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飛べないフクロウ

「あーー、クソだるい……。核でも落ちてみーんな死なねえかな」

 『咲瑞さきばし学園』という、都内で一番大きな男女共学の中高一貫校がある。大きな学園で設備も整っており、周りは田んぼや畑に囲まれているものの、歩いて15分もすれば開けた町があり、アクセスも良い。頭の良い人も入ればその逆も多く、幅広く生徒を集めている。

 4月上旬、その通学路を一人で歩く男がいた。

「あー、めんどくせ。誰もいないし、田んぼに立ちションでもするか。」

 その男は身長が高くガタイが良いのが学生服の上からでも見て取れる。紋章の色は高校2年、髪は長髪でボサボサなのをワックスで強制的に固めている。ポケットに手を突っ込みながら、ふらふらと登校していた。

「あれ、おしっこ出ねーな……。なんだろうこの感じ。自慰行為やった後みたいだな。」

 チャックを締め、再び歩き始めた。

 校門についた時には10時になっていた。3メートルはある門を、左手を添えて軽々と飛び越えた。そのまま教室へと入った。

 教室で担任と目があった。担任は怒りのこもった声で言った。

「おいお前! 何堂々と入ってきてるんだ。名前を言え名前を。」

「オオシマ」

「は? 名前を全部言え!」

「オオシマ拓巳たくみでーす。よろしくー。」

 オオシマと名乗る男は気だるそうに答えてから、自分の机まで歩いた。

「全く、まだ始業式が始まって4日目だぞ。お前みたいなのがいるから、うちの学校も悪く見られるのだよ。」

 特に気にする様子もなく、目を擦りながら席に着席した。それを見た担任の不機嫌度が更に上がった。

「おい! 誰が着席して良いって言った?」

「あ?」

「いいから立て」

 オオシマはゆっくり立ち上がり、担任と目を合わせた。

「一体なによ?」

「お前、去年は何回遅刻したんだ?」

「えーーっと、記憶に無いかな」

「はっ、お前みたいな不良は回数を覚えることも出来ないぐらいやってるか。まあ、この名簿を見れば全て書いてあるんだがな」

「なら最初から見ろよ……」

 担任は名簿を広げ、オオシマの覧を見た。そしてもう一度見た。更にもう一度見た。更に何度も何度も見た。

「お前挙動不審になってるぞ……」

「おかしい……、欠席も遅刻も0とはどういう事だ? しかも中学からずっと0……。お前まさか! 前の担任を脅したのか! きっとそうだろ、そうに違いない!」

「なんでそんなめんどくせー事しなきゃいけねーんだよ……」

 そのやり取りを見て、女生徒が一人手を挙げた。

「先生、私はオオシマ君の遅刻は見たことありませんよ」

 そして次々と同意の声が上がった。

 担任は名簿を叩きつけ、少し悔しそうに言った。

「座れオオシマ。もう遅刻するんじゃないぞ」

「ういーーーっす」

 オオシマはゆっくりと座り、自分の学生服を見た。一番上までボタンがピッチリ止めてあった。それを見てため息をつき、上から3つまで外した。そしてそのまま眠りの体制へと入った。担任は多少の罪悪感があるせいか、それを見て何も言えなかった

 目が覚めたのは昼休みに入るチャイムが鳴った時だった。予定より早く授業が終わったせいか、教室には既に半分ぐらいの人がいなかった。オオシマは飯も食わずにそのまま中庭へと向かった。

 そこでまず、タバコに火を付けた。人通りはそこそこあり、教師もいるのだが誰も注意する者はいない。理由は、単純に彼が怖いのだ。一息吸うと、大きく咳き込んだ。

「おほっ、えほっ、マズっ! クソマズイ! 何だこれ吸う奴ってバカだろ。自分からマズイ物吸うなんてマゾの集団か日本は」

 もう一度吸ってみた。今度はゆっくり吸ったおかげで、むせずに吸えた。

「はあ……、タバコも吸えない不良とか、飛べないフクロウと変わらんな。バントの出来ない川相みたいなもんか。まあ、川相は好きな選手ではあるが」

 そして自分の今日の行動を思い返した。担任に毒をつかれた事、これ自体は別に何とも思ってはいない。けれど、立てと言われて立った自分は納得が出来なかった。

「まだ抜けきれてないってことかな。まあ、徐々に染まっていけば良いか、とりあえず目標はコンビニの前でたむろってる不良にしとくか」

 タバコを頑張って5つ吸ったところで腹が鳴った。

「……、戻って弁当でも食うか」

 ヤニの香りが口の中に媚びりついて気持ちが悪くなった。息を吐くだけ吐ききってから、教室へと戻った。

 席に着き、大きな弁当箱を2つ広げた。ひとつは米がびっしりと詰まっている。これは日によっておにぎりの日もある。もう一つはオカズが所狭しと詰まってある。毎回、全部手作りで冷凍食品は一つも入っていない。

 そしてそれを食べようとしたその時、ある女生徒が声をかけてきた。

「オオシマさんオオシマさん」

「あ? 誰だ?」

 その生徒と目が合った。高校生にも関わらず少女という印象を受けた。それもそのはず、座っているオオシマの目線とその少女の目線の高さがちょうど同じなのである。目が大きくウルウルしていて、髪は薄い茶色で長く、少し跳ねっ毛が目立つ。

「あの……、あの……」

 その少女は恥ずかしそうに目を外した。そして小さい声で「よしっ」と気合を入れてから、再びオオシマの目を見た。


 そして、教室全体に聞こえるぐらいの大きな声でとんでもない事を言った。


「あの! 私を育ててみませんか!!」

「は?」

 騒がしい教室は、一瞬にして静まり返った。

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