選択三、(最終話)
爽やかな秋の午後。
木枯らしが、冬が近付いていることを暗示するかのように、葉の服を脱がされたもの寂しい木々を吹き抜けてゆく。春にはその華やかな色で見る者を楽しませる桜の並木も、今や数枚の葉がその冷たい風と必死に闘うだけである。
彼女は電車を降り、ゆっくりと歩いていった。
一歩踏み出すごとにその目に映る風景を確かめ、理解する。
まるで初めて学校を訪れる新入生のように。
ヒュウと体を通り抜けていく北風は冷たいが、それすら心地よく感じた。
やがて学校が近付くと制服を着た生徒たちの姿が多くなる。
何人にも追い抜かれるが、彼女がそれを気にする様子はまったくなく、変わらずマイペースで歩き続けた。
ふとすると、後ろから息を切らし駆けて来る者がいる。
振り返るとそこに、自分を裏切った幼友達がいた。
「・・・・・裕、くん?」
彼女は不思議そうにつぶやいた。
多分彼女を見つけて、全速力で走ってきたのだろう。
彼は膝に手を乗せ、ゼエゼエと肩で息をしながら言った。
「お、おれっ!」
振り絞った声は予想以上に大きく、周りの生徒の何人もが驚き振り向いた。
彼はそれに気付き、少し恥ずかしそうに躊躇いながら言った。
「こ、この前、お前が廊下を走ってくの見たんだ。お前、俺らの話してたの聞いたのか?」
コクンと彼女は頷いた。
それを見て彼は、あぁ!と頭を抱えてしゃがみ込んでしまいそうな仕草をした。
「ち、違うんだ!あ、あれは、あいつらがあんなこというから、お、俺はそんなこと全然思ってなかったんだけど、でもあん時は仕方なく・・・・・」
必死に弁明を図るが、次第にそんな自分が情けなくなり、正面を向くことができなくなっていった。
今さらこんなことをいわれても、ただの言い訳にしか聞こえないだろう。
彼は、自分のしたことを改めて後悔した。そしてそれが取り返しのつかないことだとも感じた。
むしろ殴って欲しかった。
「最低!」「バカ!」「裏切り者!」など、詰ってもらったほうがよほど楽だった。
しかし彼の望みは空しく、彼女は何も言ってくれない。
彼も俯いたまま、顔を上げることすらできないでいた。
・・・・・。
いやな沈黙が流れる。
やはりもうダメなのか。もう自分の話を聞いてもらえることすら叶わないのか。
彼は、絶望に打ち拉がられながら、半ば諦めを感じつつ顔を上げた。
・・・・・彼女は、笑っていた。
「いいよ、もう。」
彼は、その場の状況がよく呑み込めずに呆然と立ち尽くした。
そして、予想だにしない彼女の応えに、「えっ?」と小さく声を洩らす。
そんな彼に優しく微笑みかけた彼女は、空を仰ぎ見ながらはっきりと言った。
「気にしてないし、気にしないで。それよりさ、早くしないと遅刻するよ!」
・・・・・・・・・・
校門をくぐり、校舎に入り、下駄箱から靴を取り出す。
「いたっ・・・」
靴を履こうとした瞬間、足の裏に鋭い痛みが走った。
脱いで中を見てみると、小さな針のようなものが数本飛び出ている。
そして、足の裏にはその一本が突き刺さっていた。
靴下から血がジワッと滲む。
しばらくそれを眺めていた彼女だったが、すぐに楽しそうに笑って言った。
「今どき、古典的だなー。高校になってもこんなことするわけ?」
傷む足を引きずりながら階段を上り教室に入ると、自分の机はさかさまになり、椅子がそれに乗っている。その机や椅子には、チョークで『バカ』『死ね』『キモイ』などと中傷の言葉がオンパレードだ。
それを見つめる彼女をクラス中が見て、クスクスと笑う。
きっと誰しも、彼女が泣きながらこの場を走り去ることを予想しただろう。
そしてそれを望んでいた。
だが彼女は、そんな彼らの予想と期待に反し、ゆっくりと自分の席に歩み寄り、椅子をどけ、机をなおすと、ハンカチで落書きを消し始めた。
唖然と見つめるクラスメイトたちに彼女は振り返ると、これまた満面の笑みでこう言った。
「おはよう、みんな!」
・・・・・・・・・・
“前向きに生きよう”
彼女のこの最後の選択は、これから生きていく上で最も厳しいものとなるかもしれない。
誰にも必ず訪れる“死”と違い、これからの彼女の人生に、幸せが訪れるとは限らないからだ。
それでも彼女は“生きる”という道を選んだ。
彼女は別に、これからの人生に希望を見出したわけではないと思う。
これから歩んでいく道もまた、苦難に満ちているものに違いない。
彼女もそれは分かっているはずだ。
しかしだからこそ、死という普遍の事象がまっているのなら、その日が来るまで精一杯生き続けてやろうと思ったのではないだろうか。
生きることは死ぬことの何倍も辛く、苦しい。
けれども、死という逃げ道がいつも傍らに存在することを感じていれば、こんな現実世界の出来事なんて、ひどくちっぽけなことに思えるだろう。
そしてどんな失敗にも苦しみにも、恐れることなく、安心して、大らかな気持ちで臨むことができるようになるのだ。
生きて、生きて、生きて、こんな自分を創ったモノに復讐をしてやれ。
生きて、生きて、生きて、こんな世界を創ったモノに復讐をしてやれ。
そして、いつかきっと・・・・・
「私は、彼女はこの先、きっと幸せになれると思います。
あなたももし人生に絶望したり、死にたいほどの困難に出会ったりしたなら、街が一望できるこの丘の上に来てください。
精一杯のカウンセリングをしてあげます。
報酬などいりませんよ。
・・・・・いえ、あなたが救われることが、私のなによりの報酬ですので。」
―終わり―
終わりました!
ここまで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございます!
どうやらこの作品が、私の処女作になってしまったようです。
他にも書いていたのですが、どれも中途半端になってしまっていて・・・・・
私の稚拙な文章表現力で、“生死”のような重いテーマを書くなんて、些か無謀な気もしていたのですが、なんとか最後まで書ききれました。
まぁ批判はいろいろあるでしょうが、とりあえず最終回までいってよかったです。
それだけで(自己)満足w
実際謙遜じゃなくて、つたない文章だったと思います。イジメとか、小学生でもあんなことやりませんよね。そんな私の思いが彼女の言葉にも表れています(笑)
そんなこんななので、私の言いたかったことが伝わったかどうかは分かりませんが(多分無理w)、とりあえず書きたいことは書けたかな、と思っています。
しかし、今の段階で、感想をくれた人が一人・・・というのはいやはやw
まぁそれは、“面白くない!”ということを如実に表していると謙虚に受け止めておいて・・・・・
いいんですよ。
自己満足のどこが悪いというんだー!!(開き直りw)
まぁこれから、もっとたくさんの人に衝撃を与えられるような小説を書いていきたいと思いますので、皆様、どうかよろしく長い目で見てやってください。
それでは最後にもう一度、最後まで読んで下さいまして、本当にありがとうございましたっ!!!