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第19話


静かな午後の教会に、別れを告げる悲しい鐘が鳴り響く。

ひどく重厚なその音は、アリサの心の奥にまで届くようだった。





祭壇の中央に置かれた白い棺。

アリサは少しずつ歩を進め、棺へと近づいていく。


前まで来ると目をぎゅっと瞑る。

そして、うっすらと目を開いていくと、よく見慣れた顔が映った。


でも、何かが違う。



本当はもっと優しくて、温かみのある表情のはずなのに、

まるで人形のように無機質で、冷たい表情をしている。


それにこんなに近くにいるのに、なぜか遠く感じる。



“そうだ…。ここには居ないんだわ……。”



アリサはぼんやりと状況を頭の中で確認していく。

父は、もう死んでしまったのだと…。






父が亡くなってから1週間が経過していた。


詳しく死因を調べるために葬儀が先延ばしになっていたが、

検死も終わったため、ようやく今日の運びとなった。


警察が父を殺した犯人を探してはいるものの、特に捜査に進展はないようである。


パーティー中に起きた出来事にも関わらず、誰一人として目撃者がいなかった。

父を殺した犯人は、大勢の客人が居る中で完璧な犯罪をしたのだ…。






父の亡骸をじっと見つめる。



“誰が父さまをこんな目に合わせたの?”



心の中で問いかけても、いっこうに返事はない。



“犯人が分からないまま…このまま終わってしまうの?”



これでいいわけがない。

納得できるはずがない。



胸の前で恭しく組まれている父の青白く冷たい手に、

アリサは手袋をはめた手でそっと触れる。



「……誰が許しても、私だけは許しはしないわ。」



今もなお、のうのうと生きている憎き犯人を………。







葬儀が終わり、父は近くの霊園に埋葬され、

アリサは、一人墓地の近くにある公園へとやってきた。

 

家の敷地以外の外へ出たのはいつぶりだろうか…?


久しぶりの外出が父の葬儀になるとは思っていもいなかった。



特に目的もないまま、とぼとぼと歩いていくと、池が見えてきた。

そして、そこには兄のレイが佇んでいた。


先程から姿が見えないと思っていたら、ここへ来ていたようだ。



アリサは、レイに声を掛けようと更に歩みを進めたが、

一、二歩ですぐに足を止めた。





“………え?”



アリサに背を向けているので、レイの顔全てを確認できないが、

ちらっと見えるその横顔を見て、驚いた。



“笑って…る……?”




唇の端が僅かながらに吊り上っているその顔はまるで……。


楽しい事や嬉しいことがあったような表情だった。





きっと普段なら“何かいいことでもあったのだろうか”程度に受け流すことだが、

今日はとてもそんな出来事がレイに起こったとは思えない。



“だって…、今日は父さまとのお別れの日でしょう……?”



逆だ。

笑いではなく、悲しみのはず…。



“まさか…嬉しいの……?父さまが死んで……??”





そう思った途端、アリサの身体に悪寒が走る。

暖かな日差しの中にいるのにも関わらず、両腕を摩ってしまう程の寒気を感じた。






同時に、とてつもない恐怖をおぼえる。



前に進めていた足を一歩、後ろへと下げた。

頭では何も考えていないのに、身体が前へ…レイへと進むことを拒絶している。


早くこの場を去ろうとした瞬間に「…アリサ?」と声を掛けられた。



「…!?」



レイからのいきなりの呼び掛けにアリサの身体は心臓ごと跳ねるように、

びくっと動いた。



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