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第3話

“愛してる”



突然こんなことを言ったら驚くだろうか…。


喜ぶ?悲しむ??

それとも…。


拒絶して、二度と顔も見たくないと言うだろうか……?



今まで自分を押し殺し、感情をひた隠しにしてきたが、

そろそろ限界が近い。


この凶器にも似た思いは、今にも顔を出しそうだ……。



例え、拒んで逃げようとも、離れられないように自分に縛りつける…。

どんなに嫌がっても決して逃がしはしない。


どうせ引き返せない道ならば…、堕ちるところまで堕ちるのみ……。









レイは今から仕事があるからと言って出掛けて行った。



アリサの家は父が公爵の位を持つ、由緒正しい名家だ。

父は貴族議員として議会にも出席している。


そして母は公爵夫人として、

他の貴族の御夫人達とお茶会などの催しに勤しんでおり、

それなりに忙しいようだ。


兄のレイは家の跡取りとして、父の仕事に付き合ったり、

統括する領地の視察を行っている。




家族がそれぞれの役割をこなしているのに対し、

アリサは日々、屋敷の中でひっそりと生活している状況だ。


身体の弱いアリサに出来ることといったら、

庭の手入れと刺繍ぐらいしかない。



まだ子供だった頃は自分の役割など考えてもいなかったが、

いつまでも鈍感な子供のままではない。


自分がこの家にとって、何の役にも立たない厄介な存在であると、

いつからか気付いてしまった。



身体が丈夫であれば、お茶会や社交界に出席して、

人脈を広げたりもできる。



そして、貴族の娘の最も大切な役割で義務である結婚も…。



少し動いただけで倒れてしまう貧弱な娘など、貰い手もないだろう。



このままでは、

いずれレイの世話になることは避けられないかもしれない。


今は問題なくても、レイが結婚して家庭を作ったら、

アリサが邪魔になって疎ましく思うようになる日も来るかもしれない。




そう遠くない未来を想像するだけで、滅入ってしまう。



「私がこれから生きる意味ってあるのかしら…。

存在する意味ってあるのかしら…?」



思い通りにならない自分の身体が煩わしくて仕方ない…。








「…サ。…アリサ。アリサ。」



肩をゆさゆさと揺らされているのに気付いて、アリサは目を開けた。



「アリサ。」

「…兄さま。」



高かった太陽が随分と傾いている。

もう夕方のようだ。



「机に伏せて寝るな。」

「やだ…。私、うたた寝していたみたい…。」



あれこれと考えているうちに、どうやら眠ってしまっていたらしい。

アリサが使っている机の横には、レイが腕を組んで立っている。



「兄さま。お帰りなさい。」

「ただいま。

窓を開けっ放しにして居眠りするなと、いつも言っているだろう?

風邪でも引いたらどうするんだ。」



何か考え事をする時は、

ついつい居眠りをしてしまうのがアリサの悪いクセだ。


そのせいで実際に風邪を引いたことがあるので、レイは怒っているようだ。



「…すみません、兄さま。気をつけます…。」



しゅんとしてレイに謝ると、レイはアリサの頭を撫でた。



「お前のことが心配だから、口煩く言っているんだ。

倒れられでもしたら、俺は心臓が止まりそうなぐらいひやひやする…。」



レイの表情を見ても、アリサを心配していることが伺える。




「いつまでも兄さまに心配を掛けているようでは、

安心して兄さまが結婚できないわね…。」






アリサの頭を優しく撫でていた手の動きが、ぴたりと止まった。


会話の流れから、何気なく言った言葉だ。



「どうかしました?」



顔を上げて、レイの方を見る。



「…!?」



その表情を見て、アリサは凍りついた。

レイは笑っている。



しかしそれは、

ぞっとする程冷たい瞳でアリサを嘲笑するような笑い方だった。








レイのこんな笑い方など見たことない。


…まるで悪魔が、哀れな人間を見下しているかのようだ。



「兄…さま……。」



なんとか声を搾り出した。

自分の目の前にいるのは、本当に兄なのだろうか。



「アリサ…。」



頭の上に置かれていたままだった手が、髪の上を滑っていき、頬へと触れる。






「お前はどこまでも純粋で無邪気で…、とても残酷だ……。」






風が頬を撫でるように、レイの手が離れた。


レイはアリサに背を向けて、部屋のドアを開けると、

少しだけ顔を後ろに動かした。



「夕食の時間だから、ダイニングルームへ…。

父さんと母さんも居るから早く来い。」



その表情まではわからなかった。

アリサに告げると、そのまま部屋を出て行った。






レイが出て行ったドアをアリサは見つめたまま、まだ固まっている。



「…あの人は誰なの?」



知らない。見たことない。



「兄さまではない…。

だって兄さまは絶対にあんな顔しないもの…。

きっと気のせいだわ。私が寝ボケて、そんな風に見えただけ……。」



それしか考えられない。



あの優しい兄が、あんな恐い笑い方などするはずないのだから…。


きっと自分の目がおかしかっただけだ……。

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