だったそうだが、残念なことに、彼には大事なものが欠落していた。
人間に対する、思いやりというか、心というか・・・。
単刀直入にいえば、彼は人間をそのまま実験材料にしたんだね、医学の発展のために。
いやいや、死体じゃないよ。
生きた人間さ。
生きたまま人間の腑分けをし・・・血を抜き取って、どれだけ生きていられるか見たり・・・体の一部を切断してみたり・・・病気に感染させてみたり・・・
詳しく聞きたいかい?
おや、顔が真っ青だ、止めておこうか。
とにかくそんなことばかりやっていたものだから、他人からは倦厭されたね、同業者においても。
しかし実験データは豊富に持っていたから、論文は大変有意義なものを書いたそうだ。
そんな彼にも、友人が一人いた。
同業者の、大学の頃の友人だった。彼だけ唯一、離れていかなかったんだね。
その友人がある日、自分の婚約者を連れて来るまで。
あろうことか、彼は友人の婚約者に懸想した。
変な懸想の仕方だったがね・・・。
そう、大変実験材料として魅力的に映ったのだ。
健康そうな、美しい体をしていると見受けたからね。
彼は友人のいない間に、婚約者を強奪し、実験場に連れて行った。
我慢ができなかったのだろうね。
それからすぐに実験を始めた。
これまで通り、血も涙もないメスを振るって、婚約者の体を使って大変有意義な実験を行ったのさ。
それにはさすがに友人も失望、絶望してね。
実験狂の倫理観のない友人と付き合っていた自分が悪かったと自分を責めて、自殺してしまった。
彼はそれでも変わらなかった。
白い白衣を真っ赤に染めて、様々な実験を続けた。
ところが、ある日、実験が続けられなくなった。
彼の罪が発覚したのではない。
材料を提供して貰えなくなったのだ。「人権」というものが輸入されたことによってね。
政府は彼を優秀な人間として扱ってきたが、段々それが都合が悪くなってきて、しかも彼を不気味に思いはじめたらしい。
彼を研究の世界から抹殺しようとしたのだ。
材料さえ入らなければ、彼は論文も書けないのだから。
ところが、最後に彼は提案したのだ。
学会と世間に。
自らを実験体として使用する、ということを。
どうしても、彼は実験の成果を結実させたかったのさ。
何百もの人を実験材料に供して手に入れたデータを基にね・・・。
彼はある日、膨大な研究成果と実験材料を持って、自分一人で実験場に入って行った。
そして、二度と、彼の姿を見る人はいなかったのさ。
今は幻想夢幻の世界でのみ、彼の姿を目にすることができる。
ご覧、彼のなれの果てを。
彼はあれから何百年も経っても、生き続けている。
器具に繋ぎ、意識を保ち、同じ体を使って、血は巡り続ける。
これは彼の実験の賜物なのさ。
何百人も犠牲にした上で得た、最終的な形態。
彼はこうして生き長らえ、実験の結果の中に巡り続ける・・・。
まあ、こんな姿になってまで、生きていておもしろいものなのか、疑問だがね。
夢から覚めないまま、たくさんの犠牲から成り立って、彼はこうして・・・闇の中の住人となっているのだよ。




