第22話
花の手入れが終わり、これ以上することもなくなったので、
アリサは部屋に戻ることにした。
屋敷に広がる広大な庭を歩いて行く。
庭から屋敷までは、急な坂があるわけでもない平坦な道だが、
アリサは息を乱していた。
「はぁ…。」
庭からまだ数十メートルほどしか歩いていないのに、
全力で走りきった後のような疲労感を感じる。
息を上げながらもしばらくは歩みを進めていたが、
ついには立っていることさえ辛くなってきた。
辺りを見回すとちょうど近くに東屋があったので、
ひとまずそちらに移動して休憩を取ることにした。
六角形の小さな屋根の東屋には簡素なテーブルとチェアが置かれている。
アリサはチェアを引いて腰を降ろす。
動きを止めたおかげで、さっきよりは幾分、気分が楽になったようだ。
「私ったら知らない間にすっかりおばあさんだわ…。」
一人苦笑する。
ついこの前までは、普通に歩けていたこの道も、
最近では休みながらでないとまともに歩けなくなってきている。
「確実に体力が落ちてきてる…。」
気持ちでは全然疲れてはいないのに、
それとうらはらに身体が思うようにならない。
自分の意志ではどうにも出来なくなっている。
つまりは、それだけ病も進行してきているという意味なんだろう。
ただそれだけのことだ……。。
俯いて物思いにふけっていると「アリサ」と急に名前を呼ばれた。
傾いていた頭を起こすと、
アリサが座っている向かい側のチェアの前にレイが立っていた。
「兄さま…。」
「帰りが遅いから迎えにきた。どうかしたのか。」
誰もいないところでまたアリサの発作が起きたらいけないので、
例え屋敷内でも自室から出て他の場所へと移動する場合は、
必ずノーラに報告を行うようレイに言われていた。
今日も庭に出るとあらかじめノーラに言ってから来たので、
レイはそれを聞いて迎えに来てくれたのだろう。
「いえ…特に……。今から戻ろうと思っていたところです。」
体調が悪くなって休憩していたと素直に言ってしまったら、
レイが余計心配するだろうと思ったので本当のことは言わない。
「…そうか。今日はお前の診察日で先生がいらっしゃるから、
早く呼びにいった方がいいかと思ってな。」
「あ…そうだった。今日は診察の日だったわ。忘れてました。」
一月に一度、アリサの主治医が訪問診察を行ってくれているのだが、
今日がその日だとすっかり忘れてしまっていた。
「だろうと思ったよ。
お前はしっかりしてるようで意外とぬけてるところがあるからな。」
「もうっ。一言余計よ!兄さま!」
クスクスと笑うレイにアリサはムッとするが、
レイと以前のように普通に話せていることに気付く。
(ちゃんと話せてる…)
なんとなく最近は二人の間に距離を感じていたので、
今こうして何も気にせず会話ができていることが嬉しい。
「早く戻ろう。」
そう言ってアリサを帰るように促すが、
アリサはまだ、けだるさを感じて動けない。
(早く立ち上がらないと…。)
すぐに立ち上がらなければレイが不振に思うだろうから、
なんとか奮起して椅子から立ち上がる。
しかし、足に十分な力が入らず、ふらついて倒れそうになる。
「あっ…。」
アリサの動作に気付いたレイが横に回り込んで、
倒れる寸前のアリサの肩を支えた。