選択一、
爽やかな秋の午後。
木枯らしが、冬が近付いていることを暗示するかのように、葉の服を脱がされたもの寂しい木々を吹き抜けてゆく。春にはその華やかな色で見る者を楽しませる桜の並木も、今や数枚の葉がその冷たい風と必死に闘うだけである。
そんな並木の前に立つ小さな家に、黒い喪服を着た人がポツポツと入っていった。
しばらくすると、抑揚のない読経の声が聞こえてくる。
「自殺ですって」
「何でも学校で苛められていたそうじゃない」
「親や学校は気付いてあげられなかったのかしら」
「誰にも相談できなかったんでしょう?かわいそうに」
厳かな雰囲気に合わないこんな会話が入り混じった。
数時間が過ぎ、儀礼的な諸事を済ませた者たちは、乾いたようにバラバラと帰っていき、位牌が置かれた部屋には数人が残された。
そのうちの一人、まだ十代後半といった男の子がすすり泣いている。
そんな彼に、かなりやつれた様子の初老の女性が優しく肩に手をかけた。
「もういいのよ、裕くん・・・。」
その声には、はなはだ生気がこもっていない。
突然訪れた娘の死という悲劇を、未だ信じられない様子だった。
そんな彼女を見てその男の子は、わあと関を切ったように泣き出した。
「ち、ちがうんです!俺が、俺がもっと話を聞いてやれば・・・もっと親身になって相談してやればっ!こんなことには・・・・・な、ならなかった・・・・・!」
学校の屋上から飛び降りたその女の子は、体があらぬ様に曲がり、腸をはみ出させ、血まみれになって死んだが、不思議と顔は笑っていた。それはまるで、生前の苦しみからやっと解放されるのだという希望に満ち溢れているかのようだった。
自ら命を絶つという道。
他人から見れば、愚かな、軽薄な行動と捉われるかもしれぬ。
しかし、それが独善的な価値観であることは、死んだ彼女の顔を見ても明らかである。
彼女は人生の最後を“希望”という二文字で飾ったのだ!
さて、これは無数に存在する“道”の一つに過ぎない。
彼女は他の道を選択することもできたはずだ。
今度はそれも見てみよう。