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第17話



“先程、旦那様がお亡くなりになりました”





ノーラは、今自分にそう言わなかっただろうか?


この家の“旦那様”に当てはまる人物は“父”だけ…。





「…え?まさか、何かの冗談でしょう?」



いきなりそんなことを言われて信じられる訳がないし、

何より、アリサとは違って身体が丈夫な父が死ぬなどあり得ない。



今日の朝も父は、「おはよう」と優しく笑っていて、

元気そのものだったはず。



「ノーラ、何か聞き間違いでもしているんじゃないの?

私よりも元気な父さまがそんなこと…」



誰か別の人と勘違いでもしているのではないかと、

ノーラに確認をしようとしたが、言葉は途中で途切れる。



普段は笑顔を絶やさないノーラが、目に涙を浮かべていた。



彼女とは長い付き合いだが、これまでアリサの前で弱気な表情など、

一つも見せたことはないのに今のノーラは弱々しくて、頼りなく見える。




「…まさか、本当なの…?」




きっと何かの間違いだと思っていたが、ノーラの表情や態度から、

この話が真実味を増してきた。


“あり得ない”と思っていたことが、起こりうる事態に…。






「違うわよね…?父さまじゃないわよね…??」



再度尋ねるアリサを、ノーラは覗きこむように見ていたが、

目をそらして首を横に振った。



縦に振らずに、横に振ったということは…つまり…。




「…パーティーへ出席中にお亡くなりになられたそうです。」

「…!?」




本当だった…。


父が亡くなった……。




「そ…んな…!!」




はっきりと見えていたノーラの顔が突如霞んでしまったかと思えば、

涙が溢れてきた。



「ど…して…?なんで、と…さま…!!」



一度溢れだした涙は、

止まることを知らずアリサの頬を次々と伝い落ちて行く。



突然パーティー会場で父が亡くなるなんて、想像がつくわけがない。

ましてや元気そのものだった人に限って…。


誰がこの事態を予想できたというのだろうか…?




「…と…さま……!!」




頬を伝い落ちた滴は、アリサのスカートにいくつものシミをつくっていく。



スカートにできるシミと比例するように、徐々に息が上がり、

胸が苦しくなる。






泣き過ぎて息も上手く吸えないまま、頭痛がしたかと思えば、

めまいで目の前が真っ白になり、身体の力が抜けてしまった…。



「…っ。」




わけがわからない…。

誰かこの状況を説明してほしい…。




「アリサさま!」



ノーラの声が聞こえたが、

声に出して返事もできず、そのまま意識を手放してしまった……。








目覚めるとベッドの上に居た。


アリサは上体を起こそうとするが、身体が重怠く動かせない。

それに、ひどく頭が痛い気がする。



「アリサ…。」



自分の名を呼ばれて、声のしたドアの方を見ると、

レイが部屋に入ってきているところだった。



「大丈夫か?」



気遣わしげに問うレイの服装は、パーティーに出席するような外出着である。



“パーティー……”



アリサはようやく体調不良と今の状況の理由を思い出す。



“パーティー会場で父さまが……”



どうなったのかノーラに聞いて真実がわかっているのに、

それでもレイに尋ねずにはいられない。


この期に及んでもまだ、嘘なのではないかと思うのだ。



「兄さま…。父さまは生きていらっしゃいますよね…?」



レイはベッドの横にある椅子に座り、アリサへと目を向ける。


アリサはもう一度兄の口から真実を確かめるため、

目をそらさずにじっと見つめる。



「信じられないかもしれないが…。父さんは確かに死んだ。

俺たちの目の前、パーティー会場でな…。」



真摯に見つめるアリサの視線を横へと受け流して、レイは俯いた。



「父さま……。」



父と一緒に居たレイが言うのだから、間違いない。

最後の望みも打ち砕かれてしまった。



「ど…して…?兄さま…。なぜ、父さまが……?」



止まっていた涙が再び溢れだす。

アリサは両手で顔を覆い、身体を震わせる。



「アリサ…。」



しゃくり上げながら泣くアリサの頭をレイは大きな手で、

包み込むように優しく撫でた。



「なぜなの…?父さまに一体何があったの……?」



顔を覆っていた手を外して、顔をレイへと向ける。


父の最後の瞬間に一緒に居たレイならわかるはずだ。

一体何が原因で死んでしまったのか…。



「おしえて…。父さまに何が起きたのか……。」

「……。」



アリサの質問にレイは口ごもる。


わからないことならすぐに何でも教えてくれるのに、レイは答えようとしない。



「兄さまが見たままのことを教えて…。」



父の最後を知りたい。

大切な家族なのだから、そう思うのは当然のことだ。


レイはアリサの頬を伝う涙を拭ってやり、息を小さく吐いた。



「…父さんは急病で死んだことになっているが、それは違う。」

「違う…?」



急病で死んでしまったのだろうかと考えていたが、

どうやらそうではないらしい。


レイの意味ありげな言い方にアリサは胸騒ぎを感じる。







「誰かに殺されたんだ……。」

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