【入口】
観覧車に回転木馬。
ジェットコースターにコーヒーカップ。
回る回る、めくるめく遊戯の園の片隅に、黒いテントが張ってある。
「地獄の世界」と名付けられた幻燈館に訪れる人は、その異様さからか、まばらである。
出入り口の側にはチケットもぎりの従業員が立つ。
従業員は幻燈館の雰囲気に合わせているのか、黒いシルクハットに黒いマント、そして一つ目の描いてある目隠しをした奇妙な格好をしている。
従業員は時折、アナウンスする。
「ようこそいらっしゃいました。こちらは幻燈館「地獄の世界」でございます。
幻想夢幻に囚われた憐れな人々の『記憶』を標本にした光が浮かぶ展示場。
それぞれに物語が映されており、好奇に猟奇、怪奇に満ちた、人々の裏側、闇の一面がご覧になれます。
案内人が一人つき、それぞれの幻燈の物語をご紹介致します。
入ってしまったら最後、もう後戻りはできません。
哀れで奇妙で愚かで滑稽で残酷な・・・オカルトとロマンス。
・・・貴方自身の心の中の何かを呼び覚ましてしまうかも知れません。
己の好奇心に負けたなら、お入りなさい、この【入口】から「地獄の世界」へ―――」
テントの異質さか、「地獄の世界」というタイトルのせいか、従業員のアナウンスのせいか。
それとも他に、テントの奥底から滲み出てくる何かがあるのか。
一人、足を止め、吸い込まれるようにテントに入って行った―――