ふりだしに戻る
「んーあ、自分が作り出したゾンビ以外は使役することができないんだよなぁ…」
まだ頭が三割ほど寝ている状態で考えたことは、ほんとうにどうでもいいことだった。
「って、え?ゾンビ?」
徐々に脳が覚醒していき、目の前の現状を正確に理解していく。
「ゾンビを使役していたのは……ってあれは昔だ。目の前にいるゾンビは現ほんもので人を喰らって…つまり、ウィルス性かぁ…ってえ?つまり…」
目の前にいたゾンビが俺を捕まえようと大きく口を開き、襲い掛かってくる。
「つまり一発でも噛まれたらアウトか!!!!」
理解した。現状を、目の前の存在を、いま何をするかを。
「セイ!!」
勢い良く椅子を後ろに引き、机をゾンビに向けて蹴り飛ばした。ゾンビは全筋肉を使って蹴り飛ばされた机に当たり、鈍い音を出しながらうつぶせに倒れる。
思考をするより先に体が覚えてる動きを即座に実行した。
ゾンビの肩を踏み、右手を下あご、左手を頭上に乗せ、腕を勢い良く抜いた。
ゴキュリ
不気味な音と共にゾンビの首がフクロウのように180度回転する。すると今まで暴れていたゾンビが電池の切れた玩具のようにピクリとも動かず、床に平伏した。
「腕はまぁまぁ動くな……まずは武器でも取りに行くか…」
そう呟きながらリュックサックを手に取り、教科書をすべて机の上にばら撒く。持ち物は携帯と金だけあればいい。
「っち、もう来たか」
見れば前の扉からゾンビが三人ほど入ってきている。とりあえず机に出した教科書をゾンビに投げつけ、教室を出た。
―
「…こいつはヒデェな」
廊下を見渡し、呟く。
そこはゾンビと人で溢れかえっていた。数人のゾンビが一人に喰らいつき、腕を噛み千切られた生徒が血をたらしながら廊下を歩き、その生徒を走っている別の生徒が押し倒して走り去る。そしてその後から走ってきた女子の群れにいきなり立ち上がったゾンビが喰らいつき、首を噛み千切った。噛まれた女子の首筋からは水鉄砲のように勢い良く血が噴出し、天井と窓を赤く染めていく。
廊下は、学校は死体と血飛沫で染められていた。
「GURUUU!!!」
「あっぶねぇな!」
噛み付こうとした女子ゾンビの腋を潜り、ポニーテールを掴んで思いっきり引っ張る。そのままハンマー投げの要領でゾンビを引っ張り、窓に向かって放り投げた。
パキャン!!
ゾンビは頭から窓ガラスに突っ込み、その顔を自分の血で赤く染める。眼に、口に、耳に大きなガラス片が食い込み、顔の肉が削げているのにも関わらずおもむろに立ち上がり、こちらに歩いてきた。
「やっぱり死なないか、ならば」
すぐ隣に倒れている死体の腕を掴み、思いっきり投げつける。投げるというよりか廊下を滑りながら向かっていった死体はゾンビの両足を払い、ゾンビは頭から床に倒れた。
ゾンビの前に立ち、右足を上げる。狙うは後頭部。
パキャ!
グチャ!!!
全力で踏みつけられた頭蓋骨にはひびが入り、二度目で果物のように弾けとんだ。
「やっぱり首か頭か……」
首から上の中身が漏れ出し、動かなくなった肉塊を見て頭と首を潰せば殺せると確信した。
「GURAAAAAAAA!!!!」
「おっと」
後ろから襲い掛かってきたゾンビの重心を崩し、投げる。やはり体術だけではいくらか厳しいな。体育館裏の用具倉庫に刃物を取りに行きたいがそれまでが面倒だ。せめて棒だけでも……
「…あそこだな」
俺が見つめた場所、廊下の一番端。そこにはプレートに調理室と書かれた教室があった。あそこには包丁があるはずだ。だが誰も使っていない教室には鍵がけられてしまう、それは調理室もおなじだ。この騒ぎの中ならいちいち職員室から勝手に鍵を取ってきても問題にはならないだろが、面倒だ。
ならすることは一つ。 ぶち破れ。
約三十メートルほどの廊下を全速力で走りぬける。ゾンビの腋をかいくぐり、生徒の死体を踏みつけ、血溜りで足が滑らないようにしっかりと床を踏む。そして扉との距離が一mほどになったときに床を強く蹴り、とび蹴りで扉をぶち抜いた。
ガシャン!!
とび蹴りの衝撃で扉についている窓が割れ、大きな音が響く。そして廊下のゾンビがすべて俺の方を向いた。どうやら音に敏感らしい、厄介なことになる前にさっさと出て行かなければ。
―
「とりあえずこのぐらいでいいかな?」
一通漁った後、普通の包丁を六つリュックに入れ、二つを腰のベルトにつけることにした。鮪包丁や鮫包丁の類を期待したがどこにも置いてなかった。
次は倉庫に向かうか。
そう考え、とりあえず調理室から出られるように入り口に集まったゾンビ達に向かって椅子を投げつけた。
―
「お前ら、昭和のドラマかよ…」
俺はあきれながら、目の前にいるゾンビに呟いた。
今俺が目指している用具倉庫は体育館の裏側に設置され、草刈機や鉈などが収納されている。その倉庫が設置されている場所からして雑草の生えた体育館の裏を通るしかない。
そして通ろうとしたら数人の金髪ゾンビが現れたのだ。見ればそのゾンビの足元にはビール缶とタバコの吸殻が落っこちている。体育館の裏で悪いことをする金髪ヤンキー達などどう考えても時代遅れだ。もしリーゼントがいれば完璧だったと思うな…
「GAAAA!!!」
「ソイヤッ」
ゾンビの引っかき攻撃を体を逸らすことで避け、喉元に包丁を突き刺す。
「JURRRA!!!」
首から包丁を生やしたゾンビを別のゾンビに投げつけ、体勢を崩させる。
「飛べぇ!!」
もう一人のゾンビをさっき体勢を崩させたゾンビに重なるように投げつけ、即座に足元のコンクリートブロックを手に取る。そのブロックを頭上に持ち上げ、しゃがむ動作と同時に振り下げた。
ググシャッ
もう一回。
グパンッ
血と肉が弾け飛び、緑の雑草を赤に染め上げる。そしてここに頭が潰れた死体が二つ、首から包丁を生やした死体が一つ出来上がった。
「…もったいないな」
まだ使える、そう思い死体から包丁を引き抜こうと腰を曲げたとき、小さな音がなった。
チャリン
「これは、キーホルダー?」
音を鳴らした物体、それは俺の胸ポケットから滑り落ちた三日月のキーホルダーだった。でも確かコレは家の鍵についていたはず…
「…あぁ、思い出した」
確か家の鍵からキーホルダーが外れて、鍵は確かロッカーに入れたんだった。
つまり…
「また教室に戻るのか…」
面倒だなぁ…
そしてプロローグへ