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第9話



「兄さまの婚約者の方とご一緒するディナーて、

どんなドレスを着たらいいのかしら…?」




アリサは今日の食事会で来るドレス選びに苦戦していた。


クローゼットの中にはたくさんの服があるのはあるが、

客人と一緒に食事をすることが滅多にないので、

いざドレスを着ようと思っても、何を選べばいいのかさっぱりわからない。



「ねえ、ノーラ。どれにしたらいい?」



自分ではとても決められそうにないので、メイドのノーラに助けを求める。



「そうですね…。私が入手した情報によりますと、

婚約者の方はよくピンク色のドレスをお召しになるそうです。」

「私もピンク系が多いわね…。

相手の方と色が被ってはいけないでしょうから、他の色にしないと。」

「それが得策ですわ。後は、あまり華美でないものの方が良いと思います。」



家柄的にはアリサの家の方が格上だが、兄の婚約者、

つまりは自分の義姉になる人なのだから、ここはやはり目上の者を立てるべきだろう。


そう考えると、同じ色だったり相手よりも派手だと失礼かもしれない。






「どうせなら、普段あまり着ないようなドレスがいいわ。」

「では、こちらの青いドレスはいかがですか?」



ノーラがクローゼットから一着の青いドレスを取りだす。

薄めの青色で、生地を何枚も重ねており、ふわふわしている。


このドレスはシックなデザインなので、ちょうど良さそうだ。



「確か、このドレスって、兄さまから頂いたものだわ。」



1年程前にレイが、アリサもたまには違う雰囲気の服を着てみたらどうかと、

仕立ててくれたものだ。


大人っぽいデザインで素敵だと思ったが、

自分が着るにはまだ早いような気がして、数回ぐらいしか着ていなかった。



「これにするわ。」








「まあ!アリサさま、良くお似合いです!!」



そろそろ支度をしなければいけないということで、

アリサは選んだ青のドレスに着替えた。



「そうかしら…。私ドレスに着られている感じがするわ。

大人っぽいものはまだ、私には早いのかしら…。」

「いいえ、完璧に着こなしています!

色が濃いドレスがお似合いになるということは、

アリサさまはそれだけレディらしくなられたんですよ。

これからは、色が濃いものも着られるといいですわ。」



ノーラに促されて、アリサは鏡の前に立ってみる。

いつもの子供っぽい自分より、ちょっとだけ大人っぽく見えた。



「ほんの少しだけ、レディになれた気分ね。」

「謙遜されてはいけませんわ。とってもお似合いです。

私、ノーラが言うのですから、間違いはありません。」

「ノーラは私をのせるのが上手いわね。

なんだか、その気になってしまうわ。」



次はメイクと髪をセットしましょうと言われ、ノーラに任せる。

心なしか、ノーラは張り切っているようだ。



「張り切っているように見えるわよ、ノーラ?」

「ええ。アリサさまのおっしゃる通り、張り切っております。

レイさまの婚約者の方の手前、派手にはできませんが、

それでも、アリサさまの方が素敵だというアピールをしなくてはいけませんわ。」

「アピール?」



一体どこに向けてアリサをアピールする気なのだろうか。



「婚約者の方と、その侍女にです。あと、レイさまにも。」

「どうして?」

「あちらの方々に、うちにはアリサさまというお綺麗な妹君が居ると、

自慢したいからです。」

「自慢って…。」

「そして、私はあちらの方々が悔しがる姿を見たいんです!

これは、侍女としてのプライドがかかっていますので、私も腕が鳴りますわ!」



つまりは、単純に自分の腕試しをしたいということだろうか…。

意外とノーラは野心家なんだとアリサは思った。



「そっ、そう…頑張ってね…。でも、兄さまは別にいいんじゃないの?

毎日のように顔を合わせているのに、いまさらアピールする必要なんて…」

「ありますわ!

“やっぱり、妹は可愛くて奇麗だな”って思っていただきたいんです。

そしたら、レイさまが新しいドレスを、

買ってくださるかもしれないじゃないですか?」

「…計算してるのね、ノーラ。」

「もちろんです。……それに。」



勢いよく話していたノーラの口調がおとなしくなった。



「…レイさまがアリサさま以外の方と懇意にするのは、正直、嫌ですわ…。」



なぜか、悲しそうな表情をしている。



「ノーラ?」

「レイさまがご結婚されたら、アリサさまのことを気に掛けて、

心配してくださる方が減ってしまいます…。

旦那様と奥様もアリサさまのことを考えてらっしゃるのは存じてますが、

アリサさまの傍にいる時間はほとんどないです…。」

「そうね…。」

「しかし、レイさまはどんなに忙しくても、

アリサさまと過ごすように時間を作ってくださいます。」



この前倒れたときも、結局ずっとアリサの傍に居てくれたのはレイだった。

目覚めた時に、一人では寂しだろうからと、そんなことまで気に掛けてくれる。



「細部までアリサさまのことを思い、大切にできるのは、

レイさま以外にはいませんわ…。

いつも傍に居る私達メイドよりも、レイさまのほうが気配りできるなんて…。

少々、妬いてしまいますもの。」



ノーラは苦笑するが、アリサはまさかノーラがそんな風に、

自分達兄妹のことを気に掛けていたとは思わなかった…。


ただ、世話をするだけのメイドとは違って、

彼女にはそこに愛情があるのだと知り、嬉しくなる。



「嬉しいわ…。ノーラがそこまで考えてくれていたなんて…。」

「すみません。余計なことをペラペラと話してしまいました。」

「ううん。ありがとう。」



髪を結っているノーラを少し振り返り、アリサは笑顔を見せる。



「私は大丈夫よ。

兄さまが結婚しても、ノーラ達が居てくれたら寂しくないわ。」



本音では兄が居なくなる寂しさもあるが、

他にもアリサを大切にしてくれる人が居ると知っているので、大丈夫だろう…。



だから、安心してレイには結婚してもらって、

幸せな家庭を築いてもらいたいのだ。






だが、

「…レイさまは、きっとアリサさまが居ないと大丈夫ではないわ……」

と言ったノーラの声はアリサには聞こえなかった。


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