表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/27

第24話


屋敷の手前まできたので、降ろしてもらおうと思いレイに打診してみたが、

「このほうが早いだろう」と言われてしまったため、

結局最後までレイにおぶられて屋敷へと帰ってきた。


玄関の外には、帰りが遅い二人を心配してノーラが待っていてくれた。

レイにおぶられているアリサの姿を発見すると、一目散に駆け寄ってくる。



「アリサさま!どうされたんですっ!」

「…心配かけてごめんなさい、ノーラ。

少し無理をしてしまって、動けなくなっていたところに兄さまが来てくださったの。

でも、もう大丈夫だから。」



本当にもう体はなんともなかったので、心配しないでとノーラに微笑んだ。

アリサのその言葉に安堵したノーラだったが、一呼吸置いて、次は怒り始める。



「大体、アリサさまはご自分の体調に関して、無頓着過ぎますよ!

周りに迷惑を掛けたくないというお心遣いは嬉しいですが、

逆に無理をして、体調を崩されては余計に心配してしまいます。」

「兄さまにもさっき同じようなことを言われて…」

「レイさまも同じお考えならなおさらです!

これからは絶対に無理をなさらずに早めにお知らせくださいまし。それから…」



アリサの返答を待たずに次々とお説教の言葉が飛び出してくる。


しかし、ノーラに怒られているのに、アリサは嬉しい気持ちでいっぱいだった。

こうやって叱ってくれるのも、自分のことを心配して、

なおかつ大切にしてくれているからなのだと思うと、お説教をされても嫌な気持ちにはならなかった。


逆に自分の存在を認めてもらえているような気がして嬉しいのだ。






「説教はそれぐらいにしておけ、ノーラ。

先生がいらっしゃっているから俺達を待っていたんだろう?」



これまで黙って聞いていたレイが口を開く。



「そうでした!もういらっしゃっていますわ。」



あまりに説教に夢中になって、本来の自分の仕事をわすれかけていたノーラだったが、

レイの一言でどうやら思い出したらしい。

アリサが、こうしてレイにおぶられながらも急いで帰ってきたのも定期検診があるからだった。



「とりあえず、応接室でお待ちいただいております。」



ノーラが屋敷の玄関のドアを開いて、二人に中へ入るように促す。



「俺はこのままアリサの部屋へアリサを連れて行くから、

先生をそちらまでお連れしてくれ。」

「畏まりました。」



レイはアリサをおぶったまま、二階にあるアリサの部屋へと向かった。






自室に戻ってしばらくすると、部屋をコンコンとノックをする音が聞こえてきた。



「アリサさま。入ってもよろしいかな?」

「どうぞ、お入りになってください。」



低くしわがれた声の持ち主はゆっくりとした動作でドアを開けて、

部屋に入ってきた。

白衣をきた男性を見ると、アリサは座っていた椅子から立ち上がって、

頭を下げる。



「先生戻るのが遅くなって、大変申し訳ありません。」

「いやいや。お気になさらずに。

年寄りは言われた時間より早めに来る悪いクセがあるもので、

今日も早めに来てしまったのですよ。」



アリサが幼いころからお世話になっている主治医は、人当たりのよい老人で、

とても温厚な人だ。

歳を取ってはいても、この辺りではかなり有名な名医であり、

アリサのみならず、多くの貴族のお抱えの医者でもあるので、

毎日の往診でとても忙しいようだ。


アリサの傍に居たレイが、先生に椅子を差し出す。



「どうぞ、お掛けになってください。

診察の邪魔になるので、俺は応接室にいます。」

「では、後で参りましょう。」

「アリサのことをお願いします。」



レイは、先生に一礼するとアリサの部屋を出て行った。

扉がバタンと閉まったのを確認すると同時に先生がクスリと笑う。


今の一連の会話の中で何か面白い事があったのだろうかと、アリサが訝しんでいると、

先生は持ってきた大きなカバンから聴診器を取り出しながら、

「相変わらずですね」とアリサに向き直って言う。



「昔からレイ様は本当にアリサ様のことに関しては過保護ですね。」

「過保護というか、単に私が無茶をしないか心配してるだけですよ。」



いつも、アリサの診察の時にはレイも用事を作らずに一緒にいてくれるのだ。

診察中は傍にはいないが、診察後は必ず先生にアリサの状態を聞いているらしい。



「いやいや、心配をしてくれる優しい兄上がいらっしゃって、

アリサさまは幸せですよ。」

「ええ。いつも兄さまには感謝しています。」



先程も体調が悪くなり動けなくなったところを迎えにきてくれ、

おぶって連れ帰ってもらったのだと先生に説明した。

それを聞いた先生は顎に手を当てて、「ふむ」と少し考える素振りを見せる。



「アリサさま、発作が起きるようになるまで無理をしてはいけません。

発作が来るたびにあなたの命を縮めてしまいますよ?」

「…すみません。」



レイやノーラにも同じことを言われたが、

やはり医者に言われると余計に気を付けなければと思わされる。

しゅんとして俯くアリサに「少し大げさに言いすぎましたかね」と言って、

先生は微笑んだ。



「まあ、いずれにしてもあまり無茶はしないようにしてくださいね。」

「はい。わかりました。」



先生の言う通り、自分の体調は自分で管理しなければとアリサは思った。

自分の事を大切にしてくれる人のためにも、なるべく心配や迷惑はかけたくない。


(これから外に出る時は、家の周りの庭だけにしないと…)


窓の外へ視線を向けると、美しい庭がどこまでも広がっている。





今までこの広大な庭だけが、アリサが知る唯一の外の世界だったが、

その世界も、自分の体調が悪くなるにつれて、徐々に狭まっていくことがとても悲しかった。


(いつかは、外にも出られなくなるのかしら…?)





鳥かごの中の鳥なら、かごを開ければ自由に羽ばたけるが、

羽をもたない自分は鳥かごの鳥にもなれない……。


ただの体の弱い、可哀想な人間なのだ………。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ